神風・愛の劇場スレッド 第115話『受容(後編)』(4/15付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 15 Apr 2001 21:51:32 +0900
Organization: So-net
Lines: 447
Message-ID: <9bc5go$mlf$1@news01dj.so-net.ne.jp>
References: <9apll8$rr0$1@news01bd.so-net.ne.jp>
<9apotq$k04$1@news01dc.so-net.ne.jp>
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<9b69cu$ohm@infonex.infonex.co.jp>
<9bbolh$afo$1@news01bd.so-net.ne.jp>

石崎です。

これは神風怪盗ジャンヌのアニメに触発されて書き連ねられている
妄想小説のスレッドですので、お好きな方のみ以下をどうぞ。

長いのでフォロー記事&前編と後編の2分割記事にしました。
この記事は第115話後編です。
前編は、<9bbolh$afo$1@news01bd.so-net.ne.jp>よりどうぞ。



★神風・愛の劇場 第115話『受容(後編)』

●枇杷町 枇杷高校の近く

 高校から少し離れた場所にある県道沿いのバス停で、稚空はバスを待っていま
した。
 弥白の屋敷へと向かうバスは、駅や住宅地とは反対の方向でしたので、バス停
には稚空一人しかいませんでした。
 自然環境の豊かさをうたい文句の一つとしている枇杷高校でしたから、近くに
は住宅も疎らで、このバス停の周囲にも雑木林以外何もありませんでした。

 次のバスは20分後に到着の予定で、まだまだ待つ必要がありそうでした。
 暇なので、デイバッグの中に入れていたノートパソコンを開いて通信を試みま
すが、PHSが圏外なのに気付いて舌打ちします。
 その時、土を踏む音がして、稚空は画面から顔を上げました。

「君は…」
「ご機嫌よう。名古屋稚空さん」

 先程の眼鏡の少女がそこに立っていました。
 肩からは大きなバッグを下げています。

「君もこっちなのかい?」
「いつもは違うのですけど…」

 そこで、彼女は言葉を切りました。

「何か用事でも?」
「はい。名古屋さん、貴方に」
「俺に?」

 意外な反応に稚空は戸惑いました。

「聞きたい事があるんです」
「聞きたい事?」

 先程のおどおどした様子と、明らかに異なっているのに稚空は気付きました。

「率直に聞きます。名古屋さんと弥白様はどういう関係なのですか?」
「どういう関係って…」
「婚約は解消されたんですよね?」
「どうしてそれを」

 婚約の解消は、あまり大っぴらにはしていない出来事の筈でした。

「私達の間ではみんな知ってます」
「確かにその通りだ。だが、弥白とは幼なじみだし、今でも大切に思ってる」
「幼なじみ? それだけなんですか」
「この答では駄目かな」

 それだけ、と言い切るのは簡単ですが躊躇われました。

「女として、愛してらっしゃらないんですか?」
「それは…」

 少女の目は、誤魔化しを許してはいませんでした。
 しかし、もしも彼女に何か言えば、それがそのまま弥白に伝わると考えると、
迂闊な事は言えませんでした。
 それで稚空には珍しく、口ごもってしまいました。

「答えられないんですね」
「…」
「お願いがあります」
「お願い?」
「弥白様を愛する事が出来ないのなら、弥白様に近づかないで下さい」
「どうしてだ」
「名古屋さんがそんな態度だから、弥白様は苦しんでいるんです。だから」
「それは出来ない」
「名古屋さんには他に恋人がいるんですよね。それって二股じゃ無いんですか」
「俺には…」
「知ってますよ。桃栗学園の日下部さんの事」

 いつしか、彼女は稚空を睨み付けていていました。

「彼女の事は確かに愛してる。だがそれは…」
「そうですか。判りました」

 彼女は稚空の言葉を途中で遮って言いました。
 しかし、本当に判ってくれたようには見えませんでした。

 彼女は肩に下げていた鞄を下ろすと、その中をごそごそと漁り始めました。
 彼女は危険だ。
 稚空はそう思い始めていました。
 念のため何が起こっても大丈夫なように身構えた積もりでしたが、次に起きた
出来事は稚空の想像を超えていました。

 彼女は鞄の中から何かを取り出すと、いきなりそれを稚空に向けて突き出しま
した。

「うわっ」

 そう言いつつも、彼女が手にしていた物を叩き落とし、その腕を取るだけの余
裕が稚空にはありました。
 地面に彼女が手にしていた物──出刃包丁が落ち、それは回転しながら地面を
滑って行きました。

「女の子がこんな物振り回しちゃ…」
「弥白様の心を乱す貴方は、絶対に許さない!」

 そう言うなり、突き飛ばすように稚空から離れようとしました。
 それは華奢な見かけとは裏腹に意外な程強い力でした。
 女と侮り、力を入れていなかった稚空から離れ、一瞬で態勢を整えると彼女は
間髪入れずに回し蹴りを稚空の胴体目がけて放って来ました。

 それは、格闘技の心得がある上に悪魔との戦いの経験を積んだ稚空から見て、
余りに大袈裟で粗雑な動きでした。

「(水色か)」

 そう考える心のゆとりさえあったのですが、稚空の方は突き飛ばされた時に崩
したバランスを回復していませんでしたので、回避せずに両腕でガードする事し
か出来ませんでした。
 もっとも、この時点でも所詮は女の蹴り。ガード仕切れると侮っていたのは事
実です。

 だから、ガード毎稚空が吹き飛ばされた時の衝撃は大きいものでした。
 飛ばされた稚空は、小石が転がる固い地面に背中から打ち付けられ、そのまま
暫く滑って行きました。
 もっとも、密かに鍛えていた肉体は、それ程ダメージを受けませんでした。
 それよりは、まさか彼女がという精神的ダメージの方が大でした。

 稚空がそのダメージから立ち直る前に、彼女は次の行動を起こしていました。
 彼女は稚空が滑っている内に走り出し、稚空の前で信じられない跳躍──ジャ
ンヌならば当たり前の程度でしたが──を見せると、稚空のお腹の上に着地しま
した。

「ぐえっ」

 骨は折れずに済んだようですが、内蔵が圧迫され稚空は苦しみます。
 地面でのたうつ稚空に彼女は容赦なく蹴りを入れて転がしていきました。
 蹴りをまともに喰らいながら、何とか身体の向きを変え、稚空は腕でガードし
つつ身体を丸めてダメージの減少に努めました。
 それでも彼女は蹴りを続けていましたが、稚空が大してダメージを受けていな
い事に気付いたのか、足を持ち上げて稚空を今度は踏みつけにしようとしました。
 その為に攻撃が止まった一瞬。
 それを稚空は見逃しませんでした。
 稚空は自ら転がって彼女の攻撃範囲から逃れ、立ち上がりました。

「同じ攻撃を二度喰らうかよ」

 再び彼女が放ってきた回し蹴りを稚空はしゃがんで避けると同時に、彼女の軸
足を足払いで倒しました。
 したたかに地面に背中を打ち付け倒れた少女。
 起き上がる前に、稚空は馬乗りになって彼女を押さえつけました。

「勝負あり、だな」

 そう呟いて、おやという顔になりました。

「これはまたお約束な」

 彼女の眼鏡はどこかに飛んだのか、その素顔が露わとなっていました。
 意外にもなかなかの美形でした。
 彼女は頭でも打ったのか、気を失っているようでした。

「おい、大丈夫か」

 揺り動かすのは危険だと感じ、声だけで呼びかけます。

「う…ん…」

 反応から見て、それ程危険は無さそうでした。
 それを見て安心した稚空は、次に彼女の眼鏡を捜しました。
 念のため、彼女の上に乗ったままで辺りを見回しました。
 眼鏡は、すぐに見つかりました。距離にして2メートルといった所でしょうか。
 ただし、レンズは割れているようでした。

「ありゃりゃ」

 弁償しないといけないかな。
 そう思った時、眼鏡に変化が起きました。
 眼鏡の中から、青い靄のような物が出て来たのです。
 やがてその靄は、稚空が良く知る悪魔へと形を変えて行きました。

「逃がすかよ」

 稚空は、少女から右手を離すと、意識を集中します。
 その手の中に光球が出現し、その光球はピンの形へと収束して行きます。
 そして。

「チェックメイト」

 叫ぶことなく、稚空はピンを掴むと悪魔に向かって投げました。
 断末魔の叫び声を上げ、悪魔は封印されました。
 残された駒がただのポーンであった所を見ると雑魚だと判断しました。

「こんな所に悪魔が?」

 フィンに騙されてジャンヌが集めた「人間の美しい心」により魔王の力が強ま
った今、今更「美しい心」を悪魔が集めているとは考え難い事でした。
 ならば、何か目的がある筈。
 しかし稚空のその思考は、下からの悲鳴によって中断されました。

「キャー!」
「おい、大丈夫か」
「あ、あなたは誰ですか?」
「俺は…」
「誰か、誰か助けて! この人が私を…」
「違う、違うんだ」
「変な所触らないで下さい。変態!」
「だから誤解だって…」
「嫌! 私には決めた人が…」

 稚空は漸く、自分が彼女の上に乗っている事を思い出し、彼女から離れました。
 重石が取れた少女は立ち上がると、バスのベンチの近くまで逃げて行きました。
 そうして、置いてあった鞄の中をごそごそと探ると、携帯電話を取り出しまし
た。

「おい!」
「これ以上私に近づいたら、警察呼びます!」
「だから誤解だって」
「今ならまだ未遂ですから、見逃してあげます」
「く…」

 稚空は止むなく荷物を掴み、戦略的後退を開始しました。
 彼女の反応から見て、彼女は稚空の事を認識していないようだったからです。
 恐らく眼鏡が無いと何も見えないのでしょう。
 逆にその事は、彼女が悪魔から解放された事も意味しています。
 それ故、この場を立ち去っても後で問題にはならない筈でした。

「(くそ…どうして俺が痴漢扱いされるんだ…)」

 痛む身体で雑木林の中を走りながら、そう稚空は心の中で毒づいていました。


●枇杷町 山茶花本邸 弥白の部屋

 夕食の支度がすっかり出来上がっても、稚空は未だに帰っては来ませんでした。
 ダイニングテーブルで座って待つ弥白の横で時計の針は容赦なく進んで行きま
した。
 電話をかけてみましたが、留守電になっていて捕まりませんでした。

 まさか、あの女の元へ戻ったのでは。
 そう考え、すぐに打ち消しました。
 稚空の着替えは置いたままでしたから、必ず帰って来る筈でした。

 弥白は椅子から立ち上がりました。
 リビングを抜けて機械室を併設した書斎を通り、寝室に入りました。
 天蓋付きのベットの横の小机に幾つか置いてある写真。
 その一つを弥白は手にしました。

 それは、数年前に山茶花家の山荘に稚空と出かけた時の写真。
 山荘に併設されているプールで、二人で撮ったものでした。

「(帰りたい…)」

 その写真を弥白は胸にぎゅっと押し当てました。
 そのまま、昨日のように妄想の世界へと浸ろうとした弥白でしたが、呼び止め
る声がありました。

「帰れますわ」
「また、あなたですのね」

 寝室に置いてある鏡に、昨日と同じ少し前の弥白の姿が映し出されていました。
 違うのは姿だけでは無く、着ている服も違いました。
 涼しげな白いワンピース。
 その服に、弥白は見覚えがありました。
 これは、あの時の…。

「大丈夫。彼はきっと戻って来ます」
「それは心配していませんわ」
「決心はつきましたか?」
「ええ」
「それは良かった。でも、今はまだ時期ではありませんわ」
「どうしてですの?」
「焦っては駄目。今晩は彼を労ってあげなさい」
「何かあったんですの?」
「これを使うと良いですわ」
「え?」

 気がつくと、鏡には現在の弥白が映し出されていました。
 そして鏡の前に、何かの小箱が置いてありました。
 それを手に取って、顔の前に近づけました。

「(傷薬?)」

 それは、山茶花製薬が販売している傷薬でした。
 製造年月日を確かめると、今年の製造。
 中を開けてみましたが、市販のものと変わらないようでした。

 こんな物をどうしてプレゼントに?
 まさか。

 その時、微かにドアが開く音が聞こえました。
 この部屋の「玄関」に当たる方向です。
 慌てて、「玄関」に向けて走って行きました。

「ただ今」
「どうしたんですの!? その格好…」

 弥白が驚いたのも無理はありません。
 それ程、稚空の格好はぼろぼろだったのでした。

「遅くなってすまん」
「そんな事どうでも良いですわ。それより何があったんですの!?」
「何でも無い。ちょっと、喧嘩に巻き込まれてな」
「どこかお怪我は?」
「大丈夫…大した事は…痛てて…」
「とにかくこちらへ」

 稚空をリビングに連れて行きました。
 明るいリビングに行くと、稚空の怪我の様子が分かりました。
 顔や手に擦り傷を作り、服も所々破けているようです。
 葉っぱや枝がついているのは、林の中でも駆け抜けて来たのでしょうか。

 それを見て、弥白は事情を聞くのを止めました。
 今までの稚空の仕事をこっそり後をつけて調べ上げた弥白です。
 きっと、今回もその所為に違いありませんでした。

「服、脱いで下さい」
「え?」
「その下も、怪我しているのでは」
「良いよ、別に…」
「傷口が化膿したら大変ですわ」

 弥白は、嫌がる稚空の服を強引に脱がそうとして、嫌がる稚空と揉み合ってい
る内に、ソファに稚空を押し倒す形になってしまいました。

「弥白?」

 目と目が、合ってしまいました。
 映画や何かでありそうな展開。
 今なら、何をしても許される。そんな気がしました。
 それでも、やはり意思を確認せずにはいられませんでした。

「私のお願い、聞いて頂けますか?」

 稚空が一瞬戸惑った様子を見せましたが、やがて小さく肯きました。
 弥白は、耳元で小さく何事かを囁きました。
 ややあって、稚空もそれに肯きました。

「嬉しい…」

 それは、映画などで見る濃厚なものとは異なり、ただ、そっと軽く触れるだけ。
 でも今の弥白にはそれで十分だったのです。
 稚空が今の自分を受け入れてくれた。
 その事実を確認出来たのですから。


●オルレアン ミストの隠れ家

 その晩もミストは目的を達することなく空しく隠れ家へと引き揚げて来ました。

「ノインめ」

 そうせざるを得なくなった原因の名を口にします。

「全く人間と来たら」

 作戦に凝る余り、目的を見失いがちだ。
 そう、心の中で毒づきました。

「でもまぁ良いわ。ご馳走は空腹の方が美味いでしょうから」

 ふと、横にアキコが居る事に気付きました。

「おいで、アキコ」

 そう言うと、アキコの身体がぶるり、と震えた気がしました。

「来なさい」

 やや怒りの入った声で言うと、アキコはミストの元に来て座りました。

「よしよし、良い子ね…。可愛がってあげる」

 そう言うと、ミストも空中から降りて来てアキコの横のソファに座るのでした。


●桃栗町郊外 聖の家

「駒が暴走するとは予定外でしたが、まぁ良いでしょう」
「どういう事でぃすか?」

 紫界堂家の遅い夕食の食卓。
 聖は、自分の「駒」の後始末をしてから戻って来たので、帰りが遅くなったの
でした。

「シルクは知らなくて良い事ですよ」
「僕に教えてくれないなんて酷いです」

 素っ気ない聖の返事に、シルクは膨れました。

「そんな事より、そちらの方は仲良くやってますか?」
「はぁい。今日のメニューも、教えて貰ったものでぃす」
「それは結構」
「それで、教えて欲しい事があるんでぃすけど」
「ほう?」
「前に、誰かにツグミさんの事について聞かれた時に答えろと言われた事でぃす
が」

 何をシルクに教えたのかを思い出すのに、少し時間がかかりました。

「クイーンにそれを答えたのでぃすが」
「それで?」
「殺すと言われました」

 それを聞いて、聖は笑い始めました。
 その場の光景が、目に浮かぶようでした。

「何がおかしいんでぃすか?」
「ひょっとして、クイーンの顔は赤く無かったですか?」
「暗くて良く判りませんでぃした」
「そうですか」

 暫く、聖は何かを思案しているようでした。

「仕掛けてみますか」
「何をでぃすか?」
「いえ…。シルクにも、もう一働きして貰わなくてはいけませんね」
「はぁい」

 ニコニコと答えるシルクを見て、つくづく子供はお気楽で良いと思う聖でした。
 食事を終えた聖は、後片付けをシルクに任せ、また夜の街へと繰り出します。

「そうですね。クイーンには一応話しておきますか…」

 そう、車の中で呟く聖でした。

(第115話 後編 完)

 この後で、第114話の話へと突入する聖でした(笑)。
 弥白様パート2/8(火)終了。

#丸々一日遅れですね。

予告編(気分次第で変更あり)

「これって…あたし?」

#次々回とついていないのは、何話後に出て来るのか不明な為です(爆)

 では、また。

--
Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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