From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 23 Mar 2003 20:15:44 +0900
Organization: So-net
Lines: 365
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<b51m9o$6fm$1@news01dh.so-net.ne.jp>
石崎です。
例の妄想スレッドの第170話(その3)です。
(その1)は、<b4eq3c$scr$1@news01ch.so-net.ne.jp>
(その2)は、<b51m9o$6fm$1@news01dh.so-net.ne.jp>からどうぞ。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そう言うのが好きな人だけに。
★神風・愛の劇場 第170話『二つの故郷』(その3)
●桃栗町中心部
2月最後の月曜日。
その日もイカロスを連れ桃栗町の中心部へとやって来たツグミ。
先日買い物を済ませたばかりでしたが、前の日の夜に幾つか調味料や食材の残り
が心許ないことに気付いたのです。
別に無ければ無いでそれなりの献立を考えることが出来たので、次のまとめ買い
の機会に合わせて買うということも出来ましたが、どのみちイカロスを連れて散
歩に出かけることにしていたので、そのついでに寄ることにしました。
ツグミが桃栗町中心部にあるスーパーP&Mを中心とした商店街を訪れたのは、
お昼少し前のことでしたが、その日の商店街は何時もと異なる様相を呈していま
した。
商店街の入り口に差し掛かると、聞こえてきたのは入り口付近に位置する別に料
理店も経営している精肉店の店主と何事か話しているらしい男性客の声。
それだけであれば気にも止めませんでしたが、問題はその男性の話している言葉
でした。
「(…英語?)」
それも単なる英語ではありません。
そしてツグミはその言葉を昨日聞いたばかりなのでした。
「(間違いない。豪州訛りの英語だわ)」
男性は、どうやらラム肉を買おうと店主にそれを伝えようとしているらしいので
すが、仮に彼が米語ないしは英語を話したとしても、店主には伝わらないであろ
うことは、彼の反応を聞く限り明白でした。
「あの、この人はラム肉を欲しがっているみたいなんですけど」
「おや、いらっしゃい! この人の言葉、判るのかい?」
「少しは」
「ラム肉? 骨付きロース、肩ロース、何ならローストもあるよ」
料理店も経営しているだけあって羊肉も在庫がある様子で、ツグミは安堵しまし
た。
店主の話に肯くと、ツグミは豪州訛りの男に話しかけました。
『あの、ラム肉のどの部位が欲しいのかって聞いてます』
『言葉が判るのですか?』
『少しは。ゆっくりと話して下さいね』
『助かった。この国でも言葉は通じると聞いていたのに、全く通じないんだ』
マクベスと名乗ったその男から注文を聞いたツグミは驚きます。
内容では無くその量に。
改めて確認し、それが間違いでは無いことを確認したツグミがそのまま肉屋の店
主に伝えると、今度は店主が驚く番でした。
結局、店には注文に応えられるラム肉の在庫が無いと知ると、在るだけの肉を買
い占めた挙げ句、明日取りに来るからと注文までし、代金を前金、しかも現金で
支払いました。
「ありがとうございました〜」
ツグミには見えませんでしたが、数キロに及ぶラム肉(結局、部位に関わらず全
てのラム肉を買い占めたのです)を抱えているマクベスと共に、肉屋を後にした
ツグミ。
『凄い量ですね。パーティーでもするんですか?』
『いや。家は大飯喰らいが多いからね』
『マクベスさんは、オーストラリアから来られたのですか?』
『オーストラリア? ああ、そうだよ』
少しの立ち話の後で、先を急ぐというマクベスと別れました。
その直後、昨日出会った全の「お姉さん」だという少女のことを聞けば良かった
と思ったのですが、後の祭りでした。
「サーモン? ああ、鮭ね。切り身かい? え、丸ごと?」
ツグミがスーパーに向けて歩いて行くと、今度は魚屋から魚屋の若旦那と先程と
は別の男性が、話している様子が聞こえてきました。
上手くコミュニケーションが取れている様子なので、その場を通過したツグミは、
今度は八百屋のおばさん相手に何事かをまくし立てている男性に遭遇、再び通訳
をする羽目になりました。
リアと名乗った男性もマクベスと同様に大量に買い物をすると、ツグミに礼を言
いそそくさとマクベスが去った方向に小走りに姿を消し、またもや少女について
話を聞くことは出来ませんでした。
「(オーストラリアからどうしてこんなに人が?)」
その疑問は魚屋で二人目の豪州訛りの男性に遭遇した時から頭の片隅を占めてい
ましたが、スーパーに近づくにつれますますそれは膨らんでいきました。
豪州訛りの英語に加えて、ツグミには理解できない言葉で会話している男達もい
ます。
「(…この言葉?)」
全と少女が昨日話していた言葉と同じものに思われました。
単語単語は何となくどこかで聞いたような気がするものの、全く理解出来なかっ
た言葉。
一体これはどこの言葉か…。
考え事に夢中になったツグミは、イカロスが教えてくれなければ、道端の看板に
激突するところでした。
予定よりも遅い時刻とはなったものの、スーパーに到着したツグミ。
店内に真っ直ぐ進もうとして、今日の同行者はイカロスだけであることに気付き
ます。
最近は、誰かと一緒に来ていることが多かったので、ほんの少し寂しい気持ちに
囚われたツグミ。
しかし、直ぐにそれを堪え、自分一人で来た時は何時もそうである様に、まずは
レジの方向へと向かいます。
そこが確実に店員がいる場所であり、その案内で店内を巡回するのがいつもの買
い物のやり方なのでした。
「すいません、お客様。少しお待ち下さ〜い」
バーコードを読みとる音がひっきりなしに響くレジ。
そしてツグミの横では商品を袋に詰め込んでいる男達の物音。
彼らの言葉も豪州訛りの英語、そして謎の言葉でした。
レジにはどうやら行列が出来ているらしく、いつもなら即座に誰か駆けつけてく
る店員は、誰一人としてツグミに近づいてくる気配はありませんでした。
そもそも今日は平日の昼前だということを思い出したツグミ。
こんな時間に、これほど繁盛している商店街。
一体、この人達は何者なのだろう。
そんな疑問を抱えつつ、ツグミはその場に立ち尽くすのでした。
●久ヶ原神社跡地 ミカサ達の本陣
「それでは、これより食料調達及び偵察作戦に出立します」
「留守を頼みます。トールン様」
「うむ。気をつけてな」
竜族の男達、そしてレイとミナを初めとする若干の天使。
総勢数十名からなる現地調達部隊は、大部屋での打ち合わせの後に洞窟の本陣を
出発することになりました。
現地偵察の作戦の話を告げられた時、一番大喜びしたのは天使達でした。
この地に駐在している天使達と鉢合わせするのを避ける意味で、結界の外に出る
ことを固く禁じられていたからです。
とは言え、今回は隠密任務であるが故に人数を絞る必要があり、姿を消す術では
無く見た目を変化させる術を持つ者を選抜すると告げられると、残される者の落
胆もまた大きいものでした。
彼女達を納得させるため、人間界の珍しい産物を色々と購入する約束をさせられ
たレイとミナでしたが、レイはともかく、ミナは嫌な顔一つせずに引き受けたの
です。
竜族はヒトの姿を取れるのですが、元々地上界に居た者を中心に選抜しました。
それでも荷物運びのために魔界から降りて来た竜族の者を連れて行かざるを得な
かったのですが。
いよいよ洞窟から出立しようとした時です。
彼女達の指揮官がノインの屋敷から戻って来ました。
「一体、何事かな?」
見た目を変える術を施し、天使の誇りである白い翼と尖った耳、額の瞳を隠した
レイとミナの姿を頭からつま先まで眺めながら、ミカサは尋ねました。
事情を聞くとミカサは肯き、レイ達の作戦を許可しました。
そしてこの街の地図を広げるように言うと、こうレイ達に助言したのです。
「このスーパー。こことこの周辺の商店街だと食材が安いから、ここに行くと良
い。桃と栗のマスコットが目印だから、直ぐに判ると思うよ」
●桃栗町中心部
自動車を連ね、ミカサに教えられたスーパーP&Mに辿り着いたレイ達。
彼が目印だと言った桃と栗のキャラクターを描いた看板が実は町内の各所にあり、
目印の意味を果たしていなかったことが誤算でしたが、地図上の位置も把握して
おり、車に搭載されていた人間の機械が正確な位置を指し示してくれたので、問
題はありませんでした。
商店が立ち並ぶ商店街に辿り着き、その賑やかさに驚くレイとミナ。
もっとも、平日の午前中故、これは「閑散とした」という状況であることはレイ
達は知らなかったのですが。
商店街にある店を把握すると、竜族の者達は予めの役割分担に応じて商店街へと
散って行きました。
レイ達天使も手伝おうとはしたものの、竜族の者達は決して天使達を買い物には
参加させようとはしませんでした。
曰く、か弱き女性に荷物運びはさせられない。
曰く、竜族には独特の食事の好みがあるから、天使達にはそれは判らない。
曰く、周辺の魔族達の好みも考えなければならない。
等々、理由を幾つか並べ立てはしたものの、彼らは要するに女性を働かせたくな
いのだろうとレイは理解しました。
正直、戦力とは見なされていないと感じレイは面白く無かったのですが、ミナに
他の天使達から頼まれた買い物があると言われ気を取り直しました。
スーパーを最初にざっと周り、それらの買い物──人間界の珍しい産物だとレイ
達が見なした物──を済ませると、後はわいわいと騒ぎつつ食材をカートに放り
込んでいる竜族の男達の騒ぎを眺めていました。
竜族達の買い物は暫く終わる様子が無く、暇を持て余した天使達。
それでレイは、ミナを除く他の天使達に、周辺への偵察活動を命じました。
偵察とは名ばかりで、要するに遊んで良いとの含みでしたので、皆喜び勇んで店
内から散って行き、残ったのはミナと二人。
レイは、横に立っていた竜族の指揮官に声をかけ、自分達も「偵察活動」に出か
けようとしたのですが、その時、入り口から入って来た黒衣を着た人物に気付き
ました。
「あの娘…」
「どうしたの?」
「資料にあった。神の御子の愛人らしい」
「愛人? 女の子だよ?」
「神の御子も、私達と同じだということさ」
「ああ、そう言うこと」
その少女──ツグミ──は、店内に入るや左折、レジの側に立ち尽くしていまし
た。
最初その意味が判らなかったものの、ミナは直ぐに事態に気付きました。
「あの娘、目が見えないんだよ。困っているんじゃ無いかな」
言うなり、ツグミの方に歩いて行こうとしたミナの肩をレイは掴みました。
「気をつけろ」
「何?」
「あの娘、常人では気付かぬ我らの気配を感じることが出来るらしい。迂闊に近
づくな。それと…」
「それと?」
「あの犬も要注意だ。もっとも、あれは飼い主の手を離れない限り、吠えたりは
しないがな」
「だけど、困った人を放っておけないよ」
反駁しようとするミナ。
しかし、レイが自分が先に立ってツグミに向かって行き、話しかけているのを見
ると笑顔を浮かべ、自分もレイの後を追うのでした。
●久ヶ原神社跡地 ミカサ達の本陣
レイ達が現地調達作戦に出かけてしまったため、本陣で留守番をしていたミカサ
とトールン。
そこに来客があったのはそろそろお昼を迎えようという時刻でした。
その男は昨日も訪れた魔族の男で、第二大隊の伝令。
そして彼は、ミカサ達の部隊のヒト族の中隊長も伴っていました。
「昨日は、食料を融通して下さり、誠にありがとうございました。大隊一同、喜
んでおります」
「それは良かった」
「お陰でこちらは腹を空かせて居るがな。現地調達部隊は未だ戻らないのか。昼
食に間に合うように戻る手はずであったのに」
トールンが言うと、伝令は昨日もそうであった様に縮こまります。
どうも、気の小さい男の様でした。
「作戦は成功したのですが、少し困った事態になりましてな」
伝令と共に来たヒト族の男、オットーは言いました。
「困ったこと? 何だい?」
「実は、天界の連中に味方する人間に、食料を輸送する現場を目撃されました」
「何だって?」
「こいつです」
オットーが写真を差し出すと、ミカサは肯きました。
「ああ、怪盗シンドバットだね」
「はい」
「それで彼はどうしたのかな?」
「私の部下が警官に化け、彼を追い払いました」
「彼に怪我は無いだろうね?」
「それがクイーンのご命令であれば」
「ならば良い。しかし困ったことになったね」
腕組みをしてミカサは考える風を見せました。
「命令があれば、彼を消しますが」
平然と、オットーは言い放ちました。
「それは駄目だ」
「ならば、欺瞞工作を」
「それならば、良い。して方策は」
オットーは既に腹案を用意してあったらしく、懐から一枚の紙を取り出し作戦の
概要を説明すると、それは即座にミカサに承認されました。
「どうもすみません…」
小さくなる伝令に、オットーは言うのです。
「気にする事は無い。これが我らの昔からの使命なのだから」
●桃栗町中心部
「そこの娘」
レジの側で立ち尽くしていたところ、ややハスキーな声をした女性に声をかけら
れたツグミは、英語で満ちあふれる店内で、日本語を聞きほっとしました。
「はい」
「何を買いに来たのかな? 宜しければ、案内します」
ツグミの知る限り、こんな声をした店員は居なかった筈でした。
「お客様、申し訳ありません。お願いして宜しいですか?」
「ああ。任せろ」
「レイ」
「奈美?」
「え? …ああ、麗子」
ツグミの側にもう一人の女性が近寄り、声をかけて来ました。
二人の声は若く、ツグミと同じか、もう少し上の年齢に感じました。
「麗子さんに奈美さん…ですか? 良いんですか?」
「構わないわ。私達の買い物は終わったから」
「今のところ暇を持て余しているところだしな」
そう言われたこともあり、この二人の女性の申し出を受けたツグミ。
何を買いたいのか聞かれて、それを話したのですが、直ぐにこの二人がこのスー
パーの様子に不慣れであることが判りました。
「七味唐辛子ってどこにあるんだろう?」
「え〜と、どれだ…?」
それどころか商品自体良く知らないらしく、七味一つ買うのに調味料売り場の前
で右往左往する有様。
流石のツグミもきちんと目的のものを購入しているのか不安になったものの、商
品を一つ一つ手にしてみた限りではそれ程間違っていることは無さそうでした。
「うわー。並んでるね」
「良いんですよ。時間はたっぷりありますから」
「いや、彼らを待っていたら、何時になるかわからん」
麗子と名乗る女性が何事か並んでいた男性達に声をかけると、直ぐに列が空き会
計の順番をツグミに譲ってくれました。
「さ、どうぞ」
「す、すみません…」
男性達が居る方角に頭を下げて会計を済ませたツグミ。
三人並んでスーパーを出たところで、改めて麗子達にお礼を言いました。
「いや、何、気にすることは無い」
「そうよ。私達も良い勉強になったし」
「勉強?」
「そう。私達、この街に余り慣れてなくて」
「奈美」
「本当のことじゃない」
「あの…」
「何か」
「もし宜しければ、近くでお茶でも飲みませんか? あ、お食事が良いのかも」
「いや、私は…」
「うん! 喜んで!」
麗子は遠慮しようとしたものの、奈美の方は積極的で、結局三人は昼食を共にす
ることになるのでした。
(第170話・つづく)
ここ数ヶ月程ツグミさんの姿を見ていないもので、つい登場させてみたく。
では、また。
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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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