裏金問題とプロマジシャンの苦心

 マジックというと「だます、だまされた」というイメージがあるので、 表題から、裏金のイカサマのことかと思われるかもしれないが、 そういう話ではない。(そもそも、「これはマジックです」と言う時点で、正々堂々としている)

 世間を騒がせている裏金問題を追及された議員が、政治に金がかかる事情を弁明するのを聞いて、 どこかで聞いた話に似ていると思った。

 子供の頃からお世話になって人生の楽しみ方を教わった、奇術研究家の高木重朗先生が亡くなって33年。 生前にメモしていた高木先生の言行録を整理した。 博識温厚な先生は、マジックの楽しみを広め、アマチュアのコンテストでは必ずいい所を指摘していた。 半面、日本のプロの不甲斐なさには手厳しかった。

 「高木語録」もいきなり北見マキさんの批評で始まっていた。 マキさんは高木先生に師事し、プロマジシャンの団体である日本奇術協会の会長も務めたトップマジシャンだが、 高木先生に言わせると「キめ過ぎる」のがよくないという。 海外の一流のプロは演技の余韻を残すのが違う。

 別の機会に、マキさん自身が高木先生に「拍手喝采を引き出す大切さ」を語っていた。 寄席の芸人としては、観客が呆気にとられて静まり返るようではダメで、 つられて拍手をしたくなるように誘導して座を盛り上げ、興行主にアピールすることは 職業として重要なのだという。

 好きな奇術だけしていればいいアマチュアには思いもよらない、 プロならではの観点だと感心した。 (高木先生が、「日本のプロは、プロフェッショナルのプロではなく、プロレタリアートという意味のプロだ」 と話していたとおりだ)

 しかし、そうなると一流の演技が生まれないのは、観客の側に責任があることになる。 安直な演技で満足する客が多ければ、演じる方もそれに合わせることを目指すことになる。 正に商売であり、顧客第一主義である。

 そこで思い至った。 裏金問題を追及された議員が、政治に金がかかる一因として、 地元支持者が冠婚葬祭やら目先の対応を求めることを上げていた。 「そういう資金が党から支給されてるんだろ」と要求する「地元有力者」もいるという。 こうなると政治資金というより選挙資金のようにみえるが、 議員当人にとっては政治生命に関わる重大事だ。

 議員も人気商売ということではマジシャン達芸人と同じく、 ファンをつなぎとめようとするわけで、 どちらも実は我々「民意」のレベル次第といえる。

 (2024.3.11)


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