【光和堂通信】第37号2005年冬季号(Vol.10,No.2)2005.02.03
[予防と早期治療のために]

 この冬は暖冬に見せかけて、突然寒波が到来し雪を降らすような、意地悪な寒さ です。地球温暖化で、一年を通して気温がやや上昇しているので、暖冬傾向なので しょうが、不意打ちの寒さに身体を調整するのに苦労します。

◆ 今冬はしもやけが流行中!
 この不意打ちの寒波襲来のせいか、今年はしもやけになる人が多いようです。寒 波が接近し雪が降るとどうしても悪化します。華岡青洲創案の紫雲膏を塗り患部を よくマッサージしましょう。漢方の内服薬では当帰(とうき)四逆(しぎゃく)加呉茱 萸(かごしゅゆ)生姜湯(しょうきょうとう)が、身体を温め末梢血行をよくします。
 インフルエンザがやや流行ってきましたが、昨年程ではないと予想されます。一 方ノロウイルスはすっかり有名になりました。年末年始には急性胃腸炎が毎年流行 します。忘年会や新年会などで、胃腸に負担をかける機会が多いところに、このノ ロウイルスが隙を狙ってくるのです。このウイルスは決して怖いものではありませ んが、高齢者や子供には注意が必要です。なぜなら高齢者や子供は免疫抵抗力 が弱いこともありますが、水分摂取量が不安定で脱水症状を引き起こしやすい からです。一般に大人では食事(食材に含まれる水分)から一g、さらにお茶やコ ーヒーなどの飲料物から一g摂取して、合わせて2gの水分が一日に必要といわれ ています。高齢者は食事量が減るため、一日の総水分摂取量も減少します。食欲が なくほとんど食べられない状態では、総水分摂取量は半減します。このような場合 は飲料物を倍量にするよう心掛けなければ、すぐに脱水状態に陥ってしまいます。 スポーツドリンク(イオン飲料)や汁物、スープなどを、小まめに飲ませるよ うに気を付けましょう。

◆ ノロウイルスに漢方を!
 急性胃腸炎による悪心嘔吐や下痢には、半夏(はんげ)瀉心湯(しゃしんとう)がよ く効きます。さらに腹痛がある時は黄今湯(おうごんとう)を服用します。水を飲ん でも吐いてしまう時は、五苓散(ごれいさん)をお湯溶きして、その上澄みをお猪口 一杯ずつ服用すると、吐くことなく飲水ができるようになります。下痢や嘔吐を漢 方で早めに対処して脱水状態にならないようにすることです。また高齢者では嘔吐 物による窒息も注意しなければなりません。予防策として手洗いやうがいをするこ とは当然ですが、食事に生姜やネギなどの薬味を上手に取り入れることも急性 胃腸炎の予防に役立ちます

◆ 妊娠と出産
 少子高齢化の時代にあり、出産と子育ては女性だけの問題ではなく、皆で考えな ければなりません。

妊娠、出産、子育てが無理なく安全にできる環境と知識を備え、少子化に歯止めを かけましょう。このままでは労働人口が不足し、海外からの労働力を受け入れなけ れば、日本社会は成り立ちません。
 政治的な話しになりましたが、夫婦にとっては切実な問題です。そこで、漢方が 長年にわたって蓄積してきた経験と知恵を基に、現代の妊娠と出産について論考し たいと思います。

◆ 妊娠への準備
 元気な子を産む第一ステップは、夫婦ともに心身に多少のゆとりを作ることです。 女性は妊娠から出産、そして生理再開までのおよそ一年半の間に、ホルモンや自律 神経の変動によって、心身双方に変化が現れます。病的な症状に至らない場合も多 いのですが、本人と周りの人がその変化を察し温かく見守ってあげる必要がありま す。
 妊娠前に万全な態勢をとるために、次の点をチックしておきましょう。
◎生理痛や生理不順があったら治しておく。(漢方でも可、子宮筋腫や卵巣膿腫の 場合もあるので一度は婦人科受診を)
◎不正出血やおりものがあったら婦人科へ。(クラミジアなど性感染症の場合は妊 娠前に治療する)
◎冷え症、特に足と腰が冷える人は改善に努める(卵を育てるには温もりが必要。 切迫流産にも関与)
◎腰痛は解消しておく。(妊娠後期に腰の負担は大)
 以上のような点を改善しても、不妊傾向の方は排卵や精子の状態を検査してくだ さい。それらに異常がなければ、子宮と卵巣のコンディションを良く保ち、あまり 意識し過ぎないで自然体で臨みましょう。

◆ ホルモンの働きを調和させる
 受精卵が着床し、生育の場となる子宮は、大地の畑と同様に適度な温もりと栄養 が必要です。現代人はとかく栄養の取り過ぎ傾向にあり、子宮である畑も肥料過剰 ぎみです。このような状況では、受精卵がしっかり着床できず、根腐りを起こし流 産してしまうのです。また、クロミッドなどの排卵促進剤によって子宮膜が薄くな ることもあるようです。排卵しても子宮がやせ果てた状態では受精卵を育てられま せん。
 ホルモンを調整する司令室は、脳下垂体と呼ばれ、目の奥方で左右の耳を結んだ 線上に位置する視床下部にあります。眼精疲労による後頭部痛や首筋の凝り、さら に自律神経の緊張ストレス状態が持続すると、脳下垂体からオキシトシンの分泌が 増加し、子宮を収縮させ排卵を抑制します。自律神経の中枢も視床下部にあり、内 分泌ホルモンとの働きと複雑かつ密接に関与しています。やはり、心身の状態を察 知して、ホルモンの分泌を調節する機能が人間には備わっているのです。現代社会 のリズムに巻き込まれることが多いと思いますが、これを機会に本来の自然に近い 生活リズムを見つめ直しましょう。

◆ つわりを上手に乗り切る
 妊娠二から三ヶ月(四から十一週)にかけての吐き気がつわり(悪阻)です。お 腹が空いてくると気持ち悪くなったり、ご飯の炊けるにおいを嗅ぐと吐き気を催し たり、人によってさまざまです。仕事中は良いが、仕事から解放されて自宅に帰る と気持ち悪くなる人もいます。食の嗜好が大きく変わる人もいます。ご飯党だった 人が、菓子パン通になった人もいます。
 このようなつわりを対処するために漢方は非常に優れています。気持ち悪さと吐 き気には、まず半夏(はんげ)厚朴湯(こうぼくとう)を、さらにむかむかして食べら れない場合は、半夏(はんげ)瀉心湯(しゃしんとう)を、嘔吐がひどい場合は、乾姜 (かんきょう)半夏(はんげ)人参丸(にんじんがん)を用います。水を飲んでも吐いて しまう時は、先に急性胃腸炎のところで紹介したように、五苓散(ごれいさん)をお 湯溶きして上澄みを飲ませます。ツボ療法も効果があります。即効指圧のところで 紹介するように、裏(うら)内庭(ないてい)を使います。漢方薬もツボ療法も胎児に は安全です。
 妊娠中は服薬に細心の注意が必要です。特につわりの時期である妊娠三ヶ月(十 一週)までは気をつけてください。胎児の手足など基本骨格は妊娠初期のこの時期 までに完成します。この時期に催奇形性のある薬を服用すると大変危険です。妊娠 五ヵ月(十六週)以降に入れば、危険度は低下しますが、薬剤師や医師に相談しま しょう。

◆ 安産のお灸と漢方薬
 妊娠五ヵ月(十六週)に入ったら、安産のツボである三陰交(さんいんこう)にお 灸をしましょう。このツボは下腹部の緊張を取り、静脈やリンパ液の流れを促進し ます。大きくなるお腹を無理なく広げ、妊娠線や静脈瘤の予防や足のむくみにも効 果があります。また、逆子の防止あるいは逆子治療にも応用されます。出産まで一 日一回毎日続けてください。せんねん灸を利用すると手軽で、やけどにならず便利 です。
 当帰芍薬散は二千年前から使われている安産の名薬です。安産を約束してくれる だけでなく、妊娠中に心配な貧血やむくみを解消し、妊娠中毒症を予防してくれま す。

◆ 出産に向けて
 妊娠後期には、お腹が大きくなり、その重さが腰や足の付根にかかり、腰痛やこ むら返り、足のむくみや静脈瘤を引き起こします。安産体操やマッサージ指圧が効 果的です。特に骨盤の周りをよくほぐしておきましょう。また、便秘や尿失禁が起 こることもあります。尿失禁は心配する必要はありません。便秘は食事や適度な運 動を心掛け、それでも駄目な時は安全な漢方の便秘薬をお勧めします。

◎ 即効指圧 その35 妊娠と出産
つわり

 足の裏で、第2指の付根からやや隆起部に入ったところにある裏内定(うらない てい)を指圧する。その付近に圧痛があればそれを揉み解す。お灸もよい。
安産と逆子防止

あぐらをかく姿勢になって、足の内くるぶしから上へ3〜4cmにある三陰交(さ んいんこう)へお灸をする。暖かさを感じなかったら感じるまですえる。せんねん 灸が便利。

◆ 産後の回復と授乳
 産後の体力回復には約三週間必要です。その間は安静第一で、家族に甘えましょ う。陣痛と分娩による全身の筋肉疲労、発汗や出血による体液の損傷など、出産に 伴う体力の消耗は想像以上です。この時期の十分な休息は、ホルモンの大きな変動 をスムーズに進めるためと、それにともなう自律神経の再調節にも必要なのです。 いわゆる「血の道」と呼ばれる、自律神経の症状はこの時期に無理をして発症する と古くからいわれています。
 また、産後のもう一つの大切なことが母乳です。乳児の健康や母子のスキンシッ プのためだけでなく、産後のお母さんにも有益な作用があります。乳房を吸われる ことによって、脳下垂体からオキシトシンや催乳ホルモン(プロラクチン)が分泌さ れ、子宮を元の大きさに戻ることを促進させ、さらに排卵を休止させ月経の再開を 抑えます。産後六ヶ月ぐらいは卵巣の働きを休め、子宮膜の活動を停止させること が望まれます。産後早い時期に生理が再開すると、お母さんの身体は負担になり、 子宮内膜症や経産婦不妊などを発症させることがあります。
 妊娠五ヵ月以降の安定期に入ったら母乳マッサージをして、授乳の準備をしまし ょう。漢方薬では、葛根湯(かっこんとう)がうっ滞乳汁分泌不全や乳房痛に効果が あり、小柴(しょうさい)胡湯(ことう)は乳腺炎を防ぎます。授乳中は首筋から肩腕 まで凝り硬くなります。マッサージや鍼灸でこの部位を解すと、乳腺の炎症が鎮ま り乳汁のうつ滞が取れ、母乳がでやすくなります。是非お試し下さい。


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