プロの奥義

 リンパマッサージのプロの方の言として、マッサージそのものはそっと触る程度でいいということを伝え聞いた。

 問題はそのあと。それだけでは客が満足しないので、あえて強く押すことも加えるという。それによって信頼感を持たせることが、継続して実効をあげるのに必要なのだと。

 私が懇意にしていただいているダンスの先生が、イギリスで評判のマッサージ師の施術を受けたとき、あまりにソフトだったので不満に感じ2度と行かなかったという話をしていた。日本人は肩こりがひどく、指圧など強い圧迫を求める傾向があるというので、日本人ならではのエピソードかもしれないが、一流のマッサージというのはソフトであるということは確かなようだ。

 日本人相手に、本来不要な強い押しを加えるという話で、思い出したエピソードがある。奇術研究の第一人者である高木先生に対して話していた、さる一流プロマジシャンの言葉だ。いわく、奇術の演技では、観客を不思議がらせ、感心させるだけではダメで、拍手をしたくなるように誘導して、客席を盛り上げることがプロとして必要なのだという。場が盛り上がることで、興行主がまた雇いたくなるという。

 私のようなアマチュアは、自分の演技で相手が不思議がれば満足だが、商売となると別の視点が必要ということで、なるほどと感心したものだ。マッサージの件は、その場の客受けを狙ったわけではないが、客心理を誘導して次につなげるという根本は似ている。

 ところで、実は話はこれで終わらない。高木先生は風姿花伝にもある芸の奥義として、「決まる芸はまだまだ」と評した。仰々しく決めポーズをするのではなく、すっと終わって観客に余韻を残すのが理想だというのだ。古くはカーディ二―、現代ではフレッド・カプスを例にあげておられた。

 ショービジネスで稼ぐためにはそうも言ってられないのかもしれないが、物事には奥の奥があるということだ。

(2013.6.26)


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