メトロに乗って

(本稿は映画とは全く関係ありません)

 私が小さい頃、東京には都電が縦横に走り回っており、利用した覚えがあるが、今はどこに行くにも地下鉄。東北出身の義理の母は、上京の折はバスを利用したがるが、どうしてもわざわざ階段を上り下りしてでも地下鉄を薦めてしまう。何故かと自省するに、どうもバスの待ち時間がじれったいのだと思う。東京では地下鉄なら5分以内で次の車両がホームに来るが、バスでは待ちぼうけを食わされる印象がある(江戸っ子は気が短けぇんでぃ)。通学・通勤はずっと地下鉄だし、中学の同級生が(旧)営団に就職して車掌になり、裏話を聞いたこともあるし、長らくメトロニュースが愛読紙だったりと、結構親しみがある。

 銀座線が日本の地下鉄第1号と聞くが、私の場合、「東西線という新しい路線が開通する」というのを聞いて、子供心にそれまで不変の物と思っていた路線というものが新設されることがあるのだと驚きを感じた記憶が残っている。ともかく、東京の地下鉄は歴史あるものとして愛着があり、駅の案内表示も洗練されていると誇らしく思ってきた。子供の頃、路線のシンボルカラーを白地に輪で表したデザインを見て、余白の美しさに感心したものだ。地方の地下鉄では、目立つようにということか、青地に白抜きで文字を表示するデザインが目についた。それが東京に戻ると一転して白地が基調で、古さはあるが大人の印象を感じていた。

 それが近年、「帝都なんとか営団」が安っぽい「メトロ」になり、ホームの案内が濃紺に白抜きの文字に変わり始め、あろうことか輪の中に駅番号が安直に書き込まれてしまった。絶望感すら感じ、これは一言記しておかねば・・・と思ったのだが、これだけでは偏屈な中傷記事に過ぎないので、本項の公開を思いとどまっていた。

 ところが先日、「メトロ」のホームで外国の美人に話しかけられ、XX駅はこれでいいのか、と聞かれた。(当方、英語は得意でないが、状況からして、その程度の趣旨は分かった)それで、とりあえず「Yes. 1, 2, 3・・・」と指折り数えて言いながら「何駅目」というのは何て言うんだっけと必死に考えていたら、線路をはさんで目の前の表示板に例の数字の書かれた輪が並んでいた。それで、(聞かれた駅名がアルファベットと共に6番と記されていたので)No.6だと言って指差したら、どうやら通じたようだ。駅番号はこうした説明を容易にすることが目的なのは知っていたが、ホントに助かった。と、いうわけで、輪の中に駅番号を書き込むのは(洗練さは損なわれるが)国際交流にまことにいいことです。

(2006.12.10)


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