CNGバスというのは、普通のバスは概ね軽油を燃料としているのに対して、圧縮天然ガスを燃料として走らせているバスのことです。
1994年に初めて実用試験が開始され、東京都・川崎市・横浜市・京都市・大阪市・神戸市・福岡市(西日本鉄道)で運行を開始しています。現在では、北海道から九州まで、都市部を中心に仲間が活躍しています。
低公害バスとしては、現時点では最も優れているものですが、以下のような長所と短所があります。
長所
- 排出ガスが非常にクリーン
窒素化合物は60〜70%軽減
硫黄酸化物は100%軽減(つまりゼロ)
黒煙は100%軽減(つまりゼロ)- 燃料に水素を多く含み二酸化炭素の排出量が少ない
二酸化炭素は20〜30%軽減- ディーゼルエンジンに比べて静かで振動も少ない
室内騒音は5〜6%軽減短所
- 1回の充填での走行距離が短い
- ガスの供給が可能な施設が少ない
- エコステーションの整備費用が高い
- 車両価格が高い
- 燃費が高い
※エコステーションとは、圧縮天然ガスを供給するスタンドのことで、都市部にはガス会社が経営するエコステーションがありますが、富士山周辺にはありません。 短所の中でも、エコステーションの整備に費用がかかる(富士急のエコステーションは1億1300万円かかっています)のが難点で、あまりにも費用がかかるために、公営交通でさえ、川崎市のように、当初は自前の設備を持たずに、既存のエコステーションを使用した事業者もあり(現在は塩浜営業所に施設ができています)、なかなか広まっていません。
公営交通には次第に広まりつつありますが、まだまだ低公害バス全体から見れば、少数派なのです。もちろん、100台以上保有する東京都のような例もありますが、横浜市・大阪市でかなりの台数を保有しているほかは、どの事業者もさほど台数は多くありません。全般的には、都市部で見かけることが多いです。
そんな中、富士登山バスを運行している富士急行が、登山バスに低公害バスを導入することになりました。ご存知の方も多いとは思いますが、河口湖から富士山五合目までの「富士スバルライン」は、大型バスの排気ガスによる環境破壊が問題となっていたところ。いくらマイカー規制などで、通過台数を少なくしたところで、乗り換えたバスが黒煙を上げているのでは、全然説得力がありませんから、低公害バスの導入は急務でした。
そのようなわけで、富士急行に低公害バスが導入されることになったのですが、低公害バスというものは、その特徴と引き換えに、性能がある程度ダウンしているのが普通でした。都市部の走行であれば問題ないのですが、富士登山バスの場合は、最大8%(静岡県側では9.6%)という急な上り坂が延々続き、とても軽油燃料による低公害バスでは用を成さないのでした。
そこで、CNGバスに白羽の矢が立ったのでした。燃費はディーゼル車の2.4倍、車両価格も1.7倍と、高価ではあります(実際には、運輸省や環境庁などから補助がありますし、山梨県の場合は県からの補助金もあります)が、富士登山バスを運行するには、登坂性能は無視することはできなかったのです。なにしろ、燃料を根本から見なおした形になるCNGバスは、他の低公害バスと違い、低公害たり得るための特別な装備は全くありません。単純に「燃料が軽油から圧縮天然ガスに変わっただけ」なのです。
そして、1995年から、CNGバスが富士山麓での運行を開始したのでした。山梨県・静岡県に1台ずつ配置され、期待通りの成果をあげました。
しかし、都市部でさえインフラ整備が追いついていない現状で、富士山麓に天然ガスステーションがあるはずもなく、当初は横浜市鶴見区からトラックでガスを陸送していました。しかし、1回のトラック便ではバス2台分のガスしか搬送できず、そのトラックの燃料代などがかさみ、軽油の約20倍ものコストがかかってしまう上、低公害バスを走らせるためにトラックを走らせるのも矛盾とも言えるとの考え方から、1996年に、系列会社が営業する富士急ハイランド内のガソリンスタンドに、エコステーションが併設されたのでした。もちろん、民間ベースでエコステーションを設置したのは、富士急行が初めてです。その後、富士急のCNGバスは、着実に台数を増やし、現在は29台が富士山麓で、東京都区内ではコミュニティバス用に8台が導入され、活躍しています。この台数は、CNGバス保有事業者としては東京都・横浜市・大阪市・京都市に次ぐ5位、民間事業者では最大規模という数字なのです(なお、同じ山梨県内で、山梨交通が17台導入しており、一社単独では山梨交通が最大ユーザーとなっています。甲府では2社のCNGバスが離合するシーンも見られます)。
これからも、富士山麓を中心に、着実に仲間を増やしながら走ることでしょう。
富士急行が配布しているCNGバスのパンフレット
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