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――奥村清志―― たまゆらの虫の命を小指もて葬り去らん美のきはむ夜に 捕らへたる虫を指もてはじき捨て夜の鏡におのれを映す 指間より逃れし虫がシュレディンガー方程式を食らひをるかな アンテナに鳩鳴く午後のサーカス馬無心に食へよ飼い葉と時と 薄闇の公園に鳩の墓掘りぬ水子にありし子の影抱きて 月に向かひ唾を吐き捨つ公園の隅に明るき少年の影 夕空に冷たき光消ゆるまで女優は壁に貼られをるなり 河風が黄のリボン曳く中欧の一小国の普遍なる朝 こと終へて窓辺に寄らば放たれし目が中天の月に届きぬ 銀河よりこぼれ落ちくる星あらばそをわが生は拾ひ歩かむ 西空に流星見えて遠き日の母につらなる人逝きしとや 砂荒き八月の原十四にて逝きたる君のその日の日記 丈高く群れ咲く浜のコスモスの記憶に母を呼ぶ君の声 八月の浜蒼ければ光追ひ波に流れし君は麗はし 海に来て潮鳴りを聞く潮鳴りは止まず生命は拠り処なきかな |