From: hidero@po.iijnet.or.jp
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 7 Dec 2001 18:35:38 +0900
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佐々木@横浜市在住です。
妄想の続きです。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。
★神風・愛の劇場 第157話 『還る』(その2)
●オルレアン
日曜の昼過ぎ。普段ならば寝坊の一言では済まない時間に目覚めたまろん。
昨日は帰宅した後も大変でした。押しかけてくるなり怪我は無いかと大騒ぎした
挙げ句に身体に触ってきた稚空を張り倒し、大会会場から搬送された怪我人リスト
にまろんの名が無かった事を心配した東大寺警部が掛けて来た電話の相手をし、
アクセスが紹介してくれた天界からの訪問者との質問合戦を潜り抜け、
更には遅くに帰宅した都の寝顔を見て安堵し、自分を家に送り届けた直後に
姿を消したフィンの帰りを待って重い瞼と戦い…結局ベッドに倒れ込んだのは
間もなく日付をまたぎそうな時刻。
あれだけの大仕事をした後でも倒れなかったのは、きっとフィンが力を分けて
くれたからなのだろうとまろんは思います。
それでも今日の目覚めは爽やかな物ではありませんでした。
よろよろとリビングに出るとソファの上に丸まった毛布が載っていて、
その脇から白い何かがはみ出しています。
それはふわふわとして温かみのある白い羽根の集まったもの。
「フィン!」
まろんは慌てて駆け寄りました。ですが毛布に手を掛けた所ではたと思い出し
ます。昨夜泊めてあげた遠来の客の事を。少し幼さの残る顔立ちの彼女…天使。
フィンの友人、それとも幼なじみと言っていただろうか。アクセスに紹介された
時の事を思い出そうとしても頭が冴えませんでした。とにかく顔を洗おうと
洗面所に向かうまろん。多少は目が覚めた気分になって戻った時、電話機の
小さなランプが点っている事に気付きました。録音されたメッセージの表示。
誰からだろうかと考えを巡らせますが、昨日の今日です。誰から掛かってきても
不思議ではありませんでした。もっとも、メッセージの主は一番意外な人物から
の物だったのですが。
「三枝です。日下部さんの入院先が判らないので家に掛けました。
至急話したい事があるのでなるべく早く会いたい。連絡を待っています」
三枝の理解では自分も昨日の騒動の被害者という事になっているらしい、
と彼の言葉はまろんに告げていました。
そうするとやはり彼も正気では無かったのだと気付き一安心するまろん。
しかし急ぎの用というのは気になりました。まさか、昨日の写真の事では。
三枝が最後に撮っていたのは絶対に残ってはならない写真なのです。
心配事が急速にまろんを覚醒させていきました。自分の部屋に戻って着替え
を済ませ、電話の受話器を取り上げると稚空の所へ連絡を入れようとします。
他にこんな事を相談出来る相手が居なかった事もありますが、今は素直に
救けを求める時であると思えたのです。ですが…。
「もう、何処行ってるのよ!」
まろんより早く目覚めた稚空が、彼女の為に朝食の買い物に出かけた事など
無論まろんに判るはずは無いのでした。ですから何時帰るか判らない稚空を
待っている気分にはなりませんでした。まろんはソファで寝ている客を
揺り起こそうとします。散々に肩を揺すられてやっと目を醒ましたセルシア。
半分だけ開いた瞳を覗き込みながらまろんは早口で訴えました。
「急用が出来たの。稚空に伝えて、三枝先生の所へ行くって。アクセスに
伝えてくれてもいいわ。もし彼の行き先を知っていたら。知らないなら此で
留守番しててね。行き違いになるといけないし」
言いながらもセルシアの肩をがくがくと揺らすまろん。セルシアは揺れている
だけなのか頷いたのか判らない状態から辛うじて返事をしました。
「ふぁ〜い」
「じゃ、お願いね!」
まろんはそう言い置くと慌ただしく出かけていきました。
残されたセルシアはぱったり倒れて、そのまま再び寝てしまったのですが。
●桃栗町郊外
暫くぶりに三枝の家(別荘と言うべきかもしれません)を訪れたまろん。
どうやら本当に今か今かと待っていたらしく玄関先に立つよりも
早くに開かれた扉に、まろんは戸惑いました。招き入れられ、案内された
部屋は以前の建物の時は写真で埋め尽くされていた"あの"部屋でした。
前回の訪問時にも感じた事ではあるのですが、調度品が少し在るだけの
何となく殺風景な印象の部屋だとまろんには感じられます。特に何も無い
一面の壁が。まろんは勧められるままに扉に近いほうに腰を降ろしました。
三枝は一度姿を消してから、ポットとカップを持って現れました。
「紅茶で良かったかな」
「はい」
三枝はカップに紅茶を注ぐと、まろんにそれを差し出します。
その紅茶は初めて嗅ぐ独特の香りがしていました。
「いい香りですね」
「ちょっと変わっているだろう」
「ええ」
「知り合いが送ってくれたんだ」
「いただきます」
三枝は両手の指を組んでテーブルに乗せたまま、自分のカップには
口を付けずにまろんの様子を見詰めていました。
「あの、それで今日はどういう…」
「実は見てもらいたい写真があってね」
まろんは心臓が停まりそうになるほど驚きました。実際、ソファの上で小さく
跳び上がったのですが、三枝は気付いた様子を見せません。
まるでまろんの反応には関心が無いかの様に淡々と事を運びます。
「これなのだがね」
三枝の差し出した写真を恐る恐る手に取るまろん。そこでやっと忘れていた
息を深々と吐き出しました。それは危惧していた様な写真では無く大会の最中の
1コマだったからです。まろんは写真をじっと見詰めました。写っているのは
自分、パッキャラマオ先生、都、他の部員達、端には桐嶋先輩。そして多くの
観客や大会関係者…。
「これが何か?」
「やはり気付かないか。そうだろうね、普通気付かない」
三枝はもう一枚別の写真を取り出すと、今まろんが見ている写真の隅の一箇所を
指差し、もう一枚を添える様にして見せました。
「ここだ。これがその部分を引き延ばした写真。どう思う?」
まろんは目を瞠りました。ややピンボケ気味ではありましたが、
まろんはそこに写っている人物を知っていました。
見た事がある、と言うべきでしょうか。
「娘のアキコだ」
「でも、そんな…」
「アキコは帰ってきている。私のすぐ側に!」
まろんは三枝の言葉に背筋が寒くなるのを感じていました。もし何の根拠も
無く彼が同じことを言ったのならば、それは単なる妄想としか感じられず
悲しくはあっても恐ろしい事ではなかったでしょう。ですが、まろんの
手の中には彼の言葉を裏付ける物があるのです。これをどう説明すれば
良いのだろう。考えをまとめようとしても、まるで寝起きの時の様に思考は
霞んでしまっていました。ぼんやりと意識の彼方から声が届きます。
「実はね、日下部さんにまたお願いしたい事があるんだ」
「…私に…出来ること…でしたら」
「君でないと出来ない事なんだよ」
「私でな…」
まろんはそれ以上何も考えられなくなっていました。
とても眠くてソファの上に横になりたくて仕方ありません。
こんな時に人様の家で居眠りだなんて…まろんが最後に考えた事です。
背もたれに寄り掛かり眠ってしまったまろんを三枝は見詰めました。
その時を待っていたかの様に、部屋の隅に人影が浮かび上がります。
「眠りましたか」
「ああ。君の言う通りにはやったつもりだ」
「ならば結構」
「本当に…」
「何です?」
「本当にこれでアキコは帰ってくるのか」
「そうです。そしてその為には、その娘の身体を借りる必要があるのです」
「彼女の身体が」
「二つに別れてしまった者が一つになる為に」
「ああ、判った」
ノインは部屋の扉を指し示しました。
三枝はまろんを抱き上げると、ノインの後について行きます。
寝室に入ると、ベッドの上に見覚えの無い布が掛かっています。
布は白いものでしたが、墨の様な物で二重の円が描かれ、内側と外側の
円の間には模様とも文字とも判別つかない何かが描かれています。それは
世界中を旅して色々な言語を見聞きした三枝にとっても未知の物でしたが、
彼は漠然とそれを古い時代の文字なのでは無いかと想像しました。
何処と無く筆記体のアルファベットを彷彿とさせる物だったからです。
「彼女をその上に寝かせなさい」
思考を遮る言葉に三枝は黙って頷き、まろんをその上に寝かせます。
ノインはそれを見届け、それから短剣を何処からか取り出すとまろんの
身体の上にかざします。切っ先を下に向けると微かな光が発しましたが、
手早く離した為に三枝の目には止まりませんでした。
「(やはり…いや、予想以上に早い回復というべきか)」
内心の小さな動揺は一切顔には出さず、ノインは短剣を三枝に渡します。
「これは、一体…」
「これで、この娘の胸を貫きなさい」
「そんな事は出来ん」
「気にする必要はありません。これは特別な剣ですから」
三枝はためらっていました。彼の肩に手を載せてノインが囁きます。
「あなたのお嬢さんを蘇らせる為に、その娘の身体を借りなければなりません。
それにはその娘の魂を一時的に外に出さなければならないのです。その剣は
その為の物。身体を離れた魂は、後で私が本来在るべき所へ戻しますから、
あなたが心配する必要はありません」
「だが、そんな事をしたら彼女が死んでしまう」
「死ぬ訳ではありません、あなたのお嬢さんの魂が代わりに宿るのですから」
「二人が一つになるという話だったはずだ」
「その通り。魂が入れ代わればそうなります」
「そんな事は出来ない。他人を犠牲にするなど。それに彼女を心配し、
探す者がきっと」
「誰も居ませんよ。彼女はこの世では独りぼっち」
「…」
「知っているでしょう?この娘の事を。カメラのファインダー越しに見た彼女は
幸せそうでしたか?」
「判らない…」
「寂しそうだったはずです。それがあたなを引き付けたのだから」
「……」
「この世では誰も彼女を顧みたりはしません。代わりにあなたが自分の娘として
愛してあげるのです。結果として二人の娘を幸せにしてあげる事が出来ますよ」
「二人を幸せに…」
「そうです」
三枝は短剣に両手を添えて、まろんの胸元に向けました。
短剣を掲げる手に力が込められようとした、まさにその時。
ベッドを挾んだ向こう側に別の人影が現れました。
それは靄の様な希薄な物でしたが、三枝にはすぐに誰なのか判りました。
しかし、その影はすぐに消えてしまいます。辺りを見回して消えた影を
追い求める三枝。そんな彼の手をベッドから伸びた別の手がそっと掴みました。
そして突然、まろんが目を開きます。その目が三枝を見詰めていました。
「アキコ…アキコなんだね」
予想外の出来事にノインは後退り、呟きます。
「これは…一体…」
再びまろんの身体に近づこうとするノインを阻む様に緑色の光の障壁が
現れます。今、光はまろんと三枝を包んでおりノインは手をこまねいて
見ているだけ。結局、拡がりつつあった光の壁に追い立てられる様に
ノインはその場を離れるしかありませんでした。
まろんの身体を借りたアキコは両手を差し出して三枝に抱き付きました。
三枝もまた、同じようにアキコを抱きしめます。
「戻ってきたんだね。もう離さないよアキコ」
抱きしめた身体からは忘れられるはずもない温もりが三枝に伝わります。
それだけでは無く伝える事が出来なかった想いまでもが、言葉ではなく
直接三枝の中に満ちて行きました。やがて彼は少しだけ腕を緩めると
まろんを通してアキコの顔を見詰めました。アキコの顔には不安と困惑が
拡がっていました。三枝にはそれが何を意味するのか手に取る様に判ります。
言葉に出来なかった想い、何と言ったら良いのかを悩む顔がそこに。
「アキコ…もうそんな顔はお止め。お前の言いたい事はちゃんと伝わったよ」
アキコは三枝を見詰めて小さく頷きました。その顔からみるみる暗い影が
退いて行き、穏やかな表情へと変化していきました。
そして三枝が見ている前で、アキコの身体が二つに別れます。
ふわりと浮かび上がったアキコは純白のドレスを纏った姿で三枝の目の前に
浮かんでいました。アキコに向かって手を差し伸べる三枝。
白いアキコはその手を取り三枝をじっと見詰めて微笑みます。
「行ってしまうのだね」
三枝は精一杯の笑顔を作ったつもりでした。そんな彼を慰めるかの様にアキコの
手が頬を撫でました。伝う涙がアキコの手を濡らす事はありませんでしたが、
三枝にはアキコの手の感触がしっかりと伝わっています。
やがて意を決した三枝が大きく頷き、今度こそ心からの笑顔を向けると
アキコの姿は一瞬だけ強く光ると虚空に吸い込まれる様に消えて行きました。
三枝の目が薄暗い部屋に慣れて天井の造作をぼんやりと認識し始めた頃合に
なって漸く、まろんは目を覚ましました。顔に落ちる水滴の所為で、まろんは
急速に覚醒して行きます。
「…あ、三枝先生」
「済まなかった。もう少しで私は君を…」
三枝はまろんの手を取って身体を起こしてやり、彼女が自分で立てる事を
確かめながら、そっと手を離します。
「先生、夢が…私の中にアキコさんが流れて込んで来て…」
まろんは何故か自分も涙を流している自分に気が付きました。
そしてその涙は中々止まりませんでした。
「私はずっと娘を失って苦しんでいた。いいや、苦しんでいるという自分に
逃げ込んでいたのだ。だがそれは間違いだった。私のこの思いがアキコを苦しめて、
彼女をこの世界に縛っていたと知った。だからあの娘は旅立てなかった。
愚かな事だったのだ。私は彼女の未来を奪っていた。漸く判ったよ。
私はどうするべきだったのかという事が」
「先生…」
それは三枝の強がりだったのかも知れません。しかし、まろんは三枝の顔を見て、
安堵する自分を確かに感じていました。
*
別荘を見下ろす空の上にミストは居ました。そのミストを照らす様に
夕暮れ間近の空よりも明るい光が頭上から射している事に気付きます。
その光を見上げるミスト。光の中に見えたのはアキコの姿でした。
アキコはミストの前まで降りて来ました。
そして今まで一度も見せた事の無い笑顔でミストを抱きしめます。
黙って空の彼方を見詰めているミストの表情に変化はありません。
アキコは頬を寄せて、それからキスをしようとしましたがミストがふっと顔を
背けたので代わりにもう一度ミストを抱きしめてから、そっと離れました。
正面に浮かんでミストの事を真っ直に見詰めるアキコ。
ミストは黙って見返していましたが、やがてきっぱりと言い放ちます。
「満足したならさっさと去れ」
アキコはそれでも微笑みを崩さず、軽くお辞儀をするとゆっくりと夕闇が
拡がり始めた空の高みへと吸い込まれて行き、やがて消えていったのでした。
ミストは暫くの間、身動き一つせずに空を見上げていましたが、やがてぽつり
と呟きます。
「不愉快な娘」
そんなミストの背後に別の影が浮かび上がります。
「ミスト…」
「惜しかったな。着眼点は良かったが、機を逸していたという所か」
「アキコ嬢が現れなければ日下部まろんの心臓とジャンヌ様の魂は我が手の
内にあったはずです」
「さて、どうかな」
「何故彼女を自由にさせたのです?よりにもよって今」
ミストは振り向いて応えました。ノインの質問には答えずに。
「今度は私のやり方を見るがいい」
そう静かに告げるとミストの姿は掻き消えてしまいました。
(第157話・つづく)
# 何となく話が一段落してしまってますが、これでAパート終了。
## ちと淡泊な展開かな。
# その3は多分12月14日になります。(ちょっと自信無し ^^;;;;)
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■
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