神風・愛の劇場スレッド 第165話『悪魔の矢』(その11)(5/31付) 書いた人:佐々木英朗さん
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From: 佐々木 英朗<hidero@po.iijnet.or.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
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佐々木@横浜市在住です。

<20020531123851.6c797da1.hidero@po.iijnet.or.jp>の続きです。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。



★神風・愛の劇場 第165話 『悪魔の矢』(その11)

●名古屋病院

その気配が強まり始めた時から、彼等はある瞬間をずっと待っていました。
佳奈子の身体から飛び出した悪魔が病室の天井近くでわだかまり、もやもやと
姿を見せ始めたのと同時にわずかに開いた扉の透き間から稚空がピンを
放っていました。悪魔は叫ぶ間も無く封印され、差し出されたトキの手のひらに
掴み取られてしまいます。病室には何も無かった様に相変わらず眠り続ける
佳奈子の息遣いと熱心に語り掛けている弥白の声だけが聞こえていました。



佳奈子は背中を丸めてうずくまっていました。微かに肩が震えているので
多分泣いているのだろうとセルシアは思いました。セルシアは佳奈子の
すぐ傍にひざまずいて彼女の震えが止まる様にしっかりと肩を抱きしめます。
そして耳元でやさしく語り掛けました。

「もう泣かないで」

か細い声で佳奈子が応えます。

「私の半分が消えちゃった…もう何にも出来ない」

セルシアは諭すようにつとめてゆっくりと話しました。

「そんな事は無いですです。今まで出来た事がこれから出来ないはずは
ありません。ちゃんと同じ様にできますよ」
「駄目なの。私は昔の私に戻ってしまったから」
「誰も昔に戻ったりはしないですです」
「どうして?」
「一度起こった事は変わらないから」

突然、佳奈子がセルシアの胸に顔をうずめてきました。

「あなたが私の傍に居てくれるの?あなたが代わりなんでしょ?」
「違います」

毅然としたセルシアの言葉に佳奈子の震えがぴたりと止みます。

「ここはかなこちゃんだけの場所。ここで誰かを求めては駄目ですです」
「でも…私は…」

セルシアは佳奈子の両肩を掴んで少し揺すり、彼女の顔を上に向かせます。

「でも大丈夫。かなこちゃんを支えてくれる人はちゃんといますよ」

佳奈子の瞳がセルシアを突き抜けて遠くを見詰めました。

「判ってますよね?」

佳奈子の顔にやや緊張した表情が浮かび、それから穏やかな顔へと変化しました。
そしてセルシアの腕の中から佳奈子の姿は徐々に薄れ、やがて消えてしまいました。
セルシアは立ち上がると顔を上げて深呼吸をします。

「降りるより昇るのが大変なんですですぅ…」

そうひとりごちるとセルシアの姿もまた溶ける様に消えていくのでした。



そっと目を開けるとぼんやりと暗い天井が見えました。頭の奥に重い
塊がある様な感覚があり、身体もだるさにきつく縛られていました。
再び目を閉じようかとも思いました。夢の続きが自分を呼んでいます。
その声に耳を傾けているうちに、段々とそれが本当に聞こえている様に
思われ佳奈子はそっと視線を彷徨わせてみました。右手側には窓があって
淡い光が射し込んでいます。反対側には薄暗がりがあるばかりでしたが、
その中に白い人影がある事は判ります。手を差し伸べてみようとして、
そこで初めて既にその人影が自分の手を握っている事に気付きました。

「母さん」

何とか声を絞り出すと手がぎゅっと握り返され、そして相手が身を
乗り出して自分の名を呼ぶ声が今度ははっきりと聞こえました。

「佳奈子さん、よかった…」

佳奈子は一瞬それが誰の声なのか判らずに混乱し、判った途端に更に
混乱してしまいました。何か言葉にしようとしますが口がぱくぱくと
動くだけで声は出ませんでした。

「どうしたの?何処か痛む?誰か呼びましょうか?」

表情は良く判りませんでしたが弥白の声の調子が不安を帯び始めた事に気付き、
佳奈子は慌てて首を振って否定の気持ちだけは伝えようとしました。
少なくとも佳奈子の希望は誰かを呼ぶ事では無いと弥白は理解します。
それでも何も言わない佳奈子に弥白は辛抱強く語り掛け続けました。

「落ち着いて、佳奈子さん」

そう言われて慌てふためいている自分が恥ずかしくなり、佳奈子は何処かへ
隠れたくなっていました。しかしどう見ても此はベッドの上で、おまけに
顔を隠そうにも左手は弥白が握っており右手はなにやらゴワゴワとチューブやら
電線やらが着けられていて自由になりません。佳奈子は間違いなく赤くなって
いるであろう自分の顔が、暗くて弥白には良く見えないだろうという予想が
間違っていない事を強く願いました。そんな一部始終をやや居心地の悪い思いを
抱きながら見詰め続けたツグミの傍に、トキがやって来て小声で言いました。

「お願いしたい事があるのですが」
「終わったのね?」
「はい」

ツグミは浅く頷いてからトキの傍を離れて弥白の脇に立ちました。
驚きで息を飲む気配が伝わりましたが、それが弥白の物では無かったので
ツグミは少し安心し、それから病人を驚かせたのだと思い出して気の毒な
事をしたと感じました。それでも最後の用は済ませなければなりません。

「山茶花さん」
「何?」
「私達、帰りますね」
「あぁ、そうね。でも、一人で平気なの?何なら」
「一人じゃ無いわ」

ツグミは微笑んでそれだけ言うとベッドから離れ扉を開けて病室を出ます。
そしてセルシアを背負ったトキが続いて廊下に出た気配を確かめてから、
そっと扉を閉めました。そのまま無言で廊下を行くツグミ。足音ひとつも
立てませんが確実についてくるトキの気配も感じられます。そして充分に
病室を離れてからトキが話しかけて来ました。

「何故です?」
「はい?」
「どうして弥白嬢と一緒に此へ?」
「セルシアに頼まれたから」
「セルシアが?」

トキとツグミは揃ってセルシアの方へ顔を向けましたが、既に本来の意味で
眠り込んでいるセルシアからの返事はありませんでした。

「後はお願いって言われたの。だから取りあえず事の顛末は見届けようかなって」
「お気持ちは判らないでも無いですが、あまり我々の…何と言いますか」
「危ない所に顔を出すなって言いたいんでしょ?」
「そういう事です」

そのまま誰とも会わずに通用口を抜けた三人と一匹。病院の建物から
やや離れた辺りで道でも何でも無い方向からぼさぼさと雪を踏み締めて
進む音が近寄ってきます。ツグミとトキは立ち止まってその足音が傍に
来るのを待ちました。

「ツグミさぁ〜ん、置いて行かないで…」
「何処から出てきたの?」
「内証」
「窓から飛び下りるなら最初にした方が良いわよ」
「何で?」

ツグミはやや後ろに居た稚空に顔を向けて言いました。

「今日の日下部さんは何色?」
「ん?」

稚空は唐突に振られた話題に何事か判らないという顔をします。
しかしツグミは稚空に顔を向けつつも相変わらずまろんに話しかけているのです。
まろんはツグミの言った事を正しく理解しました。そしていわれの無い理不尽な
怒りを稚空に対して感じてしまいます。

「…そういう事か」

まろんは稚空をじっと睨んでいました。

「な、何だよ」
「別に」

稚空が何か言おうとして口を開きかけますが、トキの言葉が会話に割り込みます。

「お話中申し訳ありませんが」
「あ、ごめん。セルシアは大丈夫?」
「疲れて寝てしまっていますが、特に問題はありません」
「判った。窓開いてるから先に連れて帰ってあげて」
「ありがとう」

トキはアクセスの手を借りて背負っていたセルシアを抱きかかえ直してから
飛び立っていきました。アクセスもそのすぐ後を追って行きます。

「稚空も先に帰っていいよ」
「…判った」

終始何か言い足りない様な表情であった稚空ですが、結局何も言いませんでした。
トキ達を見送るかの様に暫く黙って空を見ていたツグミ。稚空の背中を見送る
まろん。やがてツグミがぽつりと言いました。

「雪、止んだわね」
「うん」
「明るい?」
「うん。月明りが反射して凄く明るいよ」
「満月?」
「ん〜どうかな、すこし欠けてるかも」
「そう」

それから暫く、二人は何も言わずに夜空を見上げていました。やがて。

「じゃぁね」
「帰るの?」
「帰りますよ」
「寄って行きなよ。泊まって行ってもいいよ、ツグミさんの家より近いし」
「ありがとう。でも今日は遠慮させて。イカロスを家で休ませたいの」

ツグミが頭をぐりぐり撫でている下からイカロスの瞳がまろんを見上げます。

「そうだね。それじゃ私が送っていく」
「それも遠慮しようかな」
「え〜っ、何で何でどうして〜?」
「だって」

ツグミはまろんの家の方角へ顔を向けて言います。

「日下部さんも早く戻ってセルシアを介抱してあげないと」
「それは後でも…」
「男性に任せてしまって良い事かしら。私だったら嫌よ」
「う〜っ……」

不満気なまろんの顔に向かってツグミは小首を傾げて返事を促します。

「判ったよ、でも気をつけてね」
「平気だってば。イカロスがちゃんと居るわ」
「うん」

まろんは辺りをサっと見回しました。稚空の姿はもう街角の奥に消えていて、勿論
トキやアクセスはとっくに視界の外です。そして他には誰も見当たりませんでした。
まろんはそれを確かめるとツグミの正面に立って両手をツグミの首に回します。
殆ど同時にまろんの背中にもツグミの右手が回されて二人は唇を重ねました。

「おやすみなさい」
「おやすみ」

まろんは去っていくツグミの後ろ姿を見詰め、そして彼女の左手の先に居る
イカロスの事を思いました。

●桃栗町の外れ

まなみは毛布と身体の間に開いた広めの透き間に流れ込む夜の空気を肌に感じて
ふいに目覚めました。どうやら友人の家に泊まる口実にした雪は既に止んだらしく、
窓から射し込んでいる明りは雪明かりから月明りに代わっています。
ベッドから抜け出てガウンを羽織り、部屋の片隅に佇む人影の背中に身体を
預けると相手は独り言ともつかぬ言葉を囁きました。

「思いの外、長持ちしましたね」
「長持ちって?」

聖は手にしていた一本の枯れ枝を示して答えました。

「花、ですよ」

まなみの目の前で微かに赤みを残した最後の花びらが落ちていきました。

(第165話・完)

# 2月25日は長かった。(自分で言うな ^^;)

では、また。

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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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