看板ウォッチング

 「1日30分のウォーキングは万病に効く」という話を聞いたが、逆のように思う。人間は動物、つまり動くことを前提に人体の様々なシステムが設計されているので、日常的に30分すら歩かないというのはスペック外の「使い方」で、だからいろいろ弊害が出ても仕方ないのではないか。というわけで、なるべく歩くようにしているのだが、ささやかな発見がある。

 地元の地下鉄の出口の階段の先にそば屋の看板があり、しばらく「満服セット」と書かれていた。何かひっかかると思ったら、「腹」が「服」になっていた。洋服の中に何かつめてくれるのかい、と突っ込もうとしていたら、ほどなく訂正されていた。

 一方、学問成就で有名な湯島天神の近くのそば屋には「合格十割蕎麦」と掲げてあった。そばの出来が合格、という意味ではないだろうから、合格間違いなしということだろう。ゲン担ぎにはいいが、実際に食べてみたが分量としては若い受験生には物足りないのではないかと心配だ。なかなか「満服」にはなりそうにない。

 かつて勤め先だった赤坂界隈で、食べ物屋さんで「お持ち帰り」ならぬ「おもちかいり」という看板が気になっていた。それもひらがなで手書きされていて、一種、おどろおどろしいというか、独特の味わいがあった。さんざん気にかけていたのだが、今振り返ってみると、看板が強烈すぎて、何を売っていたのか記憶がない。

 最近気になったのは、地下鉄のホームで見かけた「このエレベータからはXX番出口には行けません」という看板だ。「XX番出口」の部分だけが、他の場所の表示と統一されて黄色地で目立っているのだが、EXITという表記もそのまま共通。それが目立つだけに、日本語が読めない外人の目には、あきらかにこれがXX番出口へのエレベータのように見える。ご丁寧に「Information」と銘打っているが、少なくともこれは余計だろう。オリンピックまでに訂正されることを望む。

(2014.11.2)

 東京メトロの名誉のために付け加えると、地下鉄のホームの看板の件を同社のホームページから指摘したところ、ほどなくして「出口ではない」という英訳が当の看板の余白に追加されていた。指摘のおかげかどうか分からないが、東京オリンピックには間に合ったようだ。素早い対応で思い出したが、かつてわが師の高木先生がNHKの「世界のマジックショー」で解説していたさい、前編の放送で「聞き役の女性がしゃべり過ぎ」という投書があったというので、後篇では局のほうで極端にセーブし、「そこまで視聴者に迎合しなくても」と呆れていたことがあった。

(2014.12.17)


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