病気対処術《風邪編》2005.11.15
堀口和彦 著、光和堂 発行

◆ 風邪は免疫力で克服する

 風邪は、太古の昔からある病気ですが、現代でも根絶されることはありません。 それは、細菌やウイルスが姿を変えて襲ってきて、人間の免疫力を超えるからです。 抗生物質やワクチンが開発された現代でも、これら病原菌と人間の関係は、あまり 変わっていないのです。耐性菌の出現は、まさにそれを象徴しています。
 抗生物質が細菌やウイルスを直接標的として攻撃することに対して、漢方では人 間の免疫力を高めて自分の力で細菌やウイルスを退治し、風邪を克服していきます。 ですから、漢方での風邪治療では、耐性菌出現の心配はなく、生体を抗生物質によ る攻撃に巻き込まないので、安全で副作用が少なく、体に無理がないのです。

◆ 自力でのわずかな発汗

 そこで、免疫力を高めるための漢方の知恵を紹介します。それはわずかに汗をか くことです。衣服やふとんで身体を温かくするのがよく、暖房や入浴で身体を温め るのはよくありません。自分の力で身体を温めることが重要です。その働きを助け るために、温かい物を摂ることはよいことです。くず湯やしょうが湯、野菜スープ もよいし、漢方薬では葛根湯や麻黄湯が最適です。それでも温まらないときは、下 半身に電気毛布や湯たんぽを入れるか、低温やけどに注意しながら肩甲骨の間に使 い捨てカイロを貼る方法もあります。ここで注意しなければならないのは、汗の量 です。わずかに汗をかくことが要訣で、だらだらと流れるほどの汗をかいてはいけ ません。微量な汗は身体に自己防衛への準備体制をとらせ、免疫力を最大限に高め てくれる状態にしてくれるのです。ところが、汗が多くなると体力が消耗し疲労し それ以上戦えなくなってしまうのです。マラソンや長距離走のペース配分と同じ理 屈です。そのためには、水分を適度に摂取しながら、マイペースで汗をかき免疫力 を保持しながら、風邪の細菌やウイルスと戦っていくのです。

◆ 発汗と自律神経

 実は汗が出るまでが苦しいのです。特に身体が温まってきて、汗が出そうで出な い時期が一番辛いのです。この時は煩悶するような不快感が最高点に達します。こ れは自律神経の働きが関与しているようです。このように汗をかくことは自律神経 の交感神経が優位に働いた結果です。交感神経は仕事やスポーツなどに集中してい る時に優位に働き、逆に寝ている時やリラックスした時には副交感神経が優位にな るといわれています。風邪をひく時は、忙しさから開放されてふっと気を抜いた時 に悪くなることがよくあります。また、少し風邪気味だなと感じていても、どうし ても抜け出せない仕事や試験などがあると、なんとか持ち堪えて寝込まずに済んだ 経験があると思います。これはまさに交感神経が優位に働いている場合は、風邪は ひきにくい、つまり免疫力の高まった自己防衛体制に身体があることを物語ってい ます。

◆ 風邪の漢方療法

葛根湯(かっこんとう):首肩の強ばり、頭痛、鼻水、寒けがあり、風邪のひき 初めで、まだ汗が出ていない時期に用います。この時、脈は浮きやや速くなってい ます。葛根・麻黄・桂皮・生姜の組合せが身体の中から温め発汗を促します。

小青龍湯(しょうせいりゅうとう):くしゃみや鼻水が多く、のどに鼻水が溢れ るように痰がでて咳込む、さらに悪寒もするような風邪の初期に使います。脈はや や速く緊張した様ですが、浮いていない場合もあります。発汗はまだしていないか、 あるいは少し汗が出ていてもよいです。細辛と乾姜が身体を芯から温め、半夏と五 味子が痰や鼻水をさばき、麻黄と桂皮で発汗を促します。

白虎(びゃっこ)加人参湯(かにんじんとう):38℃代の高熱があり、扁桃腺が 腫れ、汗がすでに出ているか、汗はないが小便が近い場合に用います。石膏と知母 が熱を下げ、人参と甘草が消耗した体液を補い、免疫抵抗力を持続させます。脈は 強く大きくなります。汗や小便が出ているのになかなか解熱しない時に有効で、脱 水症の予防にもなります。

小(しょう)柴胡湯(さいことう):熱も下がり風邪の症状が治まってきたが、微 熱がありだるさが残る場合に最適です。胃腸が弱り食欲がない、軽い咳が出る、め まいが少しするような時にも用います。柴胡と黄?がのどや鼻、気管の粘膜の荒れ 炎症を取去り、人参・生姜・大棗が胃腸の働きを高め風邪で弱った身体を元気づけ てくれます。風邪をこじらせず早く元の体調に戻すためによい薬です。アレルギー 体質の人は、この時点で風邪をしっかり治さないと、鼻炎や気管支炎へと悪化しや すいので気を抜かないでください。

◆ のど風邪(乾燥による風邪)

 関東地方は1月から2月は冷たく乾燥した北風が吹き荒れる日が多くなります。 こんな日の湿度は30%ぐらいです。空気が乾燥すると人間の粘膜で、特に外気に 曝されている鼻やのどの粘膜も潤いがなく乾燥してきます。粘膜はリンパ液など体 液で潤っているのですが、水分が取られ乾燥してしまうと、免疫機能を担うリンパ 球や抗体の動きや活きが悪くなり、外敵である風邪のウイルスや細菌に容易に負け てしまいます。
 室内の加湿やマスクの着用、うがいまたはのど飴によって、のど鼻粘膜を潤して おくことが第一ののど風邪予防です。朝起床時にのどが少し痛い、あるいはのどに 違和感がある、イガイガやチクチクする、軽い咳がでる、鼻やのどが乾くなどの症 状は、のど風邪注意報です。このような場合は、まずのど鼻粘膜を潤し、体液を補 給し、その後で身体を保温し少し汗をかくことが治癒の秘訣です。体液が不足して いるので、発汗し過ぎないように十分注意してください。やはり、保温と軽い発汗 で免疫力のスイッチをオンにしないと、いつまでも治りません。寝込むほどに悪く ならず、症状が長く続いている場合でも、体液補給と保温そして軽い発汗を実行す れば、のど風邪は退散していきます。

◆ 首筋からのどはリンパ液の補給路

 のど風邪をひきやすい人や扁桃腺が弱い人は、首筋からのどにかけての筋肉が硬 く緊張していることが多いです。自覚がなく触診されて初めて気付く人もいます。 あごから耳の下縁部には扁桃腺や耳下腺があり、口や鼻から侵入してくる病原菌を 迎え撃つ要塞です。この周辺が硬く緊張していては、要塞を守る免疫細胞や抗体が 威勢よく働いてくれません。また、持続的に戦うためには、援助物資や援軍が必要 で、新たなリンパ液の補給が不可欠です。首筋からのどにかけてはリンパ液の補給 路で、この部位を柔らかくしてリンパ液が滞りなく流れ、十分な免疫細胞や抗体が 扁桃腺や耳下腺に補給されるようにするのです。


病気対処術《風邪編》2005.11.15
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