通所介護(デイサービス)を開設して
 −薬局と鍼灸治療院に併設−
 Homw Care Medicine(医療と介護のボーダーを越えた在宅医療専門誌)
 薬剤と在宅医療 リレー執筆 第35回、2003.11.1、P60-61
 米国home Helthcare Nurse誌 特約、Medical Tribune

光和堂薬局代表
さいたま市介護認定審査会委員
堀口和彦

はじめに
 当薬局では,今年(2003年)7月より,介護保険事業者 として通所介護を開設しました。当初は介護支援事業へ の展開を検討していたのですが,人材不足から実施に至 れずにおりました。次第にケアマネジャー(ケアマネ)の 仕事が居宅へ訪問することが明確になると,介護支援事 業所には,専属のケアマネが必要であり,薬剤師とケア マネとの兼任は困難な状況がますますはっきりしてきまし た。薬剤師でケアマネ資格を取得しても,その両方の資 格を職業として生かせず,どちらかを選択せざるをえない 方が多いのではないでしょうか。これは,もちろんケアマ ネという仕事が片手間でできるものではないからですが, 薬剤師が薬局を離れ居宅へ訪問することの難しさにも原 因があるようです。

適所介護(デイサービス)の開設
 通所介護は,生活相談員と介護職員,機能訓練指導員 の最低3人で開設が可能です。この場合,管理者は兼務 で,利用者定員10名以下の小規模なデイサービスとなり ます。それぞれの人員は,常勤で専従がよいのですが, 機能訓練指導員は兼務が可能です。生活相談員は,資格 要件が社会福祉士や社会福祉主事となっています。社会 福祉主事とは任用資格であり,大学・短大・専門学校に て指定された32科目のなかから3科目を履修していれば 認められる資格です(表)。薬学部や医療福祉系学部,教 育学部さらに法学部や経済学部などの卒業者も該当しま

す。介護職員はヘルパー2級で可能です。
 施設としては,食堂兼機能訓練室,静養室,相談室, 事務室などが必要ですが,通所介護の専有スペースは食 堂兼機能訓練室で,利用者1人に対して3m2が確保できれ ばよいのです。定員10人の場合は30m2以上で,静養室や

表.社会福祉主事の指定科目
 厚生労働大臣の指定する下記の32科目のうち3科目以上履修。 (平成12年3月31日までに大学などを卒業したもので,それ以降 に入学したものは34科目からとなる)
  社会福祉概論  経 済 学
  社会福祉事業史  心 理 学
  社会福祉事業方法論  社 会 学
  社会福祉調査統計  社会政策
  社会福祉施設経営論  経済政策
  社会福祉行政  社会保障論
  公 的 扶 助 論  教 育 学
  児 童 福 祉 論  刑事政策
  保 育 理 論  犯 罪 学
  身体障害者福祉論  倫 理 学
  知的障害者福祉論
  (精神薄弱者福祉論)
  生理衛生学
  老 人 福 祉 論  公衆衛生学
  医療社会事業論  精神衛生学
  地 域 福 祉 論  医学知識
  協 同 組 合 論  看 護 学
  法   律   学  栄 養 学

相談室,事務室は他の事業スペースとの共用が可能です。
 通所介護の内容は,送迎,バイタルチェック,体操,機能訓練,歓談,昼食など です。送迎は普通の乗用車でも可能です。バイタルチェックは血圧と脈拍の測定, 検温,その他体調のチェックです。機能訓練は,看護師や理学療法士,作業療法士, 柔道整復師,あんまマッサージ師が行い,機能訓練加算を取る場合は,1日2時間 以上の配置が必要です。しかし,この機能訓練は必ずしも必須ではありません。昼 食の提供や入浴も必須ではありません。昼食やお風呂のないデイサービスに通う利 用者はいないと言われていますが,デイサービスが普及してきた地域では,特色あ るサービスによるデイサービスが望まれています。

薬局による介護保険事業への進出
 医薬分業が進み,薬局はいわゆる「くすり屋さん」から健康保険を利用する医療 機関に再編成されました。でも,実体はどうでしょうか? 薬局は,病院や医院の 付近にある調剤薬局と大型店化したドラッグストアの大きく2つに発展し,古くか らある「まちの薬局」は大きな転換を迫られています。もちろん,それぞれの立地 や経営方針から,変革の波に上手に乗っているところも多いと思います。
 このような医薬分業の流れのなかで,介護保険という新たな社会的サービスが始 まりました。薬局としては,薬剤師がケアマネ取得の資格要件にあることもあり, ケアマネ資格を取得し介護支援事業者へ,あるいは介護用品や福祉用具の販売の経 験を生かし,福祉用具貸与事業への展開が見られます。

地域の医療福祉の担い手としての薬局
 プライマリケアの拠点として,薬局の存在は地域に欠くことのできないものです。 けがや急病の対応や健康相談,さらに家族の病気や健康についての相談など,近所 の人々が病気や健康に関して困ったことがあると,まず駆け込んだのが薬局です。 薬の販売を通して,地域の人々に医療と福祉の両面の情報を提供する中心的な役割 を古くから担っているのです。現在もこのような機能を果たしている薬局はあると 思いますが,徐々に減ってきているのではないでしょうか。
 近年は,テレビや雑誌,さらにインターネットの普及

によって,情報の伝達が格段に早くかつ大量に多くの人々に行き渡ります。それに 伴って,物品の販売に際しては単なる情報の提供を行うだけで,コミュニケーショ ンのある相談的な対話が取りにくい風潮も,薬局での相談業務の減少に関与してい るようです。

薬局での健康相談ノウハウを通所介護で生かす
 処方せん調剤についても,薬剤服用歴管理・指導料の特別指導加算など,投薬に 際しての情報の授受による料金が算定されるようになりました。これにより,長年 にわたって薬局薬剤師が培ってきた,お客さんとのコミュニケーション技量が評価 されるようになってきました。
 薬剤師には,通所介護におけるパイダルチェックを行える能力が十分にあります。 さらに,生活相談員としての業務についても,店頭で日常的に健康相談を行ってい る薬剤師は十分にその能力を発揮できます。生活相談は食事や排泄,入浴などの日 常生活のことから,健康や病気に関することが中心です。薬局店頭での,健康管理 や病気予防へのアドバイスや日常生活への注意,糖尿病や高脂血症の方への食事指 導など,薬局が培ってきたノウハウを高齢者の生活相談に活用しないのはもったい ないことです。さらに,要介護認定を受けている高齢者のほとんどの人が,医療機 関にかかり服薬しています。通所介護での生活相談の一環として,服薬相談を行う ことも有意義なことでしょう。

来てもらうことのメリット
 8月より,後部座席が回転リフトする車両を導入し,さらに便利に安心して送迎 ができるようになりました。居宅にいる要介護高齢者に,デイサービスという場所 に来てもらうことで,薬剤師が在宅医療にさらに貢献できる可能性が広がります。 デイサービスでは利用者との相談時間を確保しやすく,薬局薬剤師のコミュニケー ション能力の新たな発揮場所になるでしょう。

おわりに
 現時点では,鍼灸治療院のノウハウを生かし,機能訓練を中心にしたプログラム でデイサービスを提供していますが,今後,服薬や食事を含めた健康相談も積極的 に展開していこうと思っています。近々,薬膳料理の昼食を出すことも企画してい ます。


通所介護(デイサービス)を開設して −薬局と鍼灸治療院に併設−
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