幼い日・行商の老婆 風呂敷を解きて雑貨を部屋ぬちに伸ぶる老婆が突きし紙風船 行商の老婆が解きゆく風呂敷の末に出でしは万華の鏡 風呂敷の中より魔界の花あまた出ずるをおどろおどろしく見ぬ 上がり間に荷を解き赤と黄の飴をことさらわれに見する女ぞ 商いを終ふればありたけ背に負ひて出でし女の片頬赤し 2002年1月4日 死の淵に丸き光の浮かびにしかの日も今日のごと時雨たり 生と死の淵に横たはりてより三年やむなく蕭々酒絶ち三年 下戸を演じ下戸をおのれに念じこめ冬空の気をはげしく吸ひぬ いつからか呑まぬがおのがありていとなりてイエスを信じ初めにき 梅酒ゼリー食ひたちまちに巡りきし芳香族の息吐きしわれ 昼に食ふ梅酒ゼリーの吐息もて教壇に立ちし悲しき日もあり 2002年1月2日 天翔る黒雲の舳に極微なるフラクタル追ひし元旦の夢 時雨れたる雲間より射す一筋の光たれよと年頭に期す 歳々に書き記したる元旦の決意古くも新しくもなし 十余年壁に貼りをりし女童のポスターの絵を晦日に剥ぎぬ 起き抜けに書斎に入りて女童をまさぐるあたり日がただに射す もみじ葉をつまみて真あかなる胸の前にかざせる女童なりし 水彩のにじめるがよき真あかなるセーター、悲しく「ちひろ」偲べば 女童の横座りたる虚ろより冬枯れの葉は降りきてやまず |