From: 佐々木 英朗<hidero@po.iijnet.or.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
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佐々木@横浜市在住です。
<20020524121249.72be1085.hidero@po.iijnet.or.jp>の続きです。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。
★神風・愛の劇場 第165話 『悪魔の矢』(その10)
●名古屋病院
すっと影が動く様に、佳奈子は足を動かす事も無く移動するとセルシアを
見下ろす位置に立ちました。そのまま暫く眺めていましたが、セルシアに
動く気配が無いと判ると片足で頭を軽く蹴ってみます。それから頭を踏み
つけて力を込めていくとぐにゃりとした感触が伝わりました。
「新しいお友達…」
佳奈子の顔に満足した様な笑みが浮かぶと共に、セルシアの身体はそのまま
ずぶずぶと沈んでいきます。やがてすっかり姿が見えなくなってしまうセルシア。
佳奈子の笑みは唐突に消え失せて、代わりに不機嫌さを窺わせる目つきが
浮かび上がります。
「つまんないな」
それから佳奈子は暫くの間、足下を眺めなたり目を閉じて考え込む様子を
見せたりしていました。やがて再び佳奈子の表情がさっと変化します。
細めながら油断無く見下ろす獣の目。その見詰める先には手がありました。
境界線のはっきりしない佳奈子の足下、漂う靄とも見える辺りから肘より
先の部分に当る白い手が生えていて佳奈子の足首を掴んでいます。
そうしているうちに手はもう一本生えてきて佳奈子の残った足を掴み、
そのままずるずるとセルシアの肩までが浮き上がって来ます。
はぁ、と溜息をついてから見上げるセルシアと佳奈子の視線が交わります。
そしてセルシアは視線を少し下げた途端に頬を赤らめながら顔を背けました。
「ご、ごめんなさいですっ、何にも見てないですです」
その間じゅう佳奈子はもぞもそと身体を動かそうとしていましたが、
両足を掴まれていて動くことが出来ないらしく、その場に立ち尽くす形に
なっていました。やがて動きを止めた佳奈子が口を開きます。
「放して」
「ちょっと待ってくださいですです」
ほんの少しセルシアの手に力が入りましたが、それも一瞬の事。セルシアの
首の後ろの辺りからすっと線が伸び、それがそのまま盛り上がって翼が
持ち上がります。そして翼に引き上げられる様にしてセルシアの上半身が
完全に現れ、それと同時に佳奈子を掴んでいた手が放されます。
その後もセルシアの身体はするすると浮かび続け全身が現れると共にすっくと
その場に立ち上がりました。じっとその様子を見ていた佳奈子が呟きます。
「羽根…取ってやったのに」
セルシアは初めきょとんとして佳奈子を見詰め、それから微笑んで答えます。
「翼が無いと格好つかないですです」
「ふ〜ん」
「それで、あの」
「なに?」
「提案があるんですけど」
「言ってみれば」
そう言いながらも佳奈子は少しずつセルシアとの間に距離をとっていました。
「かなこちゃんの身体から出ていってくれませんか?」
佳奈子が立ち止まり、じっとセルシアに視線を据えました。
「代わりにわたしの身体をあげるですです」
「それで?」
「かなこちゃんの身体よりも便利ですです。飛べるし少しは戦えます」
「そうかもね」
「だから、かなこちゃんは放して」
佳奈子はセルシアの話を最後まで聞きませんでした。
「勘違いしてる」
「え?」
「私はお前等と戦うつもりは無いんだよ」
「え?でも?」
「人間界くんだりで命懸けの戦いなぞ御免だね。勝ったら勝ったでクィーンか
ノインの手柄になるのがオチだ。だから考えたのさ」
「考えって?」
「役目を与えられて人間の一部と関係を持つうちに気が付いた。人間は
取るに足らない存在だが、見るべき点もある。奴等の言う所の科学って代物だよ。
その中には魔界でも役に立ちそうな物があるからな。これを持ち帰れば充分な
戦功になるだろう。そして私はそれを得た。山茶花弥白に情報を集めさせ、
実験を行い理屈の方も充分理解した。不意打ちに最適な気配の無い攻撃が
我らの手駒に加わる事になる。残る私の望みは魔界へ帰る事だけなんだよ」
「本当に帰るだけですです?」
「ああ、そうだ。帰って技術を伝えて魔王様にお讃めいただき後はのんびり
暮らすのさ。人間界ので戦いなぞ知るか」
「だったら、かなこちゃんの身体にはもう用は無いですです?だったら早く
出て行ってあげてください」
「嫌だね」
「どうしてですです?」
「魔界ではこういう姿の肉体を持っている方が格が上がるんだよ」
佳奈子は自分の肩を抱いて愛しげに身じろぎをしました。
「この身体を持ち帰って使い続けるつもり。具合も良いし、まだ試してない
機能もありそうだ」
佳奈子の手が自分の身体に沿って下半身へと這い下りて行きます。
思わずその手の動きを見詰めてしまうセルシア。その所為で佳奈子の
もう一方の手の動きに気付くのが遅れてしまいます。セルシアがはっと
気付いた時には佳奈子の頭上には二枚の円盤状の物体が既に浮かんでいました。
「面白いだろ?小さな力を合わせ鏡で増幅する人間界の技術の応用だよ」
円盤の一枚がセルシアを追う様に平面を向けて来ました。咄嗟に横へと
跳び退くセルシア。その脇をかすめて閃光が走り抜けて行きました。
「これなら悪魔族に引けを取らない矢が放てる。飛び切り強烈な奴がっ!」
セルシアが動く先々を光が薙いで行きます。それでもセルシアは先を読んだ
動きと障壁による防御を組み合わせて何とかかわしていました。
「よく見ていれば避けられるですですっ!」
実際その通りなのでした。佳奈子の放つ攻撃はセルシアの位置を捉えてから
極くわずかながら遅いタイミングで襲って来るのです。佳奈子が力を込めて
から増幅が完了するまでの時間差、それがセルシアに避ける余地を与えて
いました。佳奈子がいっそう目を細め、掲げられた手がすっと下ろされます。
「うろちょろするな」
佳奈子の声が聞こえた瞬間、セルシアは突然身体が重くなった様に
感じました。そしてその場から動けなくなってしまいます。背中に伝わる
感触に振り向いて見れば、何時の間にか片方の翼が何者かに掴まれています。
やがてセルシアを掴んでいる手の主の姿が色を濃くしながら徐々に現れます。
その姿に目を瞠ったセルシアが正面を向くと、そちらでは逆に姿を消しつつ
ある佳奈子が薄ら笑いを浮かべて居るのでした。やがて二つの姿は完全に
入れ替わり、今やセルシアの背後に立っている佳奈子が言うのです。
「やっぱり羽根は取ろう」
佳奈子は乱暴にセルシアを蹴り倒して背中に片足を乗せて来ました。
その小柄な外見からは想像出来ない重さがセルシアの背中に伝わります。
セルシアはじたばたともがきますが佳奈子は微動だにせず、そして翼を
掴んでいた手をそのままぐいと引きました。ずるり、と何か重い物を引きずった
時に似た音が耳の奥に響いたと感じた直後、セルシアは翼の付け根に加わっていた
強い力がふいに消えた事に気付き不思議に思いました。そして訳も判らぬままに
身体が転がされてしまっていました。セルシアの背中から足をどけた佳奈子が
そのままセルシアの脇腹を蹴っていたのです。ごろごろと回る視界の中で
佳奈子が手に掴んで高く掲げている何かが見えます。
赤く染まった白くてふわふわとした何かが。
“あれって…あれは背中に近いところの曲がりぐあいがみんなとは
ちょっとだけ違う…と思うんだけどな…私の自慢の翼”
転がっていた身体が止まり、俯せになったセルシアは手で支えながら四つん這い
の格好に身体を起こします。
“それが今はかなこちゃんの所に…何で…翼をもがれた?”
そう思った途端に背中がかっと熱くなり、肩から力が抜けてそれ以上
立ち上がる事が出来なくなってしまいました。
“赤い翼…あれは血?”
背中から熱を帯びた流れが突然ほとばしり脇腹を伝わって腹や胸にじわりと拡がり、
そしてぼたぼたと滴ります。セルシアの口が大きく開き、叫びを上げていました。
息が詰まってしまい叫び声は響きませんでしたが。
代わりに叫びにも似た哄笑が佳奈子から上がります。
「きゃはは。天使の血も赤いんだぁ」
段々と近づく気配にセルシアはやっとの思いで顔を上げます。
見上げた先には佳奈子の満面の笑みがありました。
「赤い服の方が似合うね。私とお揃い」
手にしたままの真っ赤な翼に頬擦りしながら、佳奈子はその場でくるくると
身体を回して踊っていました。手足が震え、セルシアはそのまま血溜まりに
突っ伏します。まだ生温い血が段々と拡がり顔を浸していきました。
“血って変な臭いがするって聞いていたのに”
血の臭いがセルシアの鼻をつきました。そして結んだ唇に血が沁み入ってきます。
“しょっぱいのかな…”
苦味と塩気の混ざった味がしました。
“こんなに血が出たら…死んじゃうかも”
段々と意識がぼんやりとして来ます。
“精神集中の修業…結構讃めてもらってたのに…私ってやっぱりお馬鹿さん?”
もうどうでも良い気がしてきました。
“まろんちゃんのいれたお茶が飲みたい…”
血から紅茶の香りが立ち上って来た様な気がしました。
“あのホットケーキっていうの、もう一度食べたかったな…”
口に拡がった血がシロップの様に甘く感じました。
“かなこちゃん赤い服が似合うって言ってくれたの本当かな。汚れじゃなくて
本当の赤い服だったら”
血で濡れた服が乾いて、肌に粘つく感じが無くなっていました。
セルシアはそっと手に力を込める事で身体が動かせる事を確かめました。
上半身を起こし、それから膝を突き、それから背筋を伸ばします。
「………………まだ立てるですです」
佳奈子が踊るのを止めて振り向いた先に、赤い服を着たセルシアが立って
いました。手足も顔も汚れの無い綺麗な肌を見せています。佳奈子の笑みは
またも瞬時に霧散し、代わりにはっきりと苛立ちを露にしていました。
「やっぱり、しつこいなお前」
言うが早いか佳奈子の頭上に浮かび出る円盤、今度はそれが数枚組み合わさり
一見すると球体の様にも見えます。そして球体の表面全体が一斉に光ります。
「穴だらけになりな」
佳奈子の声を聞く前にセルシアは動いていました。
“きっと見えるはず”
球体の表面から雨の様に次々と放たれる攻撃、それをセルシアの目は正確に
捉えて透き間を縫う様に避けていきました。中にはとても狭い空間に集中して
来る攻撃もありました。足下と頭の両方を挟み撃ちにしようとする攻撃も度々。
“まろんちゃんならこんな時はどうする?”
逆に前方からの攻撃に飛び込む様に身を踊らせるセルシア。片手を着き
前のめりに飛び込んだ勢いを利用して身体を回転させながら起こすと、
続く攻撃もすらりとかわしました。
“翼一枚でも飛べる!”
ふわりと舞い上がったセルシアに向けてあらゆる方向から光の矢が迫ります。
“悪魔さんに出来る事なら私にも!”
セルシアの周囲に障壁では無く円盤状の鏡が一斉に出現して全ての攻撃を
真っ直に跳ね返しました。それらは全て曲がりくねった道筋を元通りに
辿る事で放たれた先、佳奈子の出した球体へと吸い込まれ瞬時にそれを四散
させてしまいました。佳奈子は降り注ぐ鏡の破片を片手で払い除けてから
顔をゆっくりと上げ、少し離れた場所へと舞い降りるセルシアを睨みました。
「クソ天使…」
セルシアは口を尖らせて抗議しかけましたが、すぐに笑顔を見せます。
「悪魔さん、ここが何処だか判ってるですです?」
「此は私と佳奈子の世界だ!」
「今は私もこの世界の一部ですです」
セルシアが両手を広げて招く仕草をすると同時に、佳奈子の足下に打ち
捨てられていた翼が消えて行きます。そして見る間にセルシアの背中には
元通りに一組の翼が揃いました。
「判りました?」
「侮り過ぎたという事か」
「対等になっただけですです」
「此では、な」
「だからお願いです、かなこちゃんから出ていってくれませんか?
もしそうしてくれたら悪魔さんが魔界に帰るまで何にもしないってトキ達に
お願いしてあげるですです」
佳奈子は無言でセルシアを見詰め、そして大声を上げて嗤い出しました。
セルシアはそんな佳奈子を吃驚した顔で眺めました。
「一つ忘れているぞ馬鹿天使。対等なのは此で何が出来るかだけだ。
立場は全然変わってはいない。佳奈子の身体を動かせるのは今でも直接
乗り移っている私だけなんだぞ?」
「えっと…だから?」
「お前こそ出ていけ。さもなければ私は自殺する」
「え?ええっ?」
「今から佳奈子を覚醒させて窓から飛んでやるって言ってるんだよ。
人間は羽根が無いんだよな、落ちたら肉が飛び散るんだろうな。
私は佳奈子がくたばる直前に抜け出て別な人間を探すだけの事さ」
「だ、駄目ですです!」
「ちょっと気に入っていた身体だが、まあいいさ」
佳奈子は踵を返すとセルシアから段々遠ざかって行きました。
距離が離れると共に姿も薄くなっていきます。
「待って!」
追いすがろうとしたセルシアは数歩で歩みを止めました。同じ様に佳奈子も
また歩みを止めて振り向きます。しかし佳奈子の目はセルシアでは無く別の
者の姿を見ていました。その目に狼狽の色が浮かびます。
「弥白…様…」
佳奈子の手を掴んでそこに立っている弥白の姿はゆっくりと首を横に振って
から真っ直に佳奈子を見詰めました。見詰め返す佳奈子の瞳に柔らかい光が
射し、やがてそれが集まってひと筋の流れになり頬を伝わります。
セルシアには弥白の背中だけしか見えず、声も聞こえませんでした。
それでも弥白が佳奈子に語り掛けている言葉ははっきりと判りました。
そして佳奈子がぽかんと半開きにしたまま動かさない口から返された言葉も。
何時の間にかもらい泣きをしていたセルシアの視界の中で佳奈子の姿が
揺れました。慌てて涙を拭っても、佳奈子の姿がぼんやりしたままである事に
気付くとセルシアは首を傾げました。
「あれれ?」
よく確かめようとして近づいたセルシアの耳に佳奈子の話し声が届きます。
「私の望みは弥白様の作る影に居続ける事」
「お前の望んだ影とは私だ」
「だから弥白様の居ない世界になんて行かない」
「今更逆らえるとは思うなよ」
「そんな事はしない」
「何?」
「あなたには感謝しています」
「何を言っている…」
「弥白様の為にあんなに積極的になれたのも」
「…まて」
「初めて弥白様とお話しする事が出来たのも」
「…」
「こんなに開放的な気分になれたのも全部あなたのおかげ」
「やめろ気色悪い」
「だからずっと一緒に居てね。何処にも行かせないから」
佳奈子の背後には彼女が望んだ通りの漆黒の影が纏い着いていました。
その影は揺らめきながら佳奈子の姿と悪魔本来の姿を行き来し、まるで
もがいているかの様に手足を泳がせているのです。しかしそれも束の間、
影は弾ける様にして佳奈子から離れるとそのまま虚空へ向けて
吸い込まれて行きました。
「冗談では無いぞ、人間に魂を奪われるなんて恥じ晒しな真似が出来るか!」
「待って!行っちゃ駄目!」
佳奈子がもう一人の佳奈子に向けて差し伸べた手は何も無い空間を
虚しく掴んだだけでした。
(第165話・つづく)
# 同時にもう一本流してますので一応先週の「次回」の
# 約束は守ってますよね。^^;
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■
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