原発のシミュレーションと入学模試

 事故を起こした福島第一原発の原子炉内部が現在どうなっているか、関心が集まっている。NHKで放送された、溶け落ちた燃料が容器を貫通して広がっていくシミュレーションイメージが常識化しているが、実際は違うのではないかという議論がある。それを読んで、学生のときの模擬試験のあとの合否判定を思い出した。

 「不確実だから当たるも八卦」などということではない。説明しよう。

 私の学校時代はコンピューターの出始めで、全国規模の入学模試の集計や結果判定にも使われ出した頃だった。当時、「コンピューターで偏差値を計算して志望校の合否判定をします」といううたい文句を見て、違和感を感じたのを覚えている。コンピューターがやるのは計算だけであり、導き出される判定が信用できるかどうかはプログラムを作った人間次第である。大勢のバイトを使って算盤で計算しようが、コンピューターを使おうが、テスト業者の勝手である。「コンピュータが判定する」という表現は比喩であり、誤解を招く。

 一方、コンピューターを使った福島原発事故のシミュレーション。テレビや雑誌でもよく参照されるプログラム、SAMPSON(注)は、私も開発当初から末席で関わってきた。

 (注)平成5年度から平成14年度にかけて旧通商産業省・経済産業省の委託事業の中で旧財団法人原子力発電技術機構が開発し、現在、一般財団法人エネルギー総合工学研究所が所有しているプログラムIMPACTの一つ。IMPACTは、軽水炉プラントの定常運転からシビアアクシデントに至る種々の事象を対象としたプログラム群の総称で、SAMPSONは、シビアアクシデントの総合解析プログラムである。開発時、SAMPSONは(「サムソンとデリラ」の)「サムソン」と読んでいたが、最近は「サンプソン」と読むようである。

 SAMPSONは国内外の原子力シミュレーション技術や知見を集めたもので、その解析能力に疑義をはさむものではないが、あくまでツールである。模試の結果を処理するプログラムと比べればよほど複雑な計算処理をしているが、それでもプログラムとしての限界がある。

 すなわち、プログラムに組み込んだ論理の前提があり、「その場合はこうなる」と予想するのがプログラムというものだ。その前提を知らずに結論を受け入れるのは、科学的とは言えない。

 もう一点、「コンピューターによる解析結果に基づくCG」と言うと、解析プログラムを起動するだけで溶融物がドロドロと流れていく画像が出てくるような印象を受けるが、それは違う。解析結果を分かりやすく図化する段階で、CGアニメーターの解釈が入り込んでいる。その意味で、「これがSAMPSONの結果です」というのはウソではないが、「消防署の方から来ました」という消火器の押し売りのセリフに近い危うさを感じる。

 さて、SAMPSONの本体は現在も新たな知見を反映した改良が進められている。プログラムとはそういうもので、得られた結果に固執・安住することなくそのように見直していくことこそ、科学的ということだろう。

(2014.12.21)


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