神風・愛の劇場スレッド 第170話『二つの故郷』(その4)(04/06付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 06 Apr 2003 20:21:43 +0900
Organization: So-net
Lines: 390
Message-ID: <b6p2k8$pmc$1@news01bf.so-net.ne.jp>
References: <zm16a.4114$WC3.360177@news7.dion.ne.jp>
<b4eoe8$rfr$1@news01cf.so-net.ne.jp>
<b4eq3c$scr$1@news01ch.so-net.ne.jp>
<b51m9o$6fm$1@news01dh.so-net.ne.jp>
<b5k511$5qt$1@news01bh.so-net.ne.jp>

石崎です。

先週は用事(…って遊んでいただけですが(笑)、があったので投稿出来ません
でした。

例の妄想スレッドの第170話(その4)です。

(その1)は、<b4eq3c$scr$1@news01ch.so-net.ne.jp>
(その2)は、<b51m9o$6fm$1@news01dh.so-net.ne.jp>
(その3)は、<b5k511$5qt$1@news01bh.so-net.ne.jp>からどうぞ。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そう言うのが好きな人だけに。



★神風・愛の劇場 第170話『二つの故郷』(その4)

●桃栗町中心部

その日のお昼時、桃栗町中心部を当てもなくふらふらと飛んでいたアクセス。
決してさぼっていた訳ではありません。
学校に行っている稚空とは、午後に落ち合い昨日の現場へと一緒に向かうことに
なっていました。
最初、アクセスは何時もの様に一人で先に監視すると言ったのです。
が、稚空は何故かそれを却下しました。
当然、アクセスは理由を問い質したのですが…。

「嫌な予感がする、か…。俺って信用されて無いのかな…」

アクセスの鼻腔に、ある香りが届いたのは彼がそう呟いた時でした。

「この匂いは……!」



スーパーの隣には喫茶店もあったので、そちらで食事をすることも出来たのです
が、ツグミはスーパーで出会った少女──麗子と奈美──がこの街が初めてだと
聞くと、案内がてら街の中心部にある噴水広場の自分のお気に入りのカフェに向
かいました。
ツグミ自身はあまり利用しないのですが、ここは昼間はランチも出しているので
した。

最初、麗子の方は渋った様子だったものの奈美の方が積極的で、奈美が麗子に何
やら耳打ちすると、結局麗子の方も一緒にツグミについて来ました。

ランチタイム故に店内はそれなりに客が居たもののその大半は建物の中。

外の席が空いておりますが。
そう、馴染みのウェイターに言われ肯くと、即座にツグミのお気に入りの席に三
人を案内してくれました。

「ここは何が美味いのだ?」
「そうねぇ…」

記憶の底からこの店のメニューを思い出そうとしたツグミ。

「プレートランチ、パスタランチって言うのがあるみたいだよ」
「プレートランチの方が安いな。こちらで良いだろう」
「え〜。パスタランチの方にはデザートがついてるからこっちが良い!」
「贅沢は敵だぞ、奈美」
「あたしはこっちにする〜」

そんな会話を聞きつつ、二人の関係をあれこれと想像するツグミ。
やや邪な方向に想像が向かい始めてしまい、ツグミは慌てて考えるのを止め、そ
して未だ微笑ましい言い争いを続けている二人に向かって言いました。

「あの、この場は私が奢りますから」
「そうはいかない」
「そうだよ!」

この点については、二人の意見は一致した様子でした。

「でも、スーパーで案内して下さいましたし」
「人間として当然のことをしたまでだ」

人間の部分を特に力強く、麗子は発言しました。

「それではこうしましょう。三人でパスタランチを頼むことにして、パスタラン
チとの差額分を私に奢らせて下さいな」

それでも二人は渋っている様子でしたが、最終的にはツグミの提案を呑みまし
た。。



「お待たせしました」

暫く後、三人の前に昼食──本日のパスタであるペスカトーレ、ミニサラダにパ
ン──が並べられました。

「さぁ、頂きましょう」

そう言い、ツグミがフォークを手にしようとした時のことです。

「我が母よ、あなたの慈しみに……」

本当に小さな声で、麗子が呟いているのが聞こえました。

「(食前の祈りなんて、随分信心深いのね。だけど…)」

ツグミの祖母がやはり食前に捧げていた祈りとどこか違う気がするのです。
それが何であるのかは、普段祈りを捧げる習慣を持たないツグミには判らなかっ
たのですが。

「すまない。待たせたな」
「いえ。信心深いんですね」
「ああ。それでは食べようか」
「ええ」

麗子と奈美が、フォークを手にして食べ始める様子を確認してから、ツグミも漸
く食べ始めるのでした。



レイが食前の祈りをよりにもよってこの地の言葉で始めた時、ミナは驚きました。
それはこの地の食前の祈りに似てはいたものの、祈りを捧げる相手が違うもので
ある筈。
その程度の知識はありましたから、目の前のツグミに聞きとがめられたらどうし
ようと思ったのです。
しかし、少なくとも外見上はツグミは何の関心も示していない様子でしたので、
ミナはほっと一安心。

祈りの後、地上界に降りてからの初めてのまともな食事にありついたミナは、パ
ンもパスタも天界や魔界で口にしたものとは比較にならない程の美味しさに感涙
の涙を流します。
レイはと見ると、美味しいのか不味いのか、表情からは全く判断がつきません。
しかし、食べる動作が普段よりは大分早く、美味しく食べているのであろうこと
は十分想像が出来ました。

「(もう少し、美味しそうに食べれば良いのに)」

あっと言う間にパスタを平らげたレイとミナ。
計ったようなタイミングで店員が現れて皿を下げ、今度はデザートと紅茶を運ん
で来ました。
今日のデザートはストロベリームース。
初めて食べるデザートの美味しさに、またまた感涙の涙を流すミナなのでした。

「お待たせしました。ホットケーキと紅茶のセットでございます」

レイよりも先にデザートを平らげ、周囲の様子を見回したミナ。
丁度、向こうに見える席に座っている女性客のところに、店員が注文の品を運ん
で来たところでした。

「(ホットケーキ?)」

それはバタークリームが上に乗り、横にはアイスクリームが添えられた一品。
ミナの敏感な嗅覚は、その匂いを感じ取っていました。
初めて見たその食べ物を無性に食べてみたくなったミナ。
注文しようと思えばお金はありました。
しかし、レイはそんなことを許してくれはしない。
そう思いつつ、レイの方を見ると。

「あら」

レイもやはりホットケーキの方をじっと注視しているのでした。
流石に表情には変化は無かったものの、彼女がホットケーキに関心があることは
疑いようもありません。
ならば、私が背中を押してあげるだけ。

「あのさ、麗子…」

そう口にしかけたところで、ミナは凍り付きました。

「どうした? 奈美」

レイは口をばくばくさせているミナを見て、不思議そうに首を傾げます。
やがてミナが自分の後ろを見ているのだと理解すると、ゆっくりと首を後ろに回
し、すぐにミナと同じように凍り付きました。

「あ…あ…」
「(アクセス!)」

ミナとレイの視線の先には、アクセスの姿があり、ホットケーキの方をじっと見
つめているのでした。



ホットケーキの匂いにつられ、ついつい噴水広場の側にあるカフェまで降りて来
てしまったアクセス。
稚空やまろんが作ってくれるホットケーキより豪華な一品に、アクセスが舌なめ
ずりしていると、自分をじっと見つめている女性が二人いることに気付きます。

「げげっ」

二人のうち一人、黒髪の女性は直ぐに自分に背中を向けてしまい、金髪の女性も
テーブルに視線を落としました。

自分のことに気付かれたと思ったが、偶然だったか。
そう思い、胸をなで下ろしたアクセスは、直ぐに「おや?」という表情になりま
した。

「(あの二人…似ている?)」

二人の面影に、アクセスは見覚えがありました。
自分の同期である天使、レイとミナ。
先日天界に帰還した時に出会い、そして今は天界を追放された恋人同士。
そして今目の前には二人にうり二つの人間の少女。

「(まさか…?)」

目の前に居るのはあくまでも人間の少女。
しかし、見た目だけを偽る術もあります。
それに、先程の反応。もしかしたら、見えない振りをしているだけなのかも。

もしも、本人であるならば、今どうしているのか話したい。
しかし、もしも只の人間だったならと思うと、迂闊に声をかける訳にはいかない。

「う〜む」

腕組みしたアクセス。
ですが、知り合いが同じテーブルに居るのに気付きました。

「お、ツグミじゃん」

恥ずかしいことに、二人の陰に隠れてツグミの姿に今まで気付いていなかったア
クセス。
それだけ、ホットケーキに気を取られていたということでもあるのですが。



ツグミの前にアクセスが舞い降りてきたのは、丁度デザートに口をつけようとし
た時のことでした。
彼が話しかけるまでも無く、僅かな気配と物音を感じ取ったツグミ。
やがて、囁くような声もツグミに届きます。
その声は、どうやらテーブルの上から発せられている様子なのでした。
天使が身体の大きさを変えることが出来るのは知っていたので、ツグミは特にそ
のことには驚きませんでした。

「お〜い」

声の様子から、アクセスの言葉は自分に向けられたものでは無い様子でした。
さて、どの様な反応をしたものかと迷います。
彼は普通の人には見えない存在故、気軽に声をかける訳にもいかなそうでした。



『…わ、目の前に降りて来たよ、レイ!』
『判ってる!』
『どうしよう?』
『今の我々は人間なのだ。無視だ、無視!』

人間界に降下する際の小さな身体をしたアクセスが、テーブルの上に降りて来て、
二人に呼びかけて来た時、二人はテーブルの下で手を触れ合いながら、その様に
心の中で会話をしていました。

「おーい。レイとミナなんだろ? 聞こえていたら、返事してくれよ」
「ねぇ、このデザート、美味しいね」
「ああ、そうだな」
「無視しないでくれよー」
「でも、あのホットケーキも美味しそうだよ、麗子」
「そ、そうだな」
「注文しようよ」
「それは駄目だ」
「ケチ〜!」

レイとミナと思われた人間に、どれほど呼びかけても、二人は全然違う方向を向
いてアクセスを無視し続けていました。

「(そうか。ツグミが一緒だから気にしているのか?)」

そう考えたアクセスは、ツグミが自分達天使を「見える」存在であることを伝え
ようと一瞬考え、それを思いとどまります。
レイとミナは天界から追放された存在。
つまりはアクセスの敵の可能性があるのです。
ツグミが自分の知り合いだと知られ、危険に晒すわけにはいきませんでした。
もちろん、それはアクセスの気にし過ぎではあったのですが。

「ちょっと失礼」

その時、アクセスの後ろでツグミが立ち上がり、カフェの店内へと入って行きま
した。

「(トイレかな?)」

そう思ったアクセスは、今度は二人の少女の近くへと寄って再び呼びかけてみま
した。

「お〜い、聞こえてるんだろ! 俺だよ、アクセスだよ」

再びアクセスが呼びかけてみても、二人は相変わらず無視を決め込んでいました。
そればかりか。

「痛っ!」

レイ似の黒髪の少女が、スプーンをアクセスの頭にぶつけて来たのです。
それは偶然とも思われましたが、わざとであるとも思われました。
そしてそれは実際わざとだったのです。

「ねぇ、この紅茶も美味しいね」
「ああ、そうだな」
『さっととあっち行けよアクセス。しっしっ』
『ちょっと、乱暴は止めなよレイ』
『大丈夫。普通の人間に天使は見えない事になっているからな。これは偶然だ』
『それもそうね。じゃあ…』
「わっ。汚ねぇ!」

今度は金髪の少女が口を拭った紙ナプキンをアクセスの頭の上から落としました。
これも偶然としか思えない動作ではありましたが、やはりわざとも思えます。

「(わざとか? それじゃあ、こっちも…)」
「きゃあっ!」
「どうした、奈美」
「いや、何でも無い」
「へへへ…」

ミナの悲鳴。
レイが見ると、アクセスがミナの前に立ち、その胸をつんつんと突いているので
す。
当たり前ながら、怒りを感じたレイ。
しかし、見えない振りをして悪戯したのも事実なのです。

『レ…レイ!』
『我慢しろ! 瀬川ツグミが戻って来るまでの辛抱だ』
『きゃっ。また…。もう! いい加減にしてよね』

そしてミナに悪戯したアクセスは、今度はレイの方にふわふわと飛んで来ました。
そしてレイの目の前に浮かぶと…。

「ベロベロバー」
「ぶっ!」
『レイ!』
「いや、ちょっと思い出し笑いをな」
「もう、急に笑い出すから吃驚しちゃったよ」
「(なかなかしぶといな…。それとも、やっぱり人違いなのかなぁ?)」



カフェの店内で化粧室に入ったツグミ。
用を済ませ外に出ようとした時です。

「…ツグミ」
「アクセスさん?」

ツグミで無ければ聞こえない様な小声でアクセスが話しかけて来ました。

「こっちを向くな! そのままで聞いて欲しい。あの二人に気付かれたくない」
「うん」

こちらも、小声でツグミは答えます。

「あの二人は?」
「麗子さんと奈美さん。スーパーで私を案内してくれたの」
「名前が似ているな…。あの二人、人間では無いのかもしれない」
「まぁ」
「俺の知り合いに似てるんだ。それで…」
「何度も呼びかけていたのね。でも、声は届いていなかったみたいだけど?」
「それでお願いがあるんだけど…」



人違いと判断してくれたのか、漸くアクセスが側を離れ、ほっと一息ついたレイ
とミナ。
用心して、アクセスが飛び去った方向を見ることはせず、ツグミが戻って来てか
ら辺りを見回してみましたが、アクセスの姿は見えませんでした。
それで漸く、レイとミナは安心するのでした。

「そろそろ出ましょうか」
「ああ、そうだな」

やがて紅茶もすっかり飲み終わり、そろそろと立ち上がったツグミ達。
会計を済ませ、レイ達はツグミに別れを告げようとしたのですが。

「あの…」
「何だ?」
「ホットケーキ、お好きですか?」
「それは…」
「うん!」
「奈美!」
「良かったら、家で食べて行きませんか?」
「え、本当!?」
「奈美! いや、そんな訳には…」
「遠慮はいらないわ」
「しかしだな」
「実のところ、一人暮らしで寂しいの。午後のお茶、つきあって下さいません
か?」
「麗子…」
「判った。つきあおう」

こうして、レイとミナはツグミの家に向かうことになりました。
ツグミの口元に、何故か意味深な笑みが浮かんでいることに気づかぬままに。

(第170話・つづく)

来週に投稿出来るかは微妙……。
では、また。

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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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