ألفية ابن مالك
イブン・マーリクの文法詩
詩の行数と詩の題名
アラビア語で「千」を意味する ألف に連なる言葉として
ألفية
という題名を詩に付けたのではないかと思われますが、どうしてそこに辿り着いたのでしょうか。吉町義雄先生が翻訳として、「イブン・マーリクの千一行詩亞
語文法」を発表していらっしゃいます。私はその題名を見たときに、千夜一夜物語の千と一からとったのだろうか、と思いました。それまでは千行から成る詩の
意だと思っていたので、仮に「イブン・マーリクの千行詩」と訳して手元に置いておいたものでし
た。千行なのか、それとも千一行なのか、または全く異なる別の謂れがあるのでしょうか。コンピュータのハイパーテキストファイルに書き写した後、この詩の
行数を数え
て番号を割り振ってみたところ、ぴったり千行に収まっていました。行数の数え間違いの可能性はまだ残っていますが、イブン・マーリクが千行という行数制限
を己に課してこの詩を著したことが分かります。
エジプトの文学者タハ・フサインが、子供の頃にクルアーンとこの文法詩を暗唱してアラビア語を修めたくだりが『歳月の流れ』に書き
記されています。イブン・マーリクの文法詩は文法を覚えるのに用いられていたようです。イブン・マーリクが今も生きていたならば、この詩の題名に ألفية
と付けたのはなぜなのか、聞いてみたいところです。 ألف
には「千」という数字の意味のほかに、「慣れ親しむ」という意味もあります。暗唱できるようになるまで慣れ親しむのは、文法を一通り覚えるには良い方法か
もしれません。ちなみに、漢字文化圏には、中国の簡体字ではなく伝統的な漢字を子供が覚える際に習っていた、「千字文」というひと
くだりの経典があります。これは今でも書道を学ぶ際に用いられているようです。また、玄奘の著した『大唐西域記』という書物には、インドの言語学者パーニ
ニが千頌から成る詩を書いていることが記されています。「千」という単位は覚えるのに最適なのでしょうか。
イブン・マーリクより数世代前のマグリブことモロッコの言語学者、イブン・ムウティーも「アラビア語の
知識におけるアルフィーヤの真珠」と訳題を付けられる著作を出していることが固有名詞事典の المنجد
に記載されています。今、便宜的にアルフィーヤと訳しましたが、「アラビア語の知識における千の真珠」とも訳せるので、やはり
ألفية は
千という区切りを表しているのではないかと思われます。タハ・フセインによればイブン・マーリクはイブン・ムウティーの著作を超える作品を著そうと意気込
んでいたそうです。イブン・ムウティーがどのような影響をイブン・マーリクに与えたのか、また13世紀のアンダルス地方、マグリブ地方の言語学の状況を知
るためにも、イブン・ムウティーの著作をいつか読んでみたいとも思うのでした。
2008.9.16
2011.8.25追記
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