【光和堂通信】第38号2005年春夏号(Vol.10,No.3)2005.07.20
[予防と早期治療のために]

 今年の花粉症はつらかった。予想通りの大量飛散で悲惨な春に。くしゃみ鼻水と 戦い、目のかゆみに悩まされ、夜は鼻づまりで安眠できず。花粉症の方々本当にお 疲れさまでした。これほど多くの人が悩まされているのだから、これはもはや公害 です。植林政策やディーゼル車の排気ガスが花粉症の原因になっているのは明らか なのですから、集団訴訟を起こしたら勝てるのではないかなどと、人のせいにして います。このイライラ感も花粉症の症状か?
 でも春は、鼻ではなく花の時期。マスクで防衛して、鎌倉へ行ってきました。春 の陽射しに目を引く真っ白な花の辛夷(コブシ)や鮮やかな黄色の花を咲かす山茱萸 (サンシュユ)はきれいでした。しかもこれらは花粉症にもよいのです。辛夷はつぼ みを鼻づまりに、山茱萸の実は鼻やのどの粘膜を潤します。
 鎌倉の竹寺といわれている報国寺は、真っ赤な椿が竹に絡むように咲いていまし た。竹林の奥にある茶所で茶を啜りながら、竹林の心地よさを久しぶりに味わいま した。お寺に竹やぶは見慣れた光景ですが、春の竹は生命の息吹に 溢れていました。

 のんびりしていたら夏になってしまいました。さて今号では、指や腕に現れる症 状を取り上げます。

◆ あきらめないで腱鞘炎(けんしょうえん)とバネ指
 腱鞘炎に悩まされている方は多いのではないでしょうか? ひどくなると手術が 必要な場合もあるのですが、その前に是非鍼灸治療を試してください。
 指を曲げ伸ばしする動作では、筋肉の伸び縮みに伴って、それに続く腱が押引さ れ、指を動かしています。腱とはアキレス腱が有名ですが、筋肉と骨の連結部位で、 ワイヤーのように硬く強い結合組織です。関節部分で筋肉と骨をつなぎとめる役割 を担っているだけではなく、筋肉の伸縮動作に対して、一方向へ強い力が入り、機 敏にブレのない動きができるように骨を動かしています。ワイヤーのように強い腱 ですが、指を動かす腱は細く、しかも動きが頻繁であることから、骨などと接する 所ではトンネル状の鞘(さや)が被さってそれを保護しています。これが腱鞘です。
 頻繁に繰り返し同じ動作で指を使うと、腱が腱鞘の中を何度も激しく行き来して 次第に摩擦熱が生じます。熱をもった状態が続くと、腱と腱鞘は脹れ、潤滑液が枯 渇します。その状態でさらに使い続けると腱と腱鞘の内面は傷つき痛みを発し、つ いには指が動かせなくなり腱鞘炎に至るのです。

◆ 人体ワイヤーの錆(さ)び=バネ指腱鞘炎
 バネ指は弾発指(だんぱつし)とも呼び、腱鞘炎で炎症の激しい疼痛期を過ぎ慢性 化した時期、あるいは激しい症状を経過せず発症する場合もあります。指を曲げて 伸ばそうとすると引っ掛かり、バネを弾いたようにカクンと動きます。腱を自転車 のブレーキ・ワイヤーにたとえると、腱鞘はワイヤーカバーです。完全に錆びつい た状態ではブレーキ・レバーが動きませんが、部分的に錆びた状態では抵抗があり ますがまだ動きます。これがバネ指です。
 ワイヤーである腱鞘が錆びる原因は、疲労物質の蓄積が考えられます。人類は直 立歩行を始めてから手を器用に使うことによって進化したといわれています。それ だけ日常生活の中で手を使わないことはありません。筋肉や骨などすべて生きてい る人間の体では、手先だけでも動かせば必ず老廃物が発生します。ブドウ糖を消費 してエネルギーを得ている筋肉は、その代謝産物として乳酸などを老廃物として産 生します。老廃物は血液の循環によって肝臓で代謝され腎臓で尿中に排出されます。 しかし、加齢とともに血液循環や新陳代謝が低下し、老廃物の輸送力や解毒力が減 退し、筋肉や腱付近に老廃物が蓄積しやすくなるのです。これが、バネ指タイプの 腱鞘炎が中年期以降に多く発症する主因です。また、糖尿病や慢性肝炎、痛風など の病気や透析中の方はやはり老廃物の運搬や代謝に問題が生じ、バネ指や腱鞘炎が 起こりやすいです。

◆ 肘の痛み‐上腕骨(じょうわんこつ)内側(ないそく)(外側(がいそく))上顆炎 (じょうかえん)
 いわゆるテニス肘や野球肘と呼ばれ、スポーツによって発症することが多いので すが、日常動作でも起こります。フライパンを握ったり、雑巾を絞ると肘の外側や 内側で痛みが起こるのです。ちょっと使い過ぎかなと思いしばらく様子を見ても治 らない場合は、この上腕骨内側(外側)上顆炎です。腕の使い過ぎが主な原因ですが、 休息してもなかなか治らない背景には、この病気でも人体ワイヤー(腱)の錆びが関 与しているからです。
 腕を使うことによって筋肉に疲労物質が産生され、本来なら血流にのって代謝さ れるはずの老廃物が肘付近に蓄積していきます。そこが上腕骨内側(外側)上顆と呼 ばれる部位で、筋肉が腱となり上腕骨に付着しているところです。この腱と骨の付 着部分である骨膜にも炎症が至り、脹れや痛みを生じるのです。

◆ 錆び落しに鍼灸を!
 腱鞘炎やバネ指、上腕骨内側(外側)上顆炎は、鍼灸を上手に利用して早く治すこ とができます。発症して間もない急性期には冷やすことと鍼を主に使います。一ヶ 月以上の場合は鍼とお灸を利用します。鍼は腱付近の錆びを突付き落し、お灸がそ の錆びを血流にのせて解毒代謝を促進します。根気よくこの作業を繰り返していく と、少しずつ痛みが緩和され、指や腕の動きがスムーズになっていきます。

◆ へバーデン結節
 手の指先より第一番目の関節が腫れや変形をきたします。人差し指に多く、中指 や薬指にも発症することがあります。指がこわばり曲げ伸ばしがし難く、変形して くるので関節リウマチかと心配する方が多いのですが、へバーデン結節の場合は痛 みが少なく患部の熱感や炎症もあまりありません。また、手首など他の関節へ腫れ や炎症が広がることもありません。さらに血液検査をすればリウマチとの鑑別は確 実です。
 へバーデン結節は痛みがなく日常生活に支障がなければそのままにしておいても 問題ありません。しかし、腫れや変形が大きくならないように鍼灸やマッサージ治 療をお勧めします。
 腫れが大きい場合はガングリオンを合併していることがあります。ガングリオン とは、コリッとした硬い腫瘤で中には透明な粘液が詰まっています。指の他に、手 首や足首、踵付近に発生します。自然に消失することもありますが、再発を繰り返 す場合もあります。悪性のものではないので心配する必要はありませんが、手足を 動かした時に痛みや関節の動きを邪魔する時は、穿刺して中の粘液を吸い出したり、 簡単な除去手術をすることもあります。また、指に変形が激しい場合は、関節の軟 骨が磨耗していたり、骨に棘ができていることもあります。このようにならないよ うに早めに治療しましょう。

◆ 放置しないでへバーデン結節
 へバーデン結節は中年期以降の女性に発症することが多く、その原因は解明され ていませんが、血液循環と老廃物の解毒代謝が関与していることは明らかです。バ ネ指の項でも記したように、関節内に錆びが少しずつ溜まり動かし難くなり、動か さないことによりさらに錆びが沈着し腫れる。これを数年繰り返している内に、関 節が変形してしまうのです。
 腫れが少なく関節の曲げ伸ばしが引っ掛かるぐらいの時期には、指を温めマッサ ージを頻繁に行い血流を促進して老廃物の沈着を防ぎます。腫れがあり曲げたり押 すと痛みが生じる時期は、錆び付きが始まっていますので鍼による少量の瀉血が効 果的です。さらにお灸により血行を促進し錆び落しです。このような治療を続けれ ば関節の変形を防ぐことができます。でもやはり一度変形したものは治せません。

◆ 正中神経を押え込む手根管(しゅこんかん)症候群(しょうこうぐん)
 夜寝ていると明け方に、親指や人差し指、中指を中心にビリビリとしびれるよう な不快な痛みが発生します。手首を振るとそのしびれや痛みが多少緩和します。さ らに手首の内側を押すと指先に放散するような痛みが走ります。これが手根管症候 群です。やはり閉経前後の女性に多く、パソコンなど指や手首を頻繁使う人に発症 するといわれていますが、原因がはっきりしない場合も多いです。

 手首は細く動きの多い関節ですが、その狭い空間に手根骨と靭帯で被われた手根 管と呼ばれるトンネルがあります。その中を正中神経と指を動かす腱が通っていま す。ここで腱鞘炎やガングリオンが発生すると正中神経を圧迫し絞めつけが起こり、 しびれや痛みが指先に放散するのです。

◎ 即効指圧 その36 バネ指と手根管症候群
バネ指腱鞘炎

拇指では魚際(ぎょさい)、中指では労宮(ろうきゅう)、薬指では小府(しょう ふ)、人差し指でも、それぞれ指の付根にかけて指圧して圧痛部にお灸をする。 圧痛が取れるまでお灸を根気よく続ける。
手根管症候群

正中神経の通る肘部にある曲澤(きょくたく)やその内側にある小海(しょうかい) をよく揉みほぐす。手首から掌へ1cm程入ったところにある大陵(たいりょう) へお灸をする。暖かさを感じなかったら感じるまですえる。

◆ 神経障害を回避する
 手首にある手根管での神経の圧迫と絞めつけが長期間に及ぶと、神経線維の中を 流れる軸索流(じくさくりゅう)という栄養分や老廃物の輸送路が途絶えてしまいま す。これを絞扼(こうやく)性神経障害(ニューロパシー)と呼び、脊髄から末梢まで の神経線維全体を侵すことがあり、その侵された神経線維の走行に沿って、痛みや しびれの他にヒリヒリやチクチクなどの知覚過敏を起こします。特に正中神経の出 口である頚椎部での頚椎神経根障害は合併する頻度が多いようです。
 鍼灸での治療は、まず手根管で起っている腱鞘炎を、先に述べたように錆び落し の手法によって除去します。さらに拇指などでの腱鞘炎を併発していればそれも並 行して治療します。また、神経障害の症状が進まないように、頚部から肩腕まで正 中神経の走行に沿ってマッサージをして、軸索流の流通を促進し神経線維の生きを よくさせます。

◆ 〈夏休みのお知らせ〉
 8月13日(土)〜15日(月)です。


【光和堂通信】第38号2005年春夏号(Vol.10,No.3)2005.07.20
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