From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Mon, 14 Jan 2002 16:41:07 +0900
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石崎です。
本年の初妄想記事です。
今年も宜しくお願いします。>佐々木さん&読者の皆様。
> # 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
> # 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
> # 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。
…と言うことで、宜しくお願いします。
★神風・愛の劇場 第158話『嵐の後で』
●柿町・コーポ種村
桃栗町の隣に位置する柿町の東部地区。
丁度収穫期を迎えているキャベツ畑の中に存在する新興住宅地の中に桃栗学園
の歴史教師にして女子新体操部の顧問、パッキャラマオ五十嵐の住処はありまし
た。
太陽が既に傾こうとした時刻、目を覚ましたパッキャラマオは、枕元に置いて
ある時計を見て悲鳴を上げました。
「こんな時間!」
今日は大事な地区大会の1日目なのに、寝坊してしまうなんて。
目覚ましはちゃんとセットした筈。
そう思い、パッキャラマオは気付きます。
確か今朝、一度は起きた筈という事に。
一度起きて、再び寝てしまったのか。
しかしその辺りの記憶がはっきりとしないのでした。
「詮索は後ザマス」
とにかく、今からでも行かないと。
それにしても誰も電話一つ寄越さないなんて。
パッキャラマオが思うのも無理はありません。
部屋の電話の留守電にも、携帯電話の着信履歴にも、誰かが電話をかけてきた
様子が無いのでした。
自分がいなければ、部員が心配して電話をかけて来そうなものであるにも関わ
らず。
パッキャラマオは手早く身支度を整えると、慌ただしく部屋を飛び出ました。
そのパッキャラマオの目の前を走る道路をサイレンを鳴らしながら救急車が通
り過ぎました。
駅まで走って行く内に、更に救急車や消防車が追い抜いて行きました。
どこかで大きな火事でもあったのだろうか。
その時はそう思っただけのパッキャラマオは、桃栗町の駅に降り立った時に真
相を知り、卒倒することになるのでした。
●桃栗町郊外・名古屋病院
桃栗体育館の崩壊により幸いにも死者は出ませんでしたが、怪盗ジャンヌの使
ったガスを吸ったまま意識を取り戻していない者、ジャンヌと警官隊との争いに
巻き込まれた者、避難の最中に怪我を負った者、精神的にショックを受けた者は
百人を上回り、その多くは町内で最大の病院である名古屋病院に運び込まれてい
ました。
元々病室の空きはあまり無かったので、運び込まれた怪我人で入院を必要とす
る者は皆平等に相部屋という形となりました。
例えそれが日本、いや世界でも有数の企業グループの令嬢であったとしても。
その令嬢、山茶花弥白が目を覚ましたのは、そんな怪我人が詰め込まれている
病室の一つ。
目を覚ましてすぐに起き上がろうとした弥白は、身体の痛みに顔を歪めました。
「一体何が…」
真っ先に思い出したのは、個人総合の順位が確定した直後、怪盗ジャンヌが出
現したこと。
そして避難の最中に強い衝撃を受けたこと。
そのまま気絶して、そして今気がついた。
「(本当にそれだけでしたの?)」
その後にも何かがあったような気がするのですが、記憶がどうも曖昧なのでし
た。
「また、私…」
このように記憶が曖昧になった時、大抵後で嫌なことが起きている。
そしてそれは自分に関係すること。
だからこそ、必死に弥白は記憶を取り戻そうと試みました。
そしてその努力は、部分的に報われました。
ジャンヌに追いつめられていた悪魔を助けている自分の姿を。
そして…。
「夢、ですわよね」
あまりにも現実的では無い光景であるが故に、弥白はそれを夢であると信じよ
うとしました。
しかし、夢にしてはあまりにもはっきりと思い出せるのです。
「お目覚めですか」
聞き覚えのある声に呼びかけられ、弥白は悪夢から呼び戻されました。
横に向けていた顔を上に向けると、神楽がほっとした表情でこちらを見ていま
した。
「神楽…?」
「はい」
「私、一体…」
「怪盗ジャンヌの散布した睡眠ガスを吸って、倒れていた所を運ばれて来たので
す」
「ここは…」
「名古屋病院です。個室で無くて申し訳ありませんが、ベットの数が足りないも
ので」
「そんなに沢山」
「はい。何しろ桃栗体育館は崩壊してしまいましたから」
「何ですって!?」
「幸いなことに、怪我人は出ましたが中にいた人は無事に避難したそうです。全
員」
はっきりと思い出しました。
去り際に、あの悪魔が自分に言った言葉を。
「(あれは、現実…)」
そう気付くと、弥白は自分の行為の恐ろしさに身震いがしましたが、何とか平
静を保つことに成功しました。
「ずっと、看ていて下さったんですの?」
「はい」
「稚空さんは?」
「無事です。避難活動のボランティアをされていたのですが、今は家に帰られた
と連絡があったそうです」
「そう、ですの…」
弥白は、顔を横に向けました。
自分の事より、まろんの方を稚空が心配しているのであろう事が想像できたか
らです。
「弥白様」
「何ですの?」
「弥白様を会場から真っ先に運んだのは、稚空様です。ですから」
弥白が顔を上に向けると、神楽が困ったなという表情を見せていました。
「主人思いですのね」
「いえ、その…」
「ありがとう、神楽」
そう言うと弥白は、その時出来るだけの微笑みを見せるのでした。
*
その日名古屋病院に運び込まれた怪我人の中で、大門佳奈子だけが個室に運ば
れたのは、以前と違って彼女の父親が名古屋病院の勤務医であったからという訳
ではありませんでした。
それは、彼女が警官に発見された時の状態があまりにも異常であったからです。
その異常の原因は今は警察に参考品として押収され、現在鑑識に回っている筈
でした。
その日の怪我人の中に、彼女が手にしていた物、セラミックナイフで傷ついた
者は現在のところ確認されていなかったので事件とはなっていません。
しかし、そのような物を手にしていたからには何かを目撃していたに違いない
との判断から、彼女が落ち着き次第事情聴取が必要だろうと、病院を訪れた東大
寺警部から海生は聞かされていました。
*
海生が佳奈子の意識の回復を知らされたのは、すでに夜も遅い時刻。
海生が病室を訪れると、佳奈子がこちらに顔を向けました。
身体をどこかにぶつけたように痛いと訴えた佳奈子ですが、どこでぶつけたと
の問いには答えることが出来ませんでした。
「判らない…。怪盗ジャンヌが現れてからのことは、判らないんです」
頭を両手で抱えて佳奈子は言いました。
「落ち着いて。無理に思い出さなくても良いんだ」
「はい…すいません。院長先生」
先日も男性に襲われて怪我をし病院に運び込まれた彼女。
ナイフなどを持ち歩いていたのも、その時の恐怖があったからに違いない。
きっと今日も、ナイフを手にせざるを得ないような恐ろしい思いをしたのだろ
う。
記憶がないのも、恐怖の為なのかもしれない。
この子からは暫くの間目が離せないな。彼女の心を癒してあげないと。
そう思い始める海生でした。
●桃栗町・県立桃栗体育館跡地
ミストが去った後、フィンとまろんは桃栗体育館の崩壊した跡──今は跡です
ら無くただ何も無いクレーターが広がっているだけ──を見下ろすビルの屋上で、
疲れ果てて眠ってしまったらしいフィンの頭をまろんは自分の膝に乗せてやって
いました。
フィンの緑色の髪に手を添え、乱れた髪を直します。
その緑色の髪は太陽の光を浴びて光っていました。
「(ちょっと銀色、入っているかな?)」
新たに降臨して来た天使、セルシアとトキの髪は、見事なまでの銀髪であった
ことをまろんは思い出しました。
少しの間、フィンとまろんはそのままでいましたが、体育館周辺の建物は体育
館の崩壊に伴う避難命令が出ているとはいうものの、警官や消防署員、瓦礫の後
片付けの作業員等に見咎められるかもしれないことを考えると、フィンが目を覚
ますのを待っている訳にはいかなさそうでした。
「よいしょっと」
眠ったままのフィンをまろんは背負いました。
このまま自分の家まで運ぼうと考えて、天使を背負っている様子を人に見られ
るのは拙いと気付きました。
フィンの姿は自分が望んだ相手か、まろんのように選ばれた人間以外は見る事
が出来ない筈でしたが、大分力が弱まっている今でもそうであるかについては、
自信が持てませんでした。
しかし、人目に触れずにオルレアンまで歩いて行くのもまた不可能。
せめて、空を飛んで行けたなら…。
そう思い、まろんは名案を思いつきました。
「アクセス、聞こえる?」
一ヶ月ほど前に渡されて、そのまま自分でも存在を忘れかけていたアクセスの
白い羽根──マジックで黒く塗りつぶしてしまいましたが──をまろんはポケッ
トから取り出すと、羽根に向かって呼びかけてみました。
「まろんか? 今、どこだ?」
羽根が光り、アクセスの声が頭の中に響きました。
どうやらテレパシーか何かで話しかけられているようでした。
「桃栗体育館の近くのビルの屋上みたい。ノインの結界はどうなったの?」
「ついさっき無くなった。今、俺達もそっちに向かっている。それでフィンちゃ
んは…」
「無事よ」
「良かった。反応が弱まっているので心配──」
そこで、声が途切れました。
「アクセス? ねぇ、もしもーし! もう!」
しかしそれきり、反応はありませんでした。
「まろん」
耳元でフィンの声がしました。
「フィン? 気がついたのね」
「降ろして。自分で歩ける」
「遠慮しないで。今、私の家に運んで貰うから、そこでゆっくり休んで」
「良いから降ろしてよ。恥ずかしい」
そう言うと、フィンはまろんの背中から降りようと暴れました。
どうせアクセスに運んで貰うのだし、これ位の元気があるのなら。
そう思い、まろんはフィンを背中から降ろしました。
「今、アクセス達がこっちに来てる。だからそれまでは休んでて」
「不要よ」
「そんな遠慮しないで。放っておけないよ」
「ノイン! そこに居るんでしょ」
辺りを見回したフィンが、ある一点を見据えて叫ぶと、果たしてノインはビル
の屋上に姿を現しました。
「やはり気付いておられましたか」
「当然でしょ」
「これからどうされるので?」
「ひとまず撤退する。私を一緒に運んで行け、ノイン」
「宜しいので?」
ノインはフィンの前に立っているまろんの顔を見て言いました。
「構わない」
「フィン!」
フィンを止めようと伸ばしたまろんの手をフィンは払いのけました。
「どうして…」
気持ちが通じ合った筈なのに。
まろんの想いを無視するかのように、無言でフィンはノインの居る場所まで歩
いて行きましたが、そこでまろんに向き直って言いました。
「まろん」
「何?」
「私とまろんは所詮敵同士」
「そんな…」
「だけど、私の気持ちには嘘はないから。それだけは信じて。まろん」
「だったら!」
「行きなさい。ノイン」
「は」
「フィン!」
「膝枕。気持ち良かったよ。又近い内に会いに行くわ」
そう言い残すと、ノインに抱えられ、フィンは姿を消しました。
「フィン!」
無駄とは知りながら、再度まろんは呼びかけました。
しかしやはり返事はありませんでした。
「まろ〜ん」
空の向こうから聞こえるアクセスの呼び声をまろんは聞いていませんでした。
●桃栗町郊外 ノインの館
「本当にこれで宜しかったのですか? クイーンよ」
ノインに連れられノインの屋敷へとやって来たフィンは、全の入れてくれた紅
茶を飲み、まずは一息つきました。
「構わない」
「失礼ながら、もう我々の側には戻って来ないのかと」
「何故そう思う」
「日下部まろんを倒すことが出来る状況であったにも関わらず、その命を助けた
ではありませんか」
「ミストは魔王様からの言いつけを破り、人間共を大勢巻き込んだ。その罪滅ぼ
しのためだ」
「その計画を承認されたのはクイーンです」
「全ては皆が眠っている間に片が付いていた筈なのに、ミストが愚図愚図してい
るから」
「本当はクイーンは日下部まろんが殺されるのに耐えられなかったのでは」
「……」
フィンの答は無く、それを肯定とノインは取りました。
「心配する必要はありません。魔王様はクイーンの行動を許すでしょう」
「判ってる」
「クイーンが日下部まろんを選び、我々の側を離れるというのであれば、それす
らも許される筈です。魔王様は来る者も去る者も拒みませんから」
「ノインも私に裏切りを勧めるの?」
「いえ。ただ、自分の意志に従うことを薦めたまでです」
「ならば心は決まっている。私は魔王様を裏切ることはしない。また、天界も魔
王への忠誠の証を身体に刻み込んだ私のことを許すことは無いだろう。神の意志
がどうであれ」
「ならば日下部まろんはどうするのですか。諦めるのですか?」
「そうね…」
フィンは、ソファの背に身体を預けて目を瞑りました。
そしてそのままの姿で呟くように言いました。
「最初、私が準天使の姿でまろんに近づいたのは、日下部まろんを騙し我等の味
方をさせて神の側から引き離し、あわよくば我等の側に寝返らせるためだった」
「途中までは上手く行っていたのですが」
「それが上手く行かなくなると、今度はまろんの周囲の者を傷つけ、次はまろん
を孤独にしてまろんの心を傷つけ弱め、彼女を守る神のバリヤーを破ろうとし
た」
「だが、脆弱に見えた日下部まろんの心は意外にも強く、孤独に思えた彼女を支
える者は決して少なくなかった。そのことを考えればミストの強攻策は悪くは無
かった。あの作戦の真髄は、最初の作戦が上手く行かなかったとしても、あの会
場にいた人間の命を盾に、まろん自ら自分の命を差し出すように仕向けることに
あるのですから」
「……」
「しかし、クイーンは日下部まろんを助けた。何故か」
「その理由は言った」
「嘘とは言いませんが、真実の全てを語った訳でも無いのでしょう?」
ノインがそう言うと、フィンは閉じていた目を開きました。
「そう。ノインが疑っているように、私は日下部まろんのことが好きなの。愛し
ていると言っても良いわ。だから、私は私以外の何者かの手によってまろんが殺
されることに耐えられなかった。作戦の実行時に私が現場にいないようにしたの
も、結界を張り私に現場を見せないようにしたのも、ノインはその事を判ってい
たからなのでしょう?」
「自分の気持ちがそこまでお判りならば、何故我等の側にいることに拘るのです」
「天界を離れた私のことを拾って下さり、愛して下さった魔王様を裏切るつもり
は無い」
「話が堂々巡りですな。それではこれからどうするのです」
「まろんとの決着は私の手でつける。それも近い内に」
「出来るのですか?」
ノインが意外そうな表情を浮かべて問うと、これまたノインには意外なことに、
フィンは自信のある表情を見せて肯くのでした。
「その時は、ノインの働きに期待している」
「はぁ」
どこまで本気なのか。
そう思い、ノインが曖昧な返事をすると、フィンはソファから立ち上がりまし
た。
「とにかく今日は休ませて貰うわ。今のままではまろんには太刀打ち出来ないか
ら。客用の寝室を借りるわよ。シルク!」
「はいでぃす」
キッチンから、エプロン姿の全が姿を現しました。
「客用の寝室を借りるから、案内なさい」
「お客様が昨日まで居たので、汚れてまぁす。掃除しますから少しお待ち下さぁ
い」
「客?」
一瞬キョトンとしたフィンですが、すぐに納得した表情になりました。
そしてノインの方に顔を向けて言いました。
「そう言えばノイン」
「はい」
「ノインは全ての事が終わったらどうする積もり?」
「人間界に未練は無い積もりですが」
「だが、ノインはジャンヌを倒すことより人間界を存続させることを選んだ。違
う?」
「私は魔王様の意志を確認したに過ぎません」
「…そういうことにしといてあげるわ。とにかく、戦いはもう少しで終わらせる
積もり。その後で悲しむ者が無いようにしておきなさい」
「後のことについては、クイーンに頼んである筈ですが」
「本当にそれで良いの?」
「と言いますと」
「別の生き方もあるってこと。この子のこともあるしね」
フィンは全の方を見て言いました。
「この子は本来魔界の生き物ですが」
「そうだったわね。とにかく、体力を回復するまでは。…そうね、まろんの玩具
にならない程度に回復するまでは、この屋敷で休ませて貰うわ。残された時間は
限られているけれど、今日明日という訳でもない。もしもノインがこの世界で生
きるつもりなら、その様に取りはからうわ。だから、どうすることが最善か、も
う一度良く考えることね」
「………」
*
掃除を終えた客用の寝室にフィンが行ってしまった後で、ノインはソファに座
ったままずっと何事かを考えていました。
「後少し位はあの方も許して下さるでしょうか」
そう呟いたノインは、手の中に携帯電話を出現させ、何処かにメールを書いて
送ると、小さく溜息をつくのでした。
(第158話 完)
2月19日夜〜2月21日朝までの忘れられた人達中心。
まだ何人か書き残していますが、それは残してあるということで(笑)。
では、また。
#来週末は表稼業の都合により私パートはお休みの予定です。
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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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