デス・バイ・ハンギング

 コロナの長いトンネルの出口が見えてきたかと思ったら、思いもよらぬロシアのウクライナ侵攻で世情騒然だ。

 ロシア首脳部(プーチンと取り巻き)の戦争犯罪が早くから叫ばれる中、第2次世界大戦後の東京裁判の判決言い渡しのシーンが蘇った。私は戦後生まれながら、「戦争犯罪人」の「平和に対する罪」の刑として「デス・バイ・ハンギング(絞首刑)」という宣告の記録映像がおどろおどろしく記憶に残っている。

 東京裁判は正当性に疑義が唱えられているとはいえ、当時の日本の指導者を戦争犯罪人とするなら、プーチン大統領こそそれにふさわしい。

 対するウクライナのゼレンスキー大統領がアメリカ議会での演説で、ロシアの侵攻を日本軍の真珠湾攻撃になぞらえたそうだが、日本は民間人を標的にしていないといった反論もある。

 そもそも非人道的武器というが、人道的武器と何だろう。敵の兵器のみをピンポイントで破壊する精巧なロボット兵器ということなら、「非武装中立」という言葉と同様、言葉遊びで非現実的だ。

 真珠湾攻撃の話は、しかし、ロシアの立場に立つと案外的外れでない気もする。戦争は不信感や危機感が引き起こす。日本が戦端を切ったのは、黄色人種嫌いのルーズベルト大統領が故意に日本を追い詰めた結果という陰謀論がある。ロシアもNATOの拡大と敵対によって危機感を募らせた結果の暴挙かもしれない。

 そんな事情について早くから予想して警鐘を鳴らしていた人物としてジョージ・ケナンの名前が上がり、懐かしかった。米ソ、米ロの対立といえば、私にとっては大学時代(まさに冷戦時代)に専門外ながら受講した永井陽之助教授の「ビヒモスとリヴァイアサン」の話だ。大陸国家のソ連と海洋国家のアメリカの2つの超大国をなぞらえたもので、授業では盛んにジョージ・ケナンの名前が聞かれた。

 そのジョージ・ケナンが、NATOの安易な拡大はロシアの反発を招き危険だとして、今回の状況を予見していたというのだ。そうした自国の外交官の進言を無視したアメリカが今回の騒乱の遠因を作った。

 国連憲章が踏みにじられても、犯人が常任理事国だということで、国連は無力だったが、そもそも第2次大戦の「連合軍」が由来であり、限界をさらした感がある。未だにジョージ・ケナンの予見が的中するにつけ、当時から本質的に進歩してないということだろう。ただしネットによる全世界的情報共有化が救いだ。

 対米勢力として台頭してきた「ビヒモス」中国もソ連と同じく海洋進出を目指しているが、そのための空母を提供したのが外ならぬウクライナだ。ウクライナは北朝鮮の核開発も助けている。主権国家なのだから、いずれも文句を言われる筋合いではないが、逆に「主権国家」とはそういうものだ。人道支援に異論はないが、主権の支援には、そうした事情もわきまえる必要がある。

(2022.3.30)


HAのHP