はじめに
中東にはぜひ一度、行ってみたかった。そもそも、大学のアラビア語学科自体、留学したり短期で旅行に行っている人ばかりだったので、せめて卒業までには行ってみたかったのである。その頃は、今よりもはるかに真面目で、高校に通って大学に行って学問をして就職して働いて、ということしか考えていなかった。それで、4年になって、その当時の就職も決まり、卒業単位も全て取得してしまった後、空白の数ヶ月が残ったときに、まず思い浮かんだのは、何がなんでも現地に行ってみなくては、始まらない、始まらない、ということだった。地球の歩き方・モロッコ編も出ていて、ひととおりそれを見れば支度が整う、ということもあったし、格安航空券なるものも出まわっていて、資金の乏しい学生であっても遠くへ行くことができる、ということもあった。そして、なぜモロッコか、という点であるが、まずある程度なんとかなりそうな言語が英語とアラビア語とフランス語であり、モロッコでは公用語としてアラビア語とフランス語が指定されていた、ということが挙げられる。次に、3年次でモロッコの文化人類学についての講義を聴講していたので、知識としてはそれなりの蓄えがあったけれども、実際にはどのようなところなのだろう、という現実とのすり合わせをしてみたい好奇心があった。特に、肩書きをもたない素の旅行者として行った場合、何が起こるか、という点に興味があったのは事実である。
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