神風・愛の劇場スレッド 第165話『悪魔の矢』(その4)(4/19付) 書いた人:佐々木英朗さん
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From: 佐々木 英朗<hidero@po.iijnet.or.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
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Date: Fri, 19 Apr 2002 12:04:00 +0900
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佐々木@横浜市在住です。

<20020411163309.3c6bf391.hidero@po.iijnet.or.jp>の続きになります。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。



★神風・愛の劇場 第165話 『悪魔の矢』(その4)

●桃栗町郊外

翌日。枇杷高校の生徒達の話題は徐々にではありましたが先日の事件から
は離れ、週末の過ごし方へと移ろいでいました。そんな有様を感じながら、
弥白はぼんやりとその日をやり過ごして行きました。その日から再開された
新体操部の練習も軽いメニュー中心で普段よりも一時間以上早くに終了。
まだ夕暮れまでにはたっぷり余裕のある時刻に弥白は校門を抜けていました。
弥白を乗せて走り出した迎えの車の中で、運転手が極く手短に言い付けられた
品物はトランクの中にあると告げています。弥白は黙って頷くと車を自宅では
無く少し市街からは離れた丘陵地へと向かわせました。町境を越えて間もなく
海へ向かって道が徐々に下り始める辺りで弥白は車を止めさせ荷物を下ろしました。
荷物を下ろしながら運転手が尋ねます。

「ここで良いのですね」
「そうよ」
「まだ誰もお見えでは無い様子ですが」
「少し早かったのでしょう。あなたはもう帰っていいわ」
「本当にお迎えに参らなくてよろしいので?」
「ええ。帰りは友人に送ってもらえる予定だから」
「承知しました。冷えてまいりましたのでこれを」

運転手が差し出したコートに袖を通しボタンを止めると弥白は微笑んで
小さく頷きました。運転手は深く一礼すると静かに車を発進させ、ゆっくりと
弥白の視界の彼方へと消えていきました。空には鉛色の雲が拡がり、実際の
時刻よりも夕暮れに近い様な印象を与えます。丘陵地を大きく迂回する形の
町道は静かで車通りは殆ど絶えてしまっていました。弥白の目の前には
枯野がずっと拡がっていて、更にその先にはわずかな木立の上から覗き見る様に
桃栗町が開けて見えました。路傍の小石を踏む音がして弥白の傍に近づく気配
があります。弥白は気付いていないかのごとく、遠くの景色を見続けました。

「弥白様」

声を掛けられて初めて、弥白は身体を回して気配と向き合います。

「ここで良かったのよね」
「はい。それで」
「何かしら」
「昨日の物語の続きは如何ですか?」
「私が書いてみるわ」

弥白は屈み込んで足下の大振りなスポーツバッグを開くと緩衝材で包まれた
荷物を示して見せました。

「弥白様、これは?」
「よく無理をお願いする所から借りて来ましたの」
「案外小さい物ですね」
「それでも出力は充分だそうよ。少なくとも佳奈子さんが教えてくれた
数字よりは」
「そうですか」
「でも電池が持たないから別電源が無い場所では三回しか撃てないみたい。
それと測位部分は即席で付けたので誤差があるだろうからって」
「充分だと思います。試し、本番、予備で三回で済みます」
「私に出来るかしら」
「勿論です。及ばずながら私も精一杯お手伝い致しますので」
「よろしくね」

弥白と佳奈子は大きなバッグの把手を一つずつ掴んで持ち上げ、並んで
枯野へと踏み入って行きました。



道路を挾んで反対側にはまばらな雑木林があり、その中で比較的大きな木の
幹を選ぶとセルシアはふわりとそこに腰を下ろして二人の様子を見ていました。

「淋しい景色ですですぅ…」

見回してみても幸か不幸かセルシアの好きになりそうな生き物の姿は何処にも
見えません。弥白に目を転じれば、道から充分に奥まった辺りで枯草を
踏み締めてからビニールのシートを広げています。そして佳奈子と二人で
運んだバッグから荷物を取り出して包みを広げ始めていました。そんな様子を
眺めているとその日何度目かの睡魔がひたひたと近づいてきます。
まるでその足音を聞き付けたかの様にセルシアを呼ぶ声が届きました。

“寝ないで下さいよ”
「だ、大丈夫ですですっ」

目の前には居ないトキに向かって、セルシアはあたふたと手と頭を振って
精一杯の否定を表現しました。昨日の事もあり、セルシア自身の信頼を
落とさない為にもとトキはその日は幾度と無くセルシアに様子を尋ねていました。

“それで彼女の方は変わり無く?”
「異常無しですです」
“もうお屋敷へ戻ったのですか?”
「原っぱに居るです」
“…何処にですって?”
「枯草ばっかりの原っぱですです」
“もう少し具体的に。場所は?”
「えっとぉ…」

セルシアはその日の自分の来た道筋、すなわち弥白が通った風景を思い出して
事前に何度も見せられたはずの桃栗町一帯の地図と照らしてみました。

「地図の…」
“地図の?”
「左の方ですです」
“……町の西側に来ているのですね?”
「…多分」
“…まぁ良いでしょう。弥白嬢の様子はどうですか”
「お友達と遊んでるです」
“遊んでいる?誰とですって?”
「昨日のお客様と同じ女の子が一緒で原っぱに敷物敷いてお座りですです。
まるで…えっと…」
“何だかピクニックみたいですね”
「それですですっ!」
“そんな訳は無いでしょう、こんな日に”
「…」
“人間にはこの天候は寒いはずです。曇っていますし、私達にとっても
あまり快適では無いのですからね”
「でも」
“まぁ人間達が何をしているかはどうでも良いです。怪しい気配とかは?”
「無いですです」
“ならば結構。それでは頑張って”
「はいっ!」
“それと、寝ない様に”
「…大丈夫ですです…」

セルシアはぷっと頬を膨らませましたが、勿論誰も見ては居ませんでした。



コピー用紙の裏側になぐり書きされた絵と文章を見詰めていた弥白。
その絵と目の前にある装置を見比べながら、暫くのあいだ指で装置から
延びる電線を辿ってみたりその先の電池を揺すったりしていました。
やがて顔を上げると向かい側で座って膝を抱えていた佳奈子に告げます。

「これで良いはずよ」
「そうですか。ではこれを」

佳奈子は自分の脇に置いてあった望遠鏡を弥白に渡しました。ずっしりと
重くて手で支えるのは大変そうな代物でしたが、有り難い事にちゃんと
三脚に固定されています。それを手にした弥白は望遠鏡を不思議には
思いませんでした。佳奈子が最初は手ぶらだった事もすっかり忘れて。

「判りますか?」
「ちょっと待って」

弥白は三脚の三本の足の長さ一杯まで短くし、その後で少しずつ伸ばして
雲台を水平に合わせます。そうしてからシートに俯せに寝転んで望遠鏡を
覗き込みました。目に近い所にある小さなダイヤルを回していると、やがて
ぼやけた視界がはっきりとした像を結びます。それから望遠鏡を上下左右に
動かして、ある向きになった所で止めました。

「見えましたわ」
「目盛で距離と方角を読んでいただけますか?」

弥白は視界の下にある目盛に注意を向けました。

「南東125度、距離は目盛を外れていますわ」
「2000メートル以上あるという事ですね」

佳奈子はそう言いながら、弥白の脇に同じ様に延びている装置を片手で掴むと
上に付いている方位磁針を見ながら大雑把に向きを望遠鏡に合わせました。
そうして再び弥白に問いかけます。

「どうでしょう、ご覧になれますか?とても小さな」
「赤い点でしょ、見えていますわ。部屋の隅の壁に」
「準備は良い様ですね」
「後は待つだけ」
「寒くはありませんか?」
「大丈夫、私よりも」

弥白は望遠鏡から目を離すと首を曲げて佳奈子の方を見ました。
佳奈子は手のひらに入ってしまいそうな小さな双眼鏡を目に当てて遥か先を
覗いていました。頭の上には跳ね上げた眼鏡を戴いていて、それを片手で
押さえています。視線を下げていくと膝丈のスカートの裾が乱れ、そこから
覗いた華奢な足がくの字に曲がってシートの上に乗っていました。
短いソックスにもスカートの裾にも被われていない剥き出しの部分の足は
血の気が失せた様に青ざめています。

「佳奈子さんこそ寒くないの?」

佳奈子は双眼鏡を目から離して眼鏡を掛け直すと弥白の方へ顔を向けます。

「私は平気です」

そう事も無げに言う佳奈子。とてもそうは見えないと思いながら、弥白は
佳奈子の顔と寒そうな足を何度となく見比べていました。



相変わらず押し寄せる眠気を何度目かの欠伸だけで辛うじて乗り切った頃、
セルシアの見詰める光景の中で小さな動きがありました。弥白の隣に居た
佳奈子が膝立ちの姿勢になって何か小さな道具を覗いています。最初は良くは
判らなかったのですが、どうやらそれは人間が遠くを見る時に使う物だと
セルシアは理解します。そしてそう判ると次は彼女が、そして恐らくは弥白が
何を見ているのかが気になります。セルシアは自分の目で彼女達が見ているで
あろう方向を凝視しました。正確な方角が判りませんでしたからかなり広い
範囲を眺め回す事になってしまいましたが、そもそもその範囲でセルシアが
知っている物は一つしか見えませんでした。

「まろんちゃんと稚空くんのお家ですです…」

更に目を凝らすと丁度帰宅した所らしく、まろんが部屋の中を横切って行く
所でした。途中ふっと立ち止まって、何を思ったのかこちらに顔を向けた
まろん。目が合ったと勘違いしてセルシアは手を振りましたが勿論まろんが
気付くはずはありません。その時一瞬でしたがまろんの顔に小さな点が見えた
様にセルシアは思いました。そしてまろんが再び歩き出した直後、今度は
まろんの陰になっていて見えなかった部屋の奥、壁のかなり床に近い部分に
黒い染みが唐突に浮かび上がりました。白い煙がほんの一筋だけ上がる様子が
それに続いてセルシアの目に入ってきた時には、その染みが壁に穿たれた穴だ
という事がはっきりと判りました。それは見間違いでは無く確かに今この瞬間
にセルシアの見ている前で穿たれた穴でありました。

「あれ?」

今見た出来事が何であったのか、セルシアには想像もつきませんでした。
確実に判る事はあの穴はまろんの顔に穿たれる可能性があった事、そして
それは目の前に佇む二人の仕業らしい事です。そう思った時には身体が
自然に動いて空に舞い上がっていたセルシア。飛び立つ瞬間に佳奈子が
セルシアの方を振り向いていた事には気付きませんでした。
何とかしなければ。セルシアは飛行しながら必死に考えましたが、結局は
一番単純な方法を選びました。弥白の正面に降り立ったセルシア。一歩一歩と
近づくにつれて徐々にその姿が人間にも見える状態へと変化し、背景から浮き
上がっていきます。なるべく驚かさない様に翼だけは隠しておく事にします。
そして完全にその姿が見える様になってから両手を大きく広げて弥白に
語り掛けました。

「そんな事しちゃ駄目ですです」

弥白はその声を聞いてからやっと望遠鏡に押し当てていた顔を上げました。
それ以前からセルシアの所為で視界が遮られていたはずであったにも関わらず。
驚きも含めて何の感慨も浮かんではないその弥白の顔にセルシアは少しだけ
無気味な何かを感じましたが、そんな事に怯んでいる場合では無いと自分に
言い聞かせます。

「さぁ」

そしてセルシアが弥白に手を差し伸べたその時、彼女の肩に手を掛ける者が
ありました。驚いたセルシアが小さく短い悲鳴を上げて振り向くと、そこに
弥白の隣りに居たはずの佳奈子が立っていました。小首を傾げて穏やかな
笑みを浮かべながら、凍り付いた様になっているセルシアに告げるのです。

「どなたかは知りませんが、弥白様に近寄らないで下さい」
「あ、あの、えっと」

佳奈子が何故ここに居るのか、それどころか弥白と佳奈子の関係すら詳しくは
把握していないセルシア。そんなセルシアでしたから、咄嗟に佳奈子に掛ける
べき言葉が見つかりませんでした。佳奈子は笑みを絶やさず、そして同時に
その声には全く譲歩の余地の無い決意が込められていました。セルシアの肩に
掛けた佳奈子の手がゆっくりとその力を増していきます。

「痛っ」

セルシアが思わず声を漏らした直後、その身体は強い力で空高く放り
投げられてしまいました。一瞬何が起こったかが判らなかったセルシア。
ですがすぐに体勢を立て直し、地面にふわりと着地しました。

「あなた、もしかして」

佳奈子は既にセルシアに背中を向けていて、弥白に何か囁いていました。
それに対して弥白は頷くと再びスコープを覗き込んでいます。

「駄目っ!」
「煩いって」

セルシアが叫んで再度弥白の正面に回り込むのと弥白の手がスイッチを
押したのは殆ど同時でした。発振器から出た見えない光、そして佳奈子が
放った気の塊がセルシアを襲います。ですがそれがセルシアには幸いしました。
弥白が操る装置から迸る赤外線レーザー光はセルシアには未知のもの、ですが
佳奈子の気の攻撃ははっきりと感じられました。対抗して展開した障壁が、
結果として二つの力をどちらも弾き返します。セルシアは咄嗟につぶって
しまった目を開け、そして再び弥白の許へと駆け寄ろうとしました。
しかし全く近づく隙を与えずに弥白とセルシアの間に佳奈子が割って入ります。

「弥白様の邪魔を、止める気は無いのですね」
「そんな事しちゃ駄目ですです!あなたも一緒に止めてくださっ…」

佳奈子の左手がセルシアの咽首をわしづかみにしていました。振り解こうと
その手を掴むセルシアでしたが、まるで鋼の様にびくともしません。
そして、その冷たい手の感触がじわじわとセルシアの体力を奪っていくのです。

「さようなら…天使さん」

(第165話・つづく)

# 2/25日、金曜日午後まで。
## あぁ何だか予定より長くなりそうな予感。^^;;;

では、また。

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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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