【光和堂通信】第40号2006年冬季号(Vol.11,No.2)2006.3.3
[予防と早期治療のために]

 瑞気集門
 書道を習い始めて数年になります。正月の題目は、この「瑞気集門(ずいきしゅ うもん)」でした。「めでたい運気が家の門に集まりにぎわう」という意で、縁起 のよい言葉です。月に一度の稽古ですが、欧陽詢の「九成宮醴泉銘」では腕をカク カクさせ楷書に挑戦し、王義之の「蘭亭序」では運筆に惑いながら臨写しました。 といっても冒頭部分までです。
 墨の香りと文人墨客の世界に憧れて始めたのですが、いかに自分が書字に対して いい加減であったか最近反省しています。自分の筆順の誤りを幾つも発見しました。 筆順が違うと字形も違ってくる。これが読めない字を書く原因のようです。でも慣 れてくると読めてくる。東大のある教授の字は読み難いことで有名です。最初の頃 は解読に随分苦労しましたが、今はほとんど短時間で判読でき、最近では私に解読 を依頼してくる研究仲間もおります。これはその教授の字に慣れたこともあります が、文脈から内容を推測出来るようになったことも大きな要因でしょう。
 書について感じたことは、書そのものは紙に書かれた平面でしか過ぎないもので すが、どうやら空間と時間の三次元プラス時間軸という四次元の世界を、書を通し て平面の二次元に表現した産物であるということです。
 上野で開催された「書の至宝展」に足を運びました。人だかりの中背後から、名 筆を垣間見てきました。書かれた結果である平面の作品だけなく、何百年も前のそ の字を書いている瞬間その姿を見たく思いました。書の道を究めた人には、書を見 て書いている姿が思い浮かぶのでしょう。
 先日、本屋で「戦国武将の養生訓」(山崎光夫著)と題する新書を見つけました。 戦国時代から安土桃山時代に生きた医者曲直瀬(まなせ)道三(どうざん)が1588 年に記した「養生(ようじょう)誹諧(はいかい)」を紹介した本です。曲直瀬道三は 江戸時代に開花する日本漢方の礎を築き上た人で、たくさんの医書を遺しています。 織田信長、豊臣秀吉、徳川家康を診る一方で庶民にも施薬し、分け隔てなく人々を 癒し、82歳まで活躍しました。
 誹諧とは連歌から発展し滑稽味ある内容を詠み込んだ和歌で、五七五七七版の川 柳といったところでしょうか。その中から数首を紹介します。
「飲食の うゑやむるをば 皆知て やまふをいやす 薬あふかず」
 節度ある飲食は、病を癒し薬がいらない。医食同源の発想は戦国の日本にすでに あったのです。
「のむ薬 頼みをかけて 何事も つつしまざれは そのかひもなし」
 薬に頼るだけで、不摂生をしていたのでは、その甲斐もない。
「さしも草 もゆる思ひと 針薬 くるしまんより かねて謹しめ」
 さしも草は、もぐさでお灸のこと。お灸の熱さや鍼で痛い思いをするより、日ご ろ養生しなさい。
「酒とても よはぬ程にて 愁(うれい)さり 心をたすけ 気もかよふ也」
 酒は百薬の長といいますが、酔わぬ程に飲めばこそ、愁い心配事を払い心を穏や かにし、身体に気をめぐらせてくれるのです。
 全120首の内、4首を取り上げましたが、その他の句も現代に通じるありがた いお言葉ばかりです。貝原益軒の「養生訓」の100年以上前に、このような書が 存在していたことに真に驚きです。

◆ 脚気と膝の痛み
 明治時代以降は、脚気は栄養障害(ビタミンB不足)が原因の歩行障害や心臓病 に発展する病気と定着しますが、それ以前では脚の病として膝関節症なども脚気に 含まれます。曲直瀬道三の「師語録」では、脚気は腫れ痛む膝の病と総称としてお り、その病が腹から胸に入ることがあるので早めに治療しなさいと記載されていま す。いわゆる脚気衝心といわれる心不全を引き起こすことも述べています。いずれ にしても膝関節症は当時の脚気に分類されていました。

◆ 骨変性のない膝関節炎
 骨変性がまだ起こっていない膝関節炎は、関節周辺部の炎症です。膝蓋靭帯、十 字靭帯、副側靭帯や筋腱が、過度な運動や運動不足時の急な運動、あるいはリウマ チなど免疫学的な病気によって炎症を生じ、痛みや腫れを起こします。一般に膝関 節症の初期の段階であり、60歳代に多く的確な治療をすれば治ります。しかし、 この段階で原因をきちんと認識して改善しないと、再発や悪化を引き起こし軟骨や 骨の変性に進行します。

◆ 膝水腫と滑液包炎
 膝に水が溜まり腫脹した状態です。膝水腫では、関節内の滑膜で被われた関節腔 に関節液が余分に溜まります。この関節液は、動きをスムーズにする潤滑油と軟骨 を養う大切な役割を担っているのですが、使い過ぎやホルモンや免疫の異常によっ て、大量に分泌されるのです。更年期ごろの50歳代女性に多いようです。
 滑液包は、膝のまわりに15個程あり、靭帯や腱の摩擦を防ぎ、さらに衝撃を吸 収するエアバックのような役目をしています。使い過ぎや外傷などにより、滑液包 が炎症を起こし、膨張し腫脹を引き起こします。腫れがひどい場合は、整形外科で 膝に穿刺し溜まった水を抜いてもらいましょう。この時に患部の炎症と腫れを取る ために、ステロイド剤を注入することがありますが、ステロイド剤の頻用は骨を脆 くすることがあるので注意が必要です。いずれにしても、この時点で腫れた原因を よく見出して、その原因を改善するように努めましょう。さもないと骨の変形とい う不可逆的な状態に陥ってしまいます。

◆ 膝の声を聞く
 関節の腫れは、生体の防御反応の現れです。関節面にある軟骨や靭帯を衝撃から 守るために一生懸命働いた結果が炎症や腫れなのです。まず膝を休め、いたわりま しょう。患部の熱感が強い場合は冷やします。痛風やリウマチなど血液やリンパに 起因する場合も同様です。そして熱感が引いたら、徐々に血液やリンパの流れを促 進させて、患部の炎症と腫れを取り除いていきます。腫れと痛みが強い時期には、 火に油を注がないように無理しないことです。

<膝の靭帯(右)>
<膝への負担>  矢印(→)に負担大

◆ 膝の構造と姿勢
 太ももの骨は人体で最も太く、一番荷重がかかります。膝はその骨を脛の骨につ なぎ留め、人間の二足歩行を可能にしています。この二つの重要な骨を連結させ、 しかも衝撃を緩和しながら、それらの骨が巧みに動く役割を担っています。
 その骨のつなぎ方は、前後の十字靭帯と左右の内側と外側副側靭帯の計四本の丈 夫な靭帯で支えられています。そして太もも前面の大腿四頭筋と後面の大腿二頭筋 などの伸縮によって膝を屈伸します。膝を痛める原因は、これら靭帯や筋肉の引き 具合が乱れ、特定な方向にばかり負荷がかかることによるのです。
 例えばO脚の場合、内側副側靭帯の張りが強く、外側副側靭帯の張りが弱い状態 です。これでは関節面の内側に体重が強くかかり、内側副側靭帯が炎症を起こし、 次第に内側の関節面を傷つけてしまうのです。
 また、高齢者に特有の腰曲がりもO脚の原因になります。腰を曲げて前かがみの 姿勢で歩行すると、自然に膝が開いてしまいます。これによって膝の内側に負担が 大きくかかり、次第に膝痛を起こし、変形性膝関節症に至ってしまうのです。

◆ 変形性膝関節症
 膝関節炎が慢性化して、靭帯が傷み弛んでくると、関節面での軟骨の摩擦や衝撃 が大きくなります。この状態が数年続くと、徐々に軟骨が磨り減り、さらに骨膜か ら骨まで減っていきます。膝の屈伸時にゴリゴリと音がして、歩行や階段の昇り降 りは至難です。この状態に至ると、関節腔にヒアルロン酸を注射しても定着しづら く、膝の軟骨は再生し難くなります。完治は無理で、何とか現状を維持しさらに悪 化させないようにすることで精一杯です。

◆ 膝関節症の鍼灸治療
 鍼は、膝関節周囲の靭帯や筋腱の炎症を取る作用に優れています。さらに靭帯と 筋腱の張り具合を調整し、膝への負荷や偏りを減らします。注射針より細く刺入時 の痛みは殆んどありません。是非お試しください。さらにお灸と組み合わせること によって、血液とリンパ液の流れを促進し、腫れやむくみを除去します。しかし、 腫れと炎症が強く、熱感がある時はお灸を控えます。また、腰と骨盤、股関節、太 ももの筋肉を調整し、柔軟性を高めて、膝への衝撃を吸収しやすい姿勢と身体を作 ります。

◆即効指圧 (その38)  膝関節症
変形性膝関節症 太ももの膝に近いところをよく揉みほぐします。膝の皿の下にある膝眼(しつがん) を指圧します。ここにお灸をするとさらに効果的です。  膝関節炎   膝関節周辺の靭帯や筋腱や炎症に、曲泉(きょくせん)、犢鼻(とくび)やその他 圧して痛い箇所を優しく指圧します。圧痛が取れるまで揉み解してください。

◆ 健康体力測定会のお知らせ
4月10日(月)〜22日(土)午前10時〜12時。 但し木・金は除く。筋力、柔軟性、バランス感覚、持久力などの測定を実施します。 65歳以上の方を対象としますが、どなたでも参加可能で無料です。健康維持や介 護予防にお役立てください。

★ 4月より祝日は営業させて頂きます。   但し、5月3・4・5日はお休みです。
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