神風・愛の劇場スレッド 第164話『お役に立ちます』(その3)(3/17付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 17 Mar 2002 22:58:32 +0900
Organization: So-net
Lines: 379
Message-ID: <a727ea$2bl$1@news01cf.so-net.ne.jp>
References: <20020215120849.5c4db527.hidero@po.iijnet.or.jp>
<a4nf9m$47m$1@news01ci.so-net.ne.jp>
<20020222125427.65a1b455.hidero@po.iijnet.or.jp>
<a5svqr$fr3$1@news01db.so-net.ne.jp>
<a724ha$hhk$1@news01bg.so-net.ne.jp>

石崎です。

#このスレッドは、「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て書
#き連ねられている妄想小説です。
#所謂二次小説に拒絶反応が無い方のみ、以下をどうぞ。

 この記事は、第164話(その3(最終))です。

 第164話(その1)は、<a5svqr$fr3$1@news01db.so-net.ne.jp>
 第164話(その2)は、<a724ha$hhk$1@news01bg.so-net.ne.jp>からどうぞ。



★神風・愛の劇場 第164話『お役に立ちます』(その3)

●枇杷町 山茶花本邸

 応接間に姿を現した弥白の表情は表向きはいつもの風を装っていましたが、ど
こか緊張しているのが都には判りました。

「今日は何のご用かしら?」
「ほら、この前ジャンヌが現れた時に、弥白も巻き込んじゃったしさ。お見舞い
に来てやったの」

 そう言うと、都はその積もりで予め用意してあった箱を弥白に差し出しました。

「父方の実家で栽培した苺よ。私が寝込んだって聞いて送って来たもののお裾分
けだけど。痛むから二日位で食べてね」
「あ、ありがとう」

 少々の戸惑いの表情を見せながら、弥白はそれを受け取りました。

「身体の方は大丈夫?」
「ええ。このとおり、ピンピンしてますわ」
「入院してたって聞いたけど」
「あれは、神楽が…。大丈夫です。念のためですわ」

 そう言うと、弥白はコホンと咳をしました。
 神楽の名前が弥白の口から出たことに、軽い驚きを覚えた都ですが、すぐに知
り合いでも当然だと気付き、その話は頭の片隅に追いやりました。

「今日ここに来たのは、もう一つ用事があったから」

 そう言うと、弥白の表情が曇りました。
 大会直前、都は『弥白新聞』のことで弥白を問い詰めていたのです。
 そのことを再び追求されると思ったのでしょう。
 しかしこの事について、弥白をこれ以上追求する積もりはありませんでした。
 今の弥白の様子を見ると、弥白自身も被害者に見えて、何だか可哀想に感じて
しまったからです。
 もっとも、その思いをわざわざ弥白に伝えようとは思いませんでしたが。

「あたしが今日ここに来たのは、怪盗ジャンヌのことについて聞きたかったか
ら」

 そう言うと、弥白の表情が微妙に変化しました。

「その事でしたら、貴方のお父様に既にお話しした通りですわ」
「それなら、もう調書は読んだわ」
「怪盗ジャンヌが現れた直後に、ジャンヌの武器で気を失ってからの事は、記憶
にありませんわ」
「本当に、何も覚えていないの?」

 そう言い、弥白の目をじっと都は見つめました。

「覚えていませんわ」

 意外にも弥白は目を逸らさずに答えました。

「そう…。残念。弥白なら何か知っているかと期待したのに」
「え?」
「私もジャンヌが現れてからの事、良く覚えていないから」
「東大寺さんも、ジャンヌのせいで?」
「うん。だけど違う気がする」
「どういう事ですの?」
「弥白やあたしを傷つけたジャンヌは本物のジャンヌでは無かったのかも」
「どうしてそんな事が判るんですの?」
「だって、あたしを助けてくれたのもジャンヌだったから」
「ジャンヌが…東大寺さんを?」
「あれは夢だったのか現実だったのか。確かにジャンヌはあたしのことを助けて
くれた」
「夢ではありませんの?」
「ねぇ弥白。馬鹿な事を質問して良い? 弥白は悪魔の存在って信じる?」

 言おうかどうか迷った挙げ句、結局都はそれを口にしました。
 言ってから、恐る恐る弥白の反応を見てみると、弥白は目を見開いていました。

「悪魔…ですか?」
「そう、悪魔。あたしね、ジャンヌが現れた後、すぐには気を失わなかったの」
「そこで、何かを?」
「でも、その時の記憶が無いの」
「記憶が?」
「でも『悪魔』。その言葉だけは覚えてた」
「そうですの…。でも、そんな物の存在なんて信じられませんわ」
「そう…だよね。ごめんね、変な事聞いて」
「いいえ」

 これ以上弥白を問い詰めても何も収穫を得られそうに無いと判断した都。
 帰ることを告げると、弥白は玄関先まで見送ってくれました。

「お邪魔したわね」
「いいえ、お見舞いありがとう」
「それじゃあ、次は全国大会で勝負よ」
「その前に団体戦もありますわ」
「あ、そっか。でも、あれはあたしは選手じゃないから。出るのは先輩達」
「そうでしたの」
「じゃあ、またね」
「またのお越しをお待ちしておりますわ」
「あ、そうだ」
「何でしょう」
「弥白が来るまで相手してくれていた、椿さんってメイドさん」
「春野さんが何か」
「新体操のこと、凄く好きらしいよ。誘ったら喜ぶんじゃないかな」
「そうでしたの。有り難う。覚えておきますわ」



 山茶花邸の正門へと続く道を考え事をしながら都は歩いていました。

「(怪盗ジャンヌが物を盗む度、それに関わった人はそれまでの記憶を失い、み
んな穏やかになって行く。弥白も、何も覚えていない様子だった)」

 それまで弥白が起こした出来事も、きっと怪盗ジャンヌが関わっている「何
か」に関係するのかもしれない。そう都は感じます。

「(それが、『悪魔』?)」

 この目でしかと見た筈なのに、思い出せ無くなってしまったあの日の出来事。
 その中で、記憶に残っていたこの言葉。
 しかし、そこから先に進むことが出来ないのでした。

「う…ん…」

 考えることに疲れた都は、ふと空を見上げました。
 既に日は傾いていて西の空は赤く染まっていました。

「あの…もしもし?」

 不意に、女性の声が上から降って来ました。
 声の主を探し求め、視線を移動させました。

「あ、こっちですですっ!」

 再度呼びかけられ、今度はどこから声をかけられているのか判りました。
 道の側に並んで植えられていた木の上に、その少女は座っていました。
 西日が後光のように射していて、その顔は良く判りませんでしたが、髪がきら
きらと光っているのが印象的でした。

「こんな所で何をしているの?」
「あの…山茶花弥白さんのお家はどの建物ですですっ?」
「すぐそこにあるじゃない」

 都は、建物が建ち並んでいる一角を指さしました。

「建物が一杯あって、どの建物か判らないですですっ」
「だったら適当な建物に入って、聞けば良いじゃない」
「そういう訳にはいかないんですですっ!」
「どうして?」
「どうしてもですですっ」

 少女の雰囲気に気圧されたいう訳でも無いのですが、都は弥白の住んでいる3
階建ての建物を教えてやりました。

「有り難うございますですですっ。どの建物かも教えて貰っていたんですけど、
ほんの少し寄り道していたら、判らなくなってしまったんですです…」

 そう言うと、少女は俯きました。

「ところで、山茶花弥白さんはお元気ですか?」

 黙ってしまった少女に都が声をかけようとすると、意外にもすぐに立ち直った
少女が質問して来ました。

「ついさっきまで、話していたけれど」
「良かったですですっ。じゃあ、私、そろそろ行かなくてはですですっ」
「送って行こうか?」
「大丈夫ですですっ」

 少女は木の上から飛び降りて…そして都の目の前で転びました。

「痛いですです…」
「大丈夫?」

 少女の手を取り、助け起こしてやった都はこの時、初めて少女の顔を直視しま
した。
 銀色の髪に銀色の瞳。透き通るような白い肌。
 まるで人間では無いような美しさだったので、背中に翼が無いかどうか確認し
ましたが、それは見当たりませんでした。

「有り難うございますですですっ」

 そう言うと、少女は抱きついてきて、そして頬にキスして来ました。

「ちょ、ちょっと…」
「どうして私が貴方に話しかけたか、判りますですです?」
「え?」
「私達と同じ匂いがするから、話しかけても大丈夫。そう思ったからですっ」
「え?」
「それじゃあ、早く行かないと怒られちゃいますから」

 そう言うと、その少女は弥白の住む屋敷へと走って行きました。
 彼女が走って行った後に、何かが浮かんでいるのに気が付いた都はそれを手に
しました。

「……羽根? まさか、彼女」

 フィンに今度会ったら、聞いてみよう。
 そう思う都の手の中で、その白い羽根は消えて行きました。


●桃栗町西部郊外 ツグミの家

「ツグミさん!」

 とうとう我慢出来なくなったまろんは、自分からもツグミの背中に手を回しま
した。

「ごめんなさい。ツグミさん。私…」
「日下部さんは謝る必要なんか無いわ。でも、理由位聞かせて」

 そう言うと、まろんは離れてこくりと肯きました。

「本当は、ツグミさんと一緒に居たい。でも、今は駄目なの」
「日下部さんの使命の関係?」
「うん…」
「そう、判ったわ。だけど…」

 そう言うと、再びツグミが抱きついてきて、まろんの耳元で囁きました。

「でも、今夜くらい良いでしょ。戦士にも休息は必要よ」
「私、怪盗だよ」
「些細な違いよ。一緒に食事をして、お茶を飲んで、それからお風呂に入って。
それから…」
「それから?」
「馬鹿ね」

 気が付くとツグミの指が身体を這い回り、太股がまろんの両膝を割ってその中
に入り込んでいました。唇はまろんの首筋にあり、思わずまろんは声を上げそう
になりました。

「狡いよ、ツグミさん」
「日下部さんにはこれが効くのよ」
「もう…」

 自分を抑えていた何かが弾け飛んだまろんは、瞑っていた目を開けてツグミに
反撃しようとしたのですが。

「!」

 目を開けたまろんの正面には、イカロスが音も無く歩いて来ていて、まろんと
ツグミの様子をじっと見ているようでした。

「あ…」

 まろんは、ツグミに回していた手を離し、ツグミから慌てて離れました。
 最初、どうして急にまろんが離れたのか判らなかったツグミも、イカロスが近
くに来ていたことに気がつきました。

「私、やっぱり帰る」
「日下部さん」
「イカロスがね、私に言うの。ちゃんと仕事しようねって。ツグミさんも知って
るでしょ? 天界から来た天使達。あの子達、使命が終わらない限りは故郷に還
ることが出来ないから、一生懸命頑張ってる。だから私一人だけ、遊んではいら
れないよ」
「そう…判ったわ」
「ごめんなさい」

 申し訳ない気持ちで一杯のまろんは、再びうなだれました。
 そんなまろんの頬に、ツグミの手が触れて来て、言いました。

「でも、紅茶をもう一杯飲む位、時間はあるでしょ?」
「え…うん!」

 まろんが笑顔を取り戻して肯くと、二人は並んでソファへと戻って行くのでし
た。


●枇杷町 山茶花本邸

 都が帰った後で、3階にある自室へと引き上げた弥白。
 ソファに倒れ込むように座ると、メイドの椿に紅茶を入れて貰いました。
 都にしては追求が甘かったために、平静を保ち続けることに成功したものの、
内心は冷や汗ものでした。

「(東大寺さんが、悪魔の事を知っているなんて)」

 都は単語以外に記憶が無い様子でしたが、弥白はそれを素直に受け取りません
でした。

「(万が一、私と悪魔さんの関係が世間に知られたならば)」

 破滅ですわね。自嘲の笑みを弥白は浮かべます。
 何しろ、あの大破壊をもたらしたのはあの悪魔の仕業なのだから。
 しかしそれでも、悪魔の少女を助けたことを後悔はしていません。
 彼女(悪魔に性別があるのかは不明でしたが)に、弥白は救われたからです。

 それに加えて都にまで知られていたらしい偽物の『弥白新聞』。
 これだけでも弥白を破滅させるには十分でした。
 だから今の弥白の心境を一言で言えば、死刑執行を待つ死刑囚の心境。
 想いを遂げた今、何時裁きの時が来ても構わない。
 そう、覚悟を決めているつもりでした。

「誰!?」

 何者かの視線を弥白は感じ、弥白は叫びました。

「弥白様!」

 ティーカップとティーポッドを運んで来た椿が、駆け寄って来ました。

「誰かがベランダに居るみたい」

 そう言い、自らベランダに向かおうとした弥白を椿は止めました。

「ここは私が。弥白様はお下がり下さい」

 椿は特殊警棒を取り出して、窓の側の壁際に寄りました。
 すぐに外に出る事はせずに、外の様子を伺ってから足で窓を開けます。
 そうしてから初めてベランダに出て、辺りを見回して中に戻って来た椿。

「ご安心を。誰も居ないようです」
「そう…」

 椿の言う通り、何者かの視線は感じなくなっていました。
 安堵の溜息をつき、弥白はソファに腰を下ろしました。

 その時、弥白の携帯電話が着信のメロディを奏でました。
 その音を聞いた瞬間、弥白の表情が一気に明るいものへと変化します。
 そして電話を取り、何事か話して電話を切ると、弥白は来客があることを椿に
告げ、準備の手伝いを頼むのでした。


●桃栗町西部郊外

 紅茶一杯の筈が夕食まで一緒にした後に、更に引き留められるのを振り切るよ
うにツグミの家を辞したまろんは、既に街灯を除けば闇に包まれた県道を歩いて
行きました。

「(ツグミさんには、使命だからって言ったけど)」

 まろんは気が付いていました。
 トキ達がまろんを西部地区の探索役に任命したのは、ツグミの家に行けるよう
に配慮してくれたからだと。
 そう考えると、まろん達に比べると悪魔の探索能力が大幅に劣る稚空が、枇杷
町に隣接する北部地区の担当となっている理由も納得が行くのです。

 今頃稚空は、山茶花さんを見舞いの名目で訪れて、ひょっとしたら甘い一時を
過ごしているのかもしれない。だったら、私だって。
 ツグミに抱きしめられた時、そんな事を一瞬考えました。

 しかし結局まろんはツグミの家には泊まりませんでした。
 ツグミ、都、フィン、そして稚空。
 愛に飢え、愛を要らない風を装い、次は愛を求めた。
 不安定に思えたそれが、急に現実味を増して来た時、まろんは不安を感じ始め
ていました。
 これらの愛を自分は受け止めきれるのかと。

 そしてイカロスと目が合った時、ツグミと付き合うようになったのは、元はと
言えばまろんがイカロスを傷つけたことが原因であったこと、そしてツグミとの
愛に溺れている間に、都が苦しんでいて、フィンの心を傷つけてしまった事をま
ろんは思い出してしまったのです。
 そんな気持ちを抱えたままで、ツグミの側には居られませんでした。

 これらの理由が積み重なって、まろんはツグミの側から逃げ出して来ました。
 任務云々は、言い訳に過ぎませんでした。

「(どうしよう…。こんな事で悩むなんて。こんな時に)」

 神と魔王の争いの渦中に存在する最重要人物であるまろんでしたが、この時ば
かりは争いよりも自分の事で頭が一杯なのでした。

(第164話(その3) 完)

 第164話はここまでです。
 稚空と弥白様については特に決めてないので、好きにしてやって下さい(笑)。

 では、また。

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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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