ホームページ歌集<その3>



コスモスの記憶
――奥村清志――

たまゆらの虫の命を小指もて葬り去らん美のきはむ夜に

捕らへたる虫を指もてはじき捨て夜の鏡におのれを映す

指間より逃れし虫がシュレディンガー方程式を食らひをるかな

アンテナに鳩鳴く午後のサーカス馬無心に食へよ飼い葉と時と

薄闇の公園に鳩の墓掘りぬ水子にありし子の影抱きて

月に向かひ唾を吐き捨つ公園の隅に明るき少年の影

夕空に冷たき光消ゆるまで女優は壁に貼られをるなり

河風が黄のリボン曳く中欧の一小国の普遍なる朝

こと終へて窓辺に寄らば放たれし目が中天の月に届きぬ

銀河よりこぼれ落ちくる星あらばそをわが生は拾ひ歩かむ

西空に流星見えて遠き日の母につらなる人逝きしとや

砂荒き八月の原十四にて逝きたる君のその日の日記

丈高く群れ咲く浜のコスモスの記憶に母を呼ぶ君の声

八月の浜蒼ければ光追ひ波に流れし君は麗はし

海に来て潮鳴りを聞く潮鳴りは止まず生命は拠り処なきかな

 

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愛媛県松山市在住 奥村清志
愛光学園勤務

メール : koko@mxw.mesh.ne.jp