神風・愛の劇場スレッド 第168話『再会』(その3)(11/17付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 17 Nov 2002 20:36:16 +0900
Organization: So-net
Lines: 368
Message-ID: <ar7uvj$nlu$1@news01bh.so-net.ne.jp>
References: <20021018174503.49e6e0ca.hidero@po.iijnet.or.jp>
<aotnc6$hfs$1@news01cj.so-net.ne.jp>
<20021021173850.1b607df3.hidero@po.iijnet.or.jp>
<aq4tca$hju$1@news01bb.so-net.ne.jp>
<aq50pd$hvf$1@news01bb.so-net.ne.jp>

石崎です。

先週は私用でお休みしてしまいました。
第168話本編(その3)です。

#今週も私用があったので、やや短めです。

>># 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
>># 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
>># 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。

第168話(その1)は、<aq4tca$hju$1@news01bb.so-net.ne.jp>から
     (その2)は、<aq50pd$hvf$1@news01bb.so-net.ne.jp>からどうぞ。



★神風・愛の劇場 第168話『再会』(その3)

●桃栗町・オルレアン

 トキがオルレアンに戻って来ると、居候先である名古屋稚空の家には灯りがつ
いていませんでした。
 隣りに居るのかと思い、まろんの部屋を見るとこちらも中は真っ暗。
 ベランダに降り立つと、いつもの様に鍵は掛かっていなかったので、窓を開け
て中に入ると、良く知る気配を感じため息をつきました。
 その気配を辿り、リビングルームからロフトに続く階段を上っていったトキ。
 果たしてそこには、アクセスが一人、窓際に座って空を見上げているのでした。

「首尾はどうでしたか?」
「何のことだ?」
「昨日の雪で、今日は魔物探索もお休み。てっきりフィンを探しに行ったかと」

 そう言うと、アクセスは頭をぽりぽりと掻きました。

「駄目だ。ここ数日。いや、ミストとフィンちゃんが戦った時以来、フィンちゃ
んの気配を感じられない。こんな事、今まで無かったのに」
「そうですか…」
「魔界に帰っちゃったのかな」
「まだ彼女も役目を果たしていないのですから、その可能性は低いでしょう。恐
らくは結界を張り、その中で休息を取っているのでは?」

 根拠無く、トキはそう言いました。

「ところで今日は名古屋君と、我らが御子は?」
「都ん家でパーティーだとさ。俺は留守番」
「それは羨ましい」
「意外だな」
「何がですか?」
「この大事な時にパーティーなんてって、怒り出すかと思った」
「彼らにも休息は必要です」
「まろん達には優しいんだな。俺も休みが欲しいぜ」
「彼らは、我々の戦いに巻き込まれている立場ですから。無理は言えません」
「そうだな」
「それにまもなく、魔界軍が動き出す筈です」
「マジかよ」
「実は、フィンが連れて来た魔界の軍勢はまだ完全充足では無いらしいのです」
「そんな話聞いてねぇぞ」
「最新情報です。昨晩、天界から送られて来たものなのですが、良くお休みでし
たので」

 トキが念を込めると、アクセスの目の前に巻紙が出現しました。
 アクセスはそれを手に取り、一読すると、それを床に投げ出しました。

「雑魚悪魔ばかりと思ったら、精鋭部隊が別にいたのかよ」
「上級魔族で構成された一個大隊がまもなく編成完了の見込みとありますが、そ
れが精鋭であるかは別問題かと」
「正統悪魔族とかがまた送り込まれてくるのか?」
「その辺りについては、不明なのですが」
「幾らまろんが強くても、少々やばいんじゃないのか?」
「神の御子、名古屋君、それに準天使が三人。並の魔族であれば一個師団でも敵
に回せます。確かに敵もフィンにノインと強力ですが、天界も黙って見ているこ
とは無いでしょう。何らかの手を打ってくるはず」
「しかし、マジでやり合う気なのか? フィンちゃん達は」
「この前の体育館の一件を見る限り、魔界側の方針が変化したと考えます」
「どういう事だよ」
「これまで、我々も魔界側も、人間達に我々の存在を気付かれない様にするとい
う点では利害が一致していました。その方針を彼らが捨てたのだとすれば…」
「なかなか、楽しいことになりそうじゃないか」

 口とは裏腹に、アクセスの表情は真剣でした。

●枇杷町・山茶花邸

 山茶花本邸の屋敷の三階。
 そこに、椿の主人たる山茶花弥白の生活空間はありました。
 本来であれば弥白が将来夫と共に生活するために、独立した住居として設計さ
れていながら、主人の性格故に部屋の半分が機材と物で埋まってしまったその空
間。
 主人に招き入れられ、リビングとなる予定の部屋に入った椿は、むっとした暖
気を感じた直後、窓の方から寒風が吹き込んで来るのに気付きました。

「窓、開けたままで宜しいのですか?」
「ええ。ちょっと暑かったから」
「でしたら、暖房を弱めましょうか」
「あ、それは良いわ」
「え?」
「その…。換気したいの」
「はぁ」

 弥白にしては、はっきりしない物言いを不自然に感じつつ、椿は言われた通り、
何もしませんでした。

「今日はお休みじゃ無かったかしら」
「はい。ですが暇でしたので、身体を動かそうかと」
「でしたら、仕事は抜きで、お茶でも如何?」
「はい、喜んで。実は半分その積もりで…」

 椿は、手にしていた籠をテーブルの上に置くと、上にかけられていた布巾を取
りました。

「まぁ」
「この前、私達に頂いたクッキーのお返しにと。今日は暇なので、私が焼いてみ
ました」

 籠の中には、ビニール袋に入れられたクッキーがあるのでした。



 今日は仕事は抜きと宣言した通り、紅茶は弥白が入れました。
 もっとも、椿はメイド服のままでいたのですが。

「あら、美味しい」

 シンプルな蜂蜜入りクッキーを弥白が美味しそうに食べている様子を見て、安
心した椿。
 ところが、主人の行動がどこか不自然な事に気付きました。
 辺りの様子を伺っている様な雰囲気なのです。

「弥白様?」
「あ、何でも無いの」

 そうは言うものの、暫くすると再び自分の周辺を何かを探している様子。
 その様子を見て、以前弥白が何かに見られていると言っていたことを思い出し
た椿。

「窓、閉めた方が宜しいのでは?」
「良いのよ」
「ですが、寒いですし。それに暖房代が勿体ないですよ?」

 日本どころか世界的に見ても大富豪の令嬢相手に言う台詞では無いと言った直
後に気付いたものの、それでも主張は変えなかった椿。
 メイドでは無く、友人として接しているからという訳でも無いですが、弥白は
椿を制して自ら窓を閉めました。
 その様子を見ていた椿は、弥白が鍵をかけ忘れた事に気付きました。
 最も、それを指摘する事はしなかった椿。
 主人の安全を確保するのは、メイドとしての自分の使命。
 弥白が見ていない時に、自分で鍵を閉める積もりでした。



 暫く談笑している内に夜は更けて行き、そろそろ寝ようという刻限。
 それまでも何度かそうであった様に、弥白と一緒に入浴することになりました。
 弥白一人のための広大な浴室で、たっぷりと時間をかけて、弥白の身体を磨き
上げる椿。
 もう見慣れたとは言え、間近で見る主人の身体の美しさにはただため息しか出
ません。

「椿さん、今度は私が」

 やがて主人に言われるまま、入れ替わりに椅子に座り、それまでしっかりと巻
き付けていたタオルを外し、椿は主人に自らの肌を晒しました。
 貧相な身体と思われていないだろうか。
 その時、椿の頭を支配しているのはその思い。
 もちろん、客観的に見ればそんなことは無いのですが。

「弥白様」
「何」

 それまで俯いていた椿が、言葉を発したのは弥白が椿の身体を大体磨き上げた
頃でした。

「お願いがあるのですが」
「何かしら」
「今晩…弥白様のお部屋に泊まらせて頂いて宜しいですか?」

 そう思い切って言うと、椿は頬を赤らめ、俯いてしまいました。

「え?」
「あ、あの! 変な意味じゃなくて、その…」
「良いですわよ」
「あ、ありがとうございます!」

 そう言うと、ますます椿は顔を赤らめるのでした。

●天界中心部・『神殿』

 天界を支配する『神』の手足となり、実質的に天使達を束ねる『幹部会』。
 その末席に座し、情報を司る大天使リルが神の暮らす『神殿』に急遽召された
のは、魔族達が人間界に降下したその日の夜遅くの事でした。
 既に魔族達が動き出した当初の混乱から幹部達は脱しており、会議の焦点は魔
族達をどの様に殲滅するかに移りつつありました。
 既に伝えるべき情報は伝え、要求すべきことは要求し、議論の行く末も見えつ
つあったとは言え、未だ続く議論の場を離れるのは気が進みませんでしたが、
『神』直々の要望とあっては逆らうことも出来ず、議長もあっさりとリルの退席
を許してくれました。

 天界の中心部にある神殿。
 入り口近くにある警護の者が守る哨所を過ぎると、そこはもう実質的には神一
人のためだけの空間。
 生活の為の僅かな空間を別とすれば、その中の大半を占める書庫の間を縫うよ
うに走る細い通路を案内も無しで歩いて行くリル。

 天界の──そしてこの世界全ての──創造主にして支配者である『神』。
 その『神』と天使達が直接出会う空間である謁見の間。
 ここで、神本人が出て来るのを待ち、その御言葉を待つ。
 それが慣わしでしたが、その日は神の方が先に居て、リルのことを待っていま
した。
 初めて神と『謁見』して以来、数え切れぬ程ここを訪れたリルとは言え、これ
は記憶する限り初めての事であったので、少々驚いたリル。
 もっとも、それを表情には現すことはしなかったのですが。

「神よ。大天使リル、お召しによりただ今参上しました」
「リル。待っていましたよ」

 謁見の間の入り口に立つリルの正面には石段があり、そこには白いベールの様
な何かがあるために、神自身の姿はぼんやりとしか望むことが出来ません。
 謁見の間に呼ばれる者には、この場で神からの言葉を賜るだけの者と、その白
い壁の向こうで祝福を受ける者の二種類に分かれていて、その前者に対しては神
は自分自身の姿を直接見せることは無いのでした。
 何度もその中に入り、神自身の姿も知っているリルとは言え、作法に従いその
場に留まり、神の言葉を待ちます。

「ご苦労様。貴方はもう良いですよ」

 この場に居るのは自分と神だけだと思っていたリルは、少し驚きました。
 そして、作法通りに神に接して正解だったと胸を撫で下ろします。

 神の言葉からややあって、一つだった人影が二つに分かれます。
 その人影の一つは立ち上がると、座っている方の人影に礼をして、白いベール
の向こうから姿を現しました。
 白い羽根に白い肌。髪の色は茶色がかった黒髪。
 その準天使は、目の前に立っているのがリルだという事に気付くとまず顔を赤
らめ、直ぐに鯱張った礼をして、そそくさと謁見の間を出て行きました。

 あんなに慌てて。出口に辿り着く前に迷わなければ良いが。
 その準天使の背中を見ながら、リルは思います。

「大丈夫ですよ。迷わないように、きちんと目印はつけてありますから」

 リルの心を見透かした様に、向こう側から神が言いました。

「最近は、あの様な娘がお好みで?」
「貴方が、なかなかここに来て下さらないから」

 少しすねた様な声を神は発しました。

「今の神の御子に顔形が似てますな」
「今私が一番愛しているのは、貴方ですよ」
「お戯れを」

 本当に愛しているのは別の者。
 それを知りつつ、神の言葉を大変嬉しく思うリルなのでした。

「幹部会の最中に、呼び出してすいませんでした」
「いえ。もう大分方針は定まっております」

 そう言い、リルは幹部会の様子を神に説明しました。
 神自身もその様子は覗き見ていたかもしれませんが、全ての場所を同時に見通
せる訳では無い以上、報告はすべきでした。
 無言でリルの報告を聞いていた神は、報告が終わるとため息をつきました。

「また、戦になるのですね」
「それが『あちら側』の望みであれぱ」
「しかも、同族で相争うなど」
「神よ、それは…」

 慌てて、リルは周囲の様子を見回しました。
 神殿の中であるが故、当然の事ながら他の天使の姿があろう筈もありません。

「大丈夫です。この場の会話を聞ける者がいるとすれば、それは我々以外にはこ
の世界でただ一人だけ」
「そうでした」
「今回の戦、是非とも避けねばなりません。特に、決着をつける形にしては」
「御意。今は『あちら側』の欺瞞工作と、情報統制により幹部会は真実を知りま
せんが、もしも敵の軍勢の正体を知れば、混乱することは必定。事態は早急に収
拾する必要があります」
「それで貴方が先陣として地上に向かうのですね」
「今、神の御子の側につけている天使達は、天界でも最優秀の者達ですが、如何
にも戦力は不足です。『向こう側』が…フィンが、決戦を挑んでくれば支えきれ
ないでしょう」
「あの子なら…日下部まろんなら何とかしてくれるかも」
「能力的には。しかし、彼女はフィンと余りにも近くなり過ぎた。まさか、人と
天使の間で愛を交わすなど」
「種族を超えた恋路は魔界では珍しくないと聞きますよ。それに、私はどうなる
のです?」
「それはそうですが…」

 いつもならばそろそろ中へと呼ばれる頃合いだが。今日は話が長いな。
 その様に思い、リルは少々焦れ始めていました。

「貴方の気持ちは私も同じ」
「え!?」

 リルの気持ちを見通した様な──実際、見通して居るのでしょうが──神の言
葉を聞き、リルは再びドキリとしました。

「今すぐ、全てを忘れて貴方と。でも、それは少し待って下さい。今日は、もっ
と大切な話があるのです」
「大切な話?」
「今日、地上に降下した魔界軍のことについてです」
「はい」

 暫くの間、白いベールの向こう側の神は、言葉を発することはありませんでし
た。
 既に魔界軍の全容──堕天使と人間、そして少数の龍族──とその指揮官につ
いて、報告済であるばかりか神自身もその事は以前から知っていたので、何か別
の問題があるのだろう。そう思い、リルは神の言葉を待ちました。
 しかし、神が黙ったままでいるので、ついに自分から呼びかけました。

「神よ?」
「ごめんなさい。言おうかどうか、ずっと悩んでいたのです。しかし、貴方にだ
けは…私が愛する貴方だけには話しておきます。秘密は守れますね?」
「この命に代えても」
「では、話しましょう。貴方は、『魔王の御子』の伝承を知っていますか?」

 その言葉を聞いた瞬間、リルの身体に緊張が走ります。
 それは天界に生まれ出てまもなく、全ての天使に叩き込まれている名前だから
でした。

「はい。魔界における『神の御子』と同様の存在で、あの魔王が非常に大切にし
ている存在とか。そうであるが故に、もしもそれが魔界を出ることがあれば、
我々天使が必ず倒し、その魂を奪うべき敵。その様に教えられました。しかしそ
れが…まさか」
「はい。実はその魔王の御子が、地上界に降臨して来ています」
「何ですって!? それで、それは今どこに?」
「魔界軍の中に紛れ込んでいます。ですから今頃は神の御子が住むあの地に。そ
の姿を見た瞬間、一目でそれと判りました」
「ですが…!」

 今回降臨した魔界軍の動向は、神自身も良く覗き見ていたと聞かされていたリ
ル。
 それは、魔界軍そのものと言うよりも、天界を離れたとは言え、自らが生み出
した生命の行く末を見守りたいとの意志によるものでしたが、神の言葉をそのま
ま受け取れば、以前よりこのことを神は知っているという事になります。

「どうしてそんな大事な事を。そう思っていますね?」
「はい。…いいえ、そうではありません」
「良いのです。私が隠していたのが悪かったのですから。しかし、思っていたよ
りも、彼女が地上に降りて来るのが早かった」
「しかし誰が、その『魔王の御子』なのです? 私には判りませんでした」
「そうでしょう。見た目ではあなた達には見分けられないでしょうから」
「天使の姿をしていると?」
「いいえ。本来の姿を取っていますよ。ただ、主流とは少々離れた姿をしていま
すけど」
「…それは!」

 魔界で天使と似た姿を持つ種族は、ただ一つしか思い浮かばなかったリル。
 そしてその考えを読み取った神は、今度は言葉を発することなく白い壁の向こ
うで肯きました。

「神の御子が、天界の最初の住人であるヒトの姿であるように、魔王の御子は魔
界の最初の住人の姿をしているのです」
「──まさか」」
「ええ。そして彼女が、『魔王の御子』の現在の姿です」
「これは──」

 神が手を上げると、リルの前の空間にどの様な術で投影したものか、立体的な
映像が映し出されており、そこには銀色の髪をなびかせ、金色の瞳を持ったどう
見ても天使にしか思えぬ生き物の姿があるのでした。

(神風・愛の劇場 第168話(その3)完)

 では、次回へと続きます。

#後2〜3回続く予定です。

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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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