神風・愛の劇場スレッド 第171話『眠った翼』(その4)(07/06付) 書いた人:佐々木英朗さん
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From: 佐々木 英朗 <hidero@po.iijnet.or.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 6 Jul 2003 17:49:38 +0900
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佐々木@横浜市在住です。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。

# 第171話(その1)<bci90c$una$6@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その2)<bd4i2h$nqo$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その3)<bdngph$252$1@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。




★神風・愛の劇場 第171話『眠った翼』(その4)

●桃栗町の外れ

夕暮れ間近の頃。ノインの屋敷を訪れる者がありました。彼の指揮する軍団の
者であれば、一々そうはしない呼び鈴を押すという行動から来訪者が客である
と想像されます。もっともノインはその何者かが結界を押し破った時点で間も無く
誰かが来る事を…それが恐らくはアンの迎えであろう事を察していましたが。

「どうぞ入って来なさい」

扉のすぐ後ろから声が聞こえたので、来訪者=エリスは挨拶をするつもりで
勢い良く開けた扉の向こうに頭を下げました。

「どうも!お…」

しかし上げた顔の先には誰も居ない廊下が伸びているだけ。行き場を失った挨拶の
言葉を飲み込んで、エリスは辺りの様子をうかがいます。廊下の先にひとつだけ
半開きになった扉が見えました。勝手に入って来いという事か。そう理解して勝手に
上がり込む事にするエリス。次の扉の向こうにはやっと屋敷の主人の姿を見る事が
出来ました。

「やっぱり来ましたね」
「お久しぶりです。ノイン様」
「元気そうで何よりです」
「私は何時だって元気ですよ」

何時の間に覚えたのか、人間風の愛嬌の表現であるウインクなどして見せるエリス。
その姿を頭のてっぺんから爪先まで、しげしげと眺めてノインはやや顔をしかめます。

「何ですか、そのよれよれの服装は」
「いや、はは。海に落ちまして、少し泳ぐはめに」
「落ちて来たんですか」
「私には落ちてくる事しか出来ませんから」
「そうですか」

本当はもっと綺麗に着地出来るはずなのに、そうは絶対にしないエリス。
そんな意地っ張りな訪問者相手には苦笑して見せる以外に出来る事はありません。
そこへ人の声を聞き付けて、夕食の準備の途中だった全がキッチンから現れます。

「お客様でぃすかぁ…」
「ん?…」

一瞬だけ見詰め合うエリスと全。直後、エリスは突然現れた人間の子供につかつかと
歩み寄り、そして相手の顔にじっと自分の顔を近付け、鼻をひくひくさせました。

「あっ!お前シルクだなっ!コノヤロウ、生意気に人間になんか化けやがって」

言うが早いか全、つまりシルクをぎゅっと片手で抱きしめ、残った片手で頭を
ぼかぼか叩きます。

「痛っいでぃす、やめ」
「お前も来てたのかぁ、そうかぁ」

ひとしきり再会を喜ぶとポイっとシルクを放し、改めて顔を見詰めて言います。

「私の事、覚えてるよな?」
「はぁい。コワ姉様でぃす」
「怖いとか言うな」

ポカン、とまた一発頭を叩いてから今度は頭をゴシゴシ撫でるエリス。
全は目を閉じ黙って頭を撫でられていました。そして暫くそうしてからノインに
向き直るエリス。それを待っていた様にノインが静かに語りかけます。

「エリス」
「はい」
「随分と我慢を覚えましたね」
「え?」

ノインは視線を窓の外、少し前に帰宅してからずっと庭に出してある椅子に座って
空を眺めているアンの方へと向けました。廊下から入ってきたエリスには、その姿は
最初から見えているはずなのです。再びエリスの方を向いたノインは、そこに
一瞬前とは別人の顔を見ました。

「我慢している訳じゃ無いんです」
「と言うと?」
「今は駄目です。アンは…自分が何者か判っていない…そうですね?」
「ええ」
「では、私は逢えません。逢ったら、顔を見たら、抱きしめたくなります。でも
今は出来ません」
「何故ですか?」
「私達、触れ合うと互いの経験や記憶が交ざるんです。ですから自分が何者かを
忘れているアンに私の魔界の者としての記憶を見せる訳にはいきません。
きっとアンの心はそれに耐えられないから…」
「そうですか」

ノインはそれから目をつぶり、暫く無言でいました。やがて。

「ではどうしますか?先に帰りますか?それとも」
「当分、こっちに居ます。どこかその辺の森の中で様子を見てます」
「ならば暇ですね。少し私を手伝う気はありませんか?」
「あっ!」

エリスはもぞもぞと着ている物の上をまさぐってから最後に服の胸元、前掛けと
ドレスの間に手を突っ込んで筒状の物を取り出しました。それを広げてノインに
差し出すエリス。ノインの目の前のテーブル上にくしゃくしゃになった封書が
置かれました。

「魔王様からです。渡せって言われてました」
「…忘れていたんですか。おまけに小さく丸めてしまって…」
「いやぁ、そのままだとなんか邪魔っけで」
「やれやれ」

呆れつつ封書を開くノイン。開いた途端、封書は皺ひとつ無い元の紙片の姿に
戻っていました。ざっと一度目を通し、そして再度じっくり読んでからノインは
顔を上げました。

「他に何か忘れている事は?」
「えっと、ノイン様の邪魔をするなって事と、何か手伝えとか…」
「それだけ?」
「…はい、それだけです!」
「結構。では私の手伝いをしてもらいます。部屋は空いていますので、この屋敷に
寝泊まりしなさい」
「でも…」
「いくらなんでも野宿は無いでしょう。仮にも王宮の侍女を務める者が。
それに傍に居たいのでしょう?本当は?」
「…でも」
「ついでですから我慢も覚えなさい」
「我慢ですか」
「そう。アンの事を思うなら出来るはずです」
「ノイン様」
「何です?」
「意地悪に磨きがかかってます。人間界で苦労してますね?」
「大きなお世話ですよ」

クスっ。再び笑顔を見せたエリスでしたが、その表情が一瞬で強張ります。
そして冷たい無表情を経て、今度は不敵な光を瞳に帯びさせじっと廊下の方を
見詰めます。数人の足音が響き、やがてまず一際大きな身体の人物が中に入って
来ました。トールンはノインに軽く一礼し、そして横目でちらっとエリスを見ます。

「貴様か」
「死に損ないどもの大将はアンタか、トールン」
「貴様に名を呼ばれる覚えは無いわっ!」

屋敷を震わす大声に、リビングへと足を踏み入れかけていたミカサが何事かと
トールンをふり仰ぎます。開いた扉の左右からレイ、ミナ、そしてユキが顔だけを
覗かせて恐る恐るといった雰囲気で中の様子を伺っていました。

「声と身体がデカい事以外に何の取り柄も無いくせに威張るなよ」
「やかましいっ!」

わざとらしく耳の穴を指でほじくって見せてから、エリスは言いました。

「ノイン様、やっぱり私は外に出てます。コイツと居ると腹立つんで」
「おう、失せろ。とっとと魔界へ帰っておれ」
「トールン殿、そのくらいで」

むぅぅっ、と唸ってから手近な椅子に勢い良く腰を下ろすトールン。
溜息ともつかぬ小さな息を洩らしてから、ノインはエリスに言います。

「先ほど手伝ってもらうと言いましたね。後でその話をしますので貴女も残って
居てください」
「ですが」
「最初の我慢の練習です。そこへ」

ノインの指差した先、リビングの隅に背もたれの無い小さな丸椅子が置いてあり
ました。時々、全が踏み台として使っている物です。エリスはその椅子のところに
行くと、それをリビングの一番奥の壁際へと持っていきました。そしてトールンの
姿から顔を背ける様に横向きに座ります。やがて一件の落着と見て、ミカサ達も
リビングに入って来ます。最後に後ろを振り返ってからユキが扉を閉めました。
ノインが怪訝そうな顔で尋ねます。

「他の者は?」

困った様な顔をしながらユキが答えます。

「それが…逃げてしまわれた様なのですが…」
「弛んどるっ!」

テーブルを叩くトールン。テーブルが壊れはしないかとノインは心配になります。
そして部屋の奥からゲラゲラと嗤い声が起こります。

「皆もアンタが嫌いだってさ」
「エリス、いい加減になさい」

トールンが大声を出す前にノインが鋭く制し、それっきり場は静かになりました。
そこへそっと入ってきたのはトールンの大声を聞いて戻ってきたアンです。

「あの…叔父様?」
「おお、アン。驚かせたか、すまんすまん。何でも無いのだ」
「でも」
「大丈夫だ。今、ノイン殿達と大事な話をしている故、部屋に戻っていなさい」
「はい。それで…」

アンの顔が自分に向けられていると気付き、ノインが応えます。

「何でしょう?」
「お茶を…あちらのお客様の分も一緒に用意しましょうか?」

“あちらのお客様”が自分の事だとエリスにはすぐに判りました。
そしてエリスは上半身をひねってアンの居る扉に背中を向けます。

「それは全にやってもらいます。あなたはいいですよ」
「はい。失礼します」

それだけ言うとアンはそっと扉を閉じて自分に与えられた二階の部屋へと退がり
ました。気配が遠ざかったことを皆が納得した後、ノインが口火を切って話し始め
ます。

「作戦についてですが、以前の会議でミカサより提案された内容を少し私なりに
修正して実行したいと思います」
「修正とは?」
「実行場所と陣容について」

ミカサは黙って頷きノインの話を促します。

「元々クィーンの留守中の行動は少人数でという予定でしたので、作戦参加者は数名に
圧縮。その上で明日、神の御子が出向くはずの枇杷高校にて実行したいと思います」
「高校…」

今一つイメージが湧かない様子でミナがぽつりと呟きます。
その点を踏まえ、情況を補足するミカサ。

「建物の構造上の閉鎖性、人数の割に人が特定の部屋に密集している事からくる扱い
易さ、神の御子に対する精神的な揺さぶりの効果、といった辺りが“高校”を舞台と
する狙いになりますか」
「大体、そんな所です」

テーブルに乗せた手を反らす様にして手首だけで小さく挙手した者がありました。

「何でしょう?」

水を向けられて、レイが問いかけます。

「話は判りますが、閉鎖性を活かすという事は他の人間達には催眠か何かを?」
「ええ」
「陣容の変更と言われましたが、そもそもその手の術の使い手が現在の部隊に
おりましたか?失礼ながらノイン様を含めて同時に数名を術に掛けるのが精一杯の
者しか居ないと理解しておりましたので、参加人員を減らすと術の規模も縮小
せざるを得ないと思われますが」
「本当は大規模な精神操作がとても得意な者が来て居るはずだったのですけれどね」

ノインはそう言ってちらりと視線をミカサの背後に立っている人物に向けます。
姉の得意技を同様に発揮する事を期待され、それを二重の意味で裏切っている
ユキは顔を赤くして俯くしか出来ませんでした。そこへ別の可能性に思い
至ったトールンが釘を刺します。

「ノイン殿、くどい様ですがアンは駄目ですぞ」
「承知しています。ですからその件は代案を用意していますので心配無く」

ノインの視線が部屋の奥へと一瞬注がれ、すぐに正面に戻ります。
トールンは何か言いたそうな、やや訝しげな視線をノインに向けたままでしたが、
それ以上何かを言う事はありませんでした。自分の目論見に気付きつつ、彼の口から
それが話題になる事はあるまいというのがノインの読みでしたからまさにその通りの
展開となっていた訳ですが。そんな水面下の駆け引きを知ってか知らずか、ミカサが
二人を議論の本筋へと呼び戻します。

「神の御子を動きづらくするのは良いとして、肝心な部分の攻略は如何なりますか?」

それに対してのノインの答は簡潔でかつ皆を驚かせる物でした。

「何もしません」
「は?」

ノイン以外の全員が、その真意を図りかねるといった表情で互いを見詰め合って
いました。

「これはとても穏便な作戦です」

何処か楽しそうな表情のノインを見て、ミカサは彼が妙な思い付きを試そうとして
いるのだろうと予想し心の中で溜息をつくのでした。そしてまた内容に関しては
事前にあまり詳しく語らないのではないかとも思えるのです。その一方でノインの
真意を既にある側面では正確に理解しつつあったトールンが憮然とした態度で
尋ねました。

「ノイン殿、思うにその作戦には我ら竜族の出番は無いのではないかな?」
「実はその通りです」
「では詳しく聞くまでも無いな。用があれば何時でも呼んでくれ。失礼する」

トールンはそれだけ言うと席を立って、今朝と同じくさっさと出ていってしまい
ました。何か言いかけたレイが腰を浮かせていましたが、声を掛ける間もありません。
言いだしかけた言葉の行き先を求めて視線を彷徨わせるレイ。当然そのはけ口は
場を取り仕切っている相手に向かいます。

「よろしいのですか、あんな勝手を?」
「まぁいいでしょう。実際、この先は聞いてもらっても仕方ありませんし」
「…そうですか」

正直この人の考えは判らない、というのがレイの感想。ですがそれを言っても
仕方無い事も承知しています。渋々といった感じで座り直すとノインの話の続きを
待ちました。

「可能性としての未来を神の御子に見ていただきます」

レイはミナを顔と見合わせ、ユキはミカサがどう受け止めたかを知ろうとそっと
横顔を覗き見ます。ミカサは特に表情を動かさず、ノインの語る内容にじっと
耳を傾けていました。

(第171話・つづく)

# 例によって予定より長くなってます。(爆)
## その10まではいかないと思いますが。^^;

では、また。

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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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