お腹の中の小人たち

子供の頃に図鑑で、人体の消化機能の説明図で、お腹の中に小人が大勢いて食べ物を処理しているのを見て納得したものだ。ただ、その小人のお腹の中にもさらに小さい小人がいるのかと想像し、無限に入れ子になっているのかとも思った(まさにマトリョーシカ)。

「ダイエットの科学」(*)という本を読んで、まさにその素朴なイメージが結構的を射ていたと知った。つまり、われわれのお腹の中には、30分で世代交代する小人たちがいて、食環境の激しい変化に柔軟にシフト対応している。(*:ティム・スペクター著、熊谷怜美訳、白揚社刊)

世間には「××ダイエット」など、この食材は体にとってこういう効果があるという話が山ほど流布している。一々その効果が覚えきれず、結局いろんなものを食べるのがいいのだ、ということになる。

同書は胡散臭い書名に反して、「脂肪悪玉論」などの常識が実は科学的根拠が乏しいことを丹念に説明している。特に13,000人の双子を対象とした研究は、不確実な要因を極力排除。これぞ科学。テレビによくある「×人で効果を確かめました」というのがいかに説得力がないのか思い知らされる。

ポイントは腸内細菌で、種類が膨大で人によって様相が異なる。ダイエット法やさまざまな食事療法が人によって効果がまちまちなのもうなずける。

自分の体は完結した個体だと思い込んでいるが、栄養吸収に関してはこの腸内細菌たちに任せているわけで、それぞれ自分とは別個の小人たちが活動しているわけだ。思えば、食べ物がさまざまに変化してきた時間スケールに対応するのに、人間の遺伝的変化を待っていたのでは間に合わない。そこは小回りが利く下請けに任せるというのは巧みな方法。というより、そうしないと環境変化の中で生き残ってこれなかったのだろう。

(2018.5.4)


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