From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Mon, 09 Sep 2002 06:57:13 +0900
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<akalv3$910$1@news01di.so-net.ne.jp>
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石崎です。
神風・愛の劇場 本編第166話(その10)です。
#<alf7nd$mlg$1@news01bc.so-net.ne.jp>は無視出来ない誤りがありましたので、
#キャンセルしました。
#両方届いていましたら、こちらが本物と言う事でお願いします(汗)
#本スレッドは神風怪盗ジャンヌのアニメ版第40話より着想を得て続いている
#妄想小説スレッドです。所謂二次小説的なものが好きな方だけに。
(その1)は、<af4q7o$k82$1@news01bf.so-net.ne.jp>から
(その2)は、<afvb3c$9p6$1@news01cf.so-net.ne.jp>から
(その3)は、<ageulu$6ri$1@news01dd.so-net.ne.jp>から
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(その6)は、<ajo8kt$ct$1@news01cb.so-net.ne.jp>から
(その7)は、<akalv3$910$1@news01di.so-net.ne.jp>から
(その8)は、<akseoa$4pe$1@news01cc.so-net.ne.jp>から
(その9)は、<aksio8$bk6$1@news01cg.so-net.ne.jp>から
それぞれお読み下さい。
★神風・愛の劇場 第166話『きょうだい』(その10)
●桃栗町・西部郊外上空
セルシアとトキがまろんの家を出て最初に向かったのは、名古屋病院。
しかし、佳奈子の病室には弥白の姿はありませんでした。
それではと、枇杷町の屋敷へと向かうことにしたのですが。
「トキ〜。待つですです〜」
セルシアが声をかけると、トキは少しだけ後ろを振り向き、セルシアがちゃん
とついて来ていることを確認してから再び枇杷町の方向に、前進を再開しました。
「もう! ちょっと位は心配してくれても…」
小さな声で、不満を表明するセルシア。
自分はもう大丈夫だから。
その様に強固に主張してまろんの家を飛び立ったのですが、そんな事はもちろ
ん頭の中から消え去っています。
「あ、待って…」
文句を言っている間に、トキの姿を見失いそうになったセルシアは、慌てて彼
の背中を追いかけようとして、不意に横を向きました。
「あの服は…。弥白さんとかなこちゃんのと同じですですっ!」
視界の隅に入った少女の事が気になったセルシアは、先に行ったトキの事を忘
れてそちらへとふらふらと飛んで行くのでした。
●桃栗町西部郊外・桃栗西岬近く
県道は早朝の内に除雪されていましたが、歩道はまだ昨日の雪が残ったままで
した。
それが住人が自ら除雪している住宅地であればともかく、歩行者も少ない人家
から離れた県道の歩道となればなおさらです。
晴天故、日が当たる部分の雪は既に溶け始めていましたが、日陰部分の雪は昨
晩凍ったままの状態を留めていました。
そんな道を転ばぬように注意しつつ歩いて行く一人の少女。
学校の帰りなのでしょう。制服の上に指定のコートを羽織った姿。
その制服は、この辺りでは有名なお嬢様学校のものでした。
右手に学校指定の手提げ鞄を下げているのは珍しくもありませんが、左手に花
束を持っているのは、バスの運転手やごく希に道ですれ違う者を注目させるには
十分でした。
ましてや、彼女がバスを降り立ち、歩いて行く方向は、町内では有名な場所な
のです。
山の間の谷間を縫うように走る県道。
少女が降りたバスの停留所から少し歩くとトンネルがあり、そこを抜けると見
える海。
海沿いに走る県道は、海側は断崖絶壁、山側も急斜面で所々に落石防止のため
の柵や網が張られています。
そんな道の形ばかりの歩道を歩いて行く少女。
道行く車の数は極少なく、雪を踏む少女の足音が潮騒の中から聞き分けられる
程。
向こうの方に岬の灯台が見えた頃。
陸が海側に張り出し、それに沿って県道も蛇行しているその先端。
そこで少女は立ち止まりました。
県道と海の間にある僅かな空間。
そこにはお地蔵が幾つか立っていました。
ここは地元では有名な事故の名所。
きっと少女はその犠牲者の追悼に来たのだろう。
その様に彼女の姿を見た者は考え、そしてそれは大きく間違ってはいませんで
した。
ある一点を除いては。
少女はお地蔵を無視して、手すり越しに海を見つめていました。
その背中を車が通りすぎて行きました。
やがて、少女は花束を断崖の下の海に向かって投げ入れました。
そうしてからも、海を見つめ続けていた少女。
また一台、車がけたたましい音を立てて通り過ぎて行くと思いきや、急ブレー
キをかけて停車しました。
やがて車は引き返して来て、少女の後ろに停車しました。
ゆっくりと、後ろを振り返る少女。
そこには、少女が時々見かける男性が立ってこちらを見ていました。
「君は、確か…」
「三枝…先生?」
「やはり、君なんだね」
「はい。主人がいつもお世話になっております」
「最近ご無沙汰だがね」
「主人も是非屋敷に遊びに来て欲しいと先生が撮られた写真を見ながら申してお
りました」
「そうかい。君はこれから屋敷へ?」
「ええ。仕事がありますので」
「それじゃあ、送って行こう。僕の車に乗ると良い」
「でも…」
「弥白嬢の所に行くついでだ。気にしないで良い」
「そうですね。判りました」
「じゃ、こっちへ。ええと…名前、そう言えば聞いてなかったね」
「椿です。春野椿」
*
「(あの子は…弥白さんの家で見た娘ですです!)」
枇杷高校の指定のコートを目にし、少女の近くまで飛んで来たセルシア。
ひょっとしたら、弥白か佳奈子が歩いているのではと根拠も無く感じたからで
した。
しかし近付くと、佳奈子とは明らかに髪型と体型が異なり、弥白とは制服とロ
ングヘアーは同じだったものの、髪の色が違っていることに気付いたセルシア。
弥白さんはもっと黒い髪の色だった筈。彼女はどちらかと言うと茶色に近い。
普通ならばそこで引き返しそうなものですが、セルシアは念のためにと更に接
近しました。
そこで始めて、彼女が弥白の家で彼女の側に付き従っている少女だと気付きま
す。
「(こんな寂しいところで何をしているんだろう?)」
そう思いながら見ていると、彼女の後ろを通り過ぎようとした車が引き返して
来て、出て来た男が彼女に声をかけました。
「(誰…ですです?)」
良く見てみよう。
そう思い、更に接近しようとした時です。
「セルシア!」
「わっ」
「何をまた寄り道しているんですか!」
「だって。だってぇ…」
セルシアは、少女の方を指差しました。
「彼女は?」
「弥白さんのお友達ですです」
「確かに、同じ学校の服ですが…。弥白嬢とは関係無いでしょう」
「でも…かなこちゃんも弥白さんのお友達だったですですっ」
「つまりは、彼女も悪魔に取り憑かれているのではと?」
こくこくと、セルシアは肯きました。
目を閉じ、意識を集中していたトキ。
「良く判りませんね。悪魔の気配はしますが、この辺りではそれはどこでも…セ
ルシア!」
セルシアは、少女の方に向かって飛び去ってしまっていました。
*
山から海に向かって風が吹き抜けたのは、椿が丁度車のドアを開けて中に入ろ
うとした時でした。
誰かが話しかけて来た様に感じ、周囲を見回した椿。
「どうかしたの?」
「あ、いえ。誰かに話しかけられたような気がして」
「え?」
車に乗り込んでいた三枝が車から降りようとした時、再び風が、今度は海から
山に向かって通り過ぎて行きました。
その後で三枝は周囲を見回しましたが、辺りには自分達以外、誰も居ないので
した。
*
「一体何を考えているんですか!」
「だって悪魔の気配がするってトキが…」
疾風の如く少女の所に飛んで行ったセルシアは、声をかけようとした所でトキ
に取り押さえられ、再び上空へと引き戻されていました。
「この辺りには悪魔が多数潜んでいるのです。悪魔の気配くらい珍しくもありま
せん!」
「でも…」
「それで? 彼女が取り憑かれている気配は?」
「悪魔の気配は無かったですです…けど…」
「それは良かった。ならば、弥白嬢の家に向かいましょう」
「あ…」
何かを言いかけたセルシア。
しかしトキはそれが聞こえていなかったのか、今度はセルシアの手を引いて、
枇杷町の方角へと向かいました。
「(でも…あの娘に何かを感じたですですっ!)」
そう心の中で呟くセルシアですが。それを声にすることはありませんでした。
声にしたら、トキが手を離してしまう。そう思ったからです。
そして、枇杷町の山茶花邸に到着した頃にはそう感じた事自体を忘れていまし
た。
●桃栗町・水無月重工本社ビル
本来であれば学校は休みである土曜日。
しかし桃栗体育館倒壊事件の余波で水曜日まで休校になっていた分の遅れを取
り戻すために、弥白が通う枇杷高校は登校日となっていました。
とは言え、本当は佳奈子の側にずっとついていてやろうと考えていた弥白。
しかし、偶々宿直中だった佳奈子の父親が病室に入って来て、病室に居た弥白
に後を引き継ぐので今は休むようにと告げると、弥白は佳奈子の父に後を託して
登校することにしました。
迎えに来させた車の中で、用意させた替えの制服に着替えて登校した弥白。
授業は午前中で終了し、そのまま部活に出るべきでしたが、今日は別に用事が
あったので、届けを出して休みとしました。
そのまま迎えの車に乗り込み、向かった先は隣町の桃栗町。
水無月グループの中核企業である水無月重工の本社ビルが行く先でした。
少し都会から外れたこの町に日本有数の企業の本社があるのは珍しいことでは
ありましたが、そのお陰でこの町の財政は潤っているのですから、文句を言う者
があろう筈もありません。
土曜日でもあり、閑散とした建物の受付で名を告げ、そのまま最上階へとエレ
ベーターで上がっていった弥白は、即座に奥まった部屋に通されました。
「こんにちわ。鏡太郎おじさま」
「良く来たね。弥白嬢ちゃん」
弥白を出迎えた人物は、水無月グループ会長の水無月鏡太郎。
妻が山茶花家の一員である関係で、一応弥白の親戚に当たります。
そんな事情もあり、弥白を小さい頃から可愛がってくれた祖父も同然の存在な
のでした。
「あら、また新しい絵が増えていますのね」
会長室の壁に飾られた絵画が、前に訪れた時よりも増えていることに弥白は気
付きました。
「うむ。まだ若い無名な画家の作じゃが、見かけた瞬間、買わずにはいられなく
ての」
「相変わらず絵がお好きですのね」
「若い頃は、自分で描いていた位じゃからな」
「存じておりますわ」
もう何度その話を聞かされたことか。
その言葉を弥白は飲み込みました。
「それで、今日は何でしょうか」
「うむ。そうそう、儂が嬢ちゃんを呼び出したんじゃったな」
ポンと、演技じみた動作で手を叩くと、鏡太郎は机の引き出しを開けて封筒を
取り出しました。
「まずは、これじゃ。日曜に行われたオフ会の時に配られた資料」
「あら。そう言えばそうでしたわね」
「弥白嬢ちゃんが最近書き込みが無いので、みんな心配しておった」
「そうですか。ちょっと、最近ネットに接続している時間が…」
人には言えない理由で、ネットから遠ざかっていた弥白は言葉を濁しました。
「そうだろうそうだろう。何しろ、新体操の大会じゃったからな」
「あ、はい」
「ああ、そうそう。新体操全国大会への出場おめでとう」
「ありがとうございます」
「当日は大変なことじゃった」
「ええ、まぁ」
「怪我が無くて何よりじゃった。孫はあそこでコブを作ってのう」
「まぁ。大和さんが?」
「体育館が倒壊してけが人が出たと知った時、この町の住人として居ても立って
も居られずグループの病院の医師と看護婦を連れて、現場にボランティアとして
乗り込んだんじゃ。するとうちの孫が怪我をして外で寝かされておって、気を利
かせた医師の誰かが帰りのヘリで病院まで運んでくれたんじゃが、それをマスコ
ミに嗅ぎつけられてのう」
「そうなんですか?」
「そうじゃ。事件が起きた時、儂が孫を救うためだけに医師と看護婦を連れて現
場に乗り込み、孫だけを連れて行ったと叩かれてな。医師は現場に残していたし、
大体邪魔だからヘリを現場からどけろと言ったのは、この町の警察なのにな」
「抗議なさったんですの?」
「いや」
「どうしてですか?」
「儂が孫を最初に見つけておったら、同じことをしたじゃろ」
そう言うと鏡太郎は、ほっほっほっと笑いました。
その様子を見て、スキャンダルの報道を全く気にしていないのだと思い、弥白
は安心しました。
「それで、今日のメインテーマは何ですの?」
「そうじゃった。そうじゃった」
そう言うと、今度は机の上に置いてあった別の封筒と、パンフレットを鏡太郎
は取って来て、弥白の前に置きました。
「これは?」
「儂の息子のやっているプロジェクトでの」
「あら、今度リニューアルオープンする遊園地ですわね」
「そうじゃ。来週の金曜日、丁度雛祭りにオープンする予定での」
「そうでしたの」
「開園初日は招待客しか入れないので空いておる。それでの、弥白嬢ちゃんにも
来て貰いたいと思ってな」
「でも」
「学校など一日位休んだら良いじゃろ」
一日どころか、何日も休んでいるのでこれ以上休みたくないとは、鏡太郎を心
配させたく無いので言いませんでした。
「新体操の大会が来週にもある筈ですし」
「木曜日じゃろ? 調べはついておる。だから大丈夫じゃ」
「そうだったんですの?」
「何じゃ、知らなかったのか。その調子だと会場がどこかも?」
「存じませんわ」
「弥白嬢ちゃんの学校の体育館じゃよ」
「ええっ!?」
全く知らなかったので、弥白は驚きました。
きっと休んだ今日の部活で、発表されたのだと思います。
「だから、その翌日は部活は休んでも大丈夫じゃろ」
「ですが」
「実は、弥白嬢ちゃんに頼みたいことがあるんじゃ」
「何ですの?」
「学校でも、福祉関係の活動をしていると聞いているが」
「生徒会活動の一環としてですけど」
「うむ。実は、当日知人のお孫さんを招待していてな。その娘さんは、視覚障害
者なんじゃよ。それでな」
「私に案内をしろと?」
「平たく言うとそうなんじゃ。スタッフに任せても良いんじゃが、当日は忙しい
だろうからな。それでその娘さんだが、丁度弥白嬢ちゃんと同じ年頃の女の子で
な、母親を亡くした後は一人で暮らしておる。これがその娘の写真じゃ」
鏡太郎の話を聞き、嫌な予感がした弥白。
果たして、写真に写っていたのはツグミでした。
「あ…」
「どうした? ひょっとして知り合いか?」
「存じませんわ。どんなお知り合いの方ですの?」
「昔世話になった恩人じゃよ。それと、彼女の母親にもな」
「母親? 亡くなったと今」
「三年前に。弥白嬢ちゃんも世話になった筈じゃ。サークルでな」
「まさか」
「ハンドルネーム『イカロス』。嬢ちゃんも良く知っている筈じゃ」
「ええ。点訳を始めたばかりの私に色々と…。あの方が、この人の…」
かつて自分で感じたことは正しかった。
やっぱり、あの人がツグミの母上だったのね。
「どうじゃ嬢ちゃん。引き受けてはくれまいか」
「判りましたわ。あの方の娘さんとあれば」
「その娘さんじゃが、招待はしたが来るかどうかは判らない」
「平日ですし」
ツグミは学校には行っていなかったことを言ってから気付きました。
「来られるかどうか、連絡すれば宜しいのに」
「それは、出来ない」
「どうしてですの?」
「向こうは、儂のことを知らないからの」
「どういう事ですの?」
「訳あって、名乗らずにあの娘のことを見守っておる」
「訳?」
「儂は、あの娘の前に出られないんじゃよ。察してはくれまいか」
「それでは、当日もしもその娘さんが現れても」
「ああ。儂の名は一切出さないで欲しい。このチケットも、知人から入手したこ
とにしてあって、水無月家の名前は出してはおらぬ」
鏡太郎がどうしてツグミに自分のことを隠すのかは全く判りませんでした。
ツグミ本人と言うよりは、どうもその恩人の方に関わる何かだとは思いました
が。
「判りましたわ」
「訳を聞かないのか?」
「聞いたら教えて下さるんですの?」
「それは」
「誰にも言いたくないことはあるでしょうから、敢えて聞きません。それにあの
イカロスさんの娘さんですもの。ご恩をお返しする良い機会ですわ」
「そうか。面倒を押しつけてすまぬ」
「いいえ。お気になさらずに」
「チケットは二枚用意した。彼女が現れたら連絡するようにスタッフには頼むか
ら、それまでは遊んでいると良いだろう。そう、恋人でも連れてな」
気を利かせたつもりだろうけど、その様な場に恋人を連れて行ったらその恋人
に失礼なのでは無いだろうか。
その様に弥白は思いましたが、口にすることはありませんでした。
誘ったら喜ぶ人で、仮にその人が来たとしても、失礼には当たらない人物。
弥白は考え、そして決めました。
「そうですわね。お友達を連れて行きますわ」
それまでに、回復していると良いのだけど。
弥白はそう心から願っていました。
●桃栗町中心部・商店街
桃栗町中心部にあるスーパーを中心とした商店街。
そこに買い物にやってきた都と電話で呼び出された大和。
二人は桜に頼まれて、今日の夕方に行われるパーティーのための買い出しに来
たのでした。
「これと、これも…」
「まだ買うんですか?」
「だって、パーティーなのよ」
「でも、おばさんに渡されたメモにはそこまでは書いて無いんじゃ」
「これはあたしが食べたいの」
「もう」
「ところで予算は大丈夫?」
「ええと、大丈夫です。税込みでもぎりぎりセーフですね」
小型の電卓を叩いて、大和は言いました。
「あら?」
「どうしたんですか?」
「向こう」
都が指差した先を見た大和。
丁度レジを終え、袋の中に品物を入れている少女と少年の姿がそこにはありま
した。
「ツグミさんですね。それとあの子」
「全君よね、あれ」
「買い物でしょうか」
「それ以外の何があるのよ」
「珍しい組み合わせですね」
「全君がツグミさんの家に遊びにでも来てるのかしら?」
「偶然会っただけかも」
「そうねぇ」
「声、かけてみましょうか」
「それよりレジが先よ」
ちょっとだけ考えて、都は決断しました。
土曜日なので、家族連れの買い物客でレジには行列が出来始めていたからです。
「そうですか」
「ツグミさんには何時でも会えるわよ。それに」
「何ですか?」
「…何でも無いわ。さ、早く並びましょ」
*
「あの、ここで休んでいて良いんでしょうか?」
「別に良いんじゃない? まだ夕方には時間あるし」
買い物を終えた後、二人はスーパーに隣接する喫茶店に入りくつろいでいまし
た。
「ですが、準備とか」
「大丈夫だって。それに、帰りに二人でお茶して行きなさいってお小遣いまでく
れたし」
「はぁ」
今一理解出来ない。
そんな表情で大和はコーヒーに口をつけました。
「本当はね、買い物は母さんとあたしで行く筈だったの。だけど、委員長を呼び
出したのは何故だと思う?」
「どうしてですか?」
「母さんがね、こう言うの。準備でてんてこ舞いだから、買い物お願いねって。
荷物が多いから、誰かお友達と一緒に。そうね、水無月君なんか良いんじゃない?
…ってさ」
「本当ですか?」
「本当、母さんったら妙な勘違いしてくれちゃって、困るよね」
「勘違い…ですか。はぁ」
「でもまぁ、電話をかけたのはあたしなんだから、そう気を落とすな少年!」
そう言い都は、うなだれた大和の肩をばんばんと叩きました。
「そうですか。…そうですよね」
「まぁ、そういう事にしといてあげるわ」
「あ、そうだ!」
急に何かを思い出したらしい大和は、隣の席に置いてあったコートのポケット
から、何かを取り出しました。
「はい、これ」
「何よ、これ?」
大和が都に手渡したのは一通の封筒。
その中から出て来たのは、折りたたまれたパンフレットと「水無月ギャラク
シーワールド」と書かれた遊園地のチケットが二枚。
「これ、委員長の家の?」
「はい。来週の金曜日にリニューアルオープンすることになったんです。それ
で」
「ご招待って、ひょっとして初日の?」
「ええ。開園から暫くは混雑すると思いますが、初日は招待客だけですので」
「貰って良いの!?」
「ええ、昨日のお詫びも兼ねて」
「ああ、昨日のね」
「それでもし良かったら僕と…」
「ありがとう委員長! これで場所が決まったわ」
大和が何かを言い出す前に、都は大声で言いました。
「はい?」
「チケットが二枚入っているのも好都合よね。まろんと一緒に行こうっと」
「え!? 二枚?」
「委員長にしては気が利いてるわね。プレミアチケットをしかも二枚! ホント、
ありがとう!」
「は、はぁ。喜んで貰えて嬉しいです」
「それじゃ、帰ろうか。あ、ここの支払いは奢るから。チケットのお礼よ」
大和の表情は、あまり嬉しそうで無いことに都は気付いていました。
大和が本当は何を言いたかったのかも気付いています。
チケットが二枚入っていたのも、本当は大和のミスだということにも。
「(ごめんね、委員長。あたしの気持ち、すっきりさせるまで。それまでは。)」
そう、心の中で都は大和に謝っていました。
(第166話(その10)完)
暫く書き忘れていましたが、2/26(土)午後辺りです。
来週末で第166話を完結させる予定です(本当か?)。
では、また。
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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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