神風・愛の劇場スレッド 第113話『迷い』(4/8付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 08 Apr 2001 22:26:14 +0900
Organization: So-net
Lines: 324
Message-ID: <9apotq$k04$1@news01dc.so-net.ne.jp>
References: <9a0t1c$ekm@infonex.infonex.co.jp>
<9a679t$3i9$2@news01cb.so-net.ne.jp>
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<9ajs7p$kkp@infonex.infonex.co.jp>
<9apll8$rr0$1@news01bd.so-net.ne.jp>

石崎です。

この記事は神風怪盗ジャンヌのアニメ版の設定を基にした妄想小説です。
そういう代物に拒否反応の無い方のみ、以下をどうぞ

長さの関係で感想(妄想付き)と本編に分離しました。
こちらは第113話本編です。
感想等はこちらからどうぞ。
<9apll8$rr0$1@news01bd.so-net.ne.jp>



★神風・愛の劇場 第113話『迷い』

●…

 朝、起き上がる直前。
 夢と現実の狭間に在るこの時間、稚空は良く妄想に耽ります。
 それは、年頃の男の子であれば良く妄想するものでした。
 稚空のそれに登場する人物は、この一年近くはただ一人の女性でしたが、今朝
見たのは違う女性。
 彼女は、以前は稚空の妄想に良く登場していましたが、最近は意識してその対
象にしないようにしていました。
 自分の一番愛する者とはまた別の意味で大切に、また愛しく感じていたので、
その対象にする事が罪に思えたからです。

 しかし、今朝は違いました。
 稚空が見たのは自分の心の奥深く封印していた記憶。
 困惑している様な彼女の表情。
 まだ花開いていない蕾。それを摘んでしまおうとした時の思い出。

 その時以来、それまでも一番大切な存在であった彼女は、稚空にとって絶対侵
してはならない神聖不可侵な存在となったのでした。


●山茶花本邸 弥白の部屋

 山茶花本邸の3階フロアの大半を占める弥白の『部屋』。
 その中に設えた客用のベットの中で、稚空は目を覚ましました。

「弥白…」

 つい先程、妄想した彼女の名を口にします。

「最低だな、俺は…」

 妄想の内容を思い出し、稚空は呟きます。

 あの日以来、つかず離れずの微妙な関係を続けて来た二人。
 稚空の前に、今一番愛しい彼女が現れなければ、いずれは弥白と結ばれる事も
あったかもしれません。
 しかし、全てはあの出会いから変わってしまったのでした。

 その時から、二人の間に吹いたすきま風。
 彼女は、それに不満そうでしたが、さりとて強く止めもしなかったので、素直
に諦めてくれたのだと思っていました。
 しかし、それは稚空の大きな勘違いだったのです。

 ここ一ヶ月の間に立て続けに起こった事件。
 それは、稚空とその周辺の人々の人間関係を再び大きく変えようとしていまし
た。
 確かに、悪魔や人外の者の策謀はありました。
 しかし、人の心の弱みにつけ込む悪魔と言えども、人の心そのものを変えるこ
とは出来ないことに、悪魔との戦いの中で稚空も気付いていました。

 悪魔に魅了され、都を傷つけた自分。
 自分を慕う心を利用され、都やその他の人々を傷つけた弥白。
 自分の行い故に傷つき、同性であるツグミの所に自分の居場所を求めたらしい
まろん。

 全ての出来事の根元は、自分にあるのだと稚空は思います。
 二股をかける程身勝手でも、それによって誰かが傷つく事にも耐えられない稚
空でしたから、これまでも自分が誰を一番愛しているのか、機会ある毎に伝えて
きた積もりです。
 だがしかし、その彼女が自分のことを何も感じていなかったとすれば。

「まろん…」

 稚空は「弥白新聞」に書かれていた記事を思い出しました。
 そして、悪魔ミストに見せられた映像も。
 まろんは自分を裏切っているのだろうか。
 信じたくはありませんでしたが、恐らくそれは真実でした。

 一方で、稚空の事だけを思い続てくれている彼女。
 彼女の迂遠なアプローチを敢えて気付かない振りをしてきた稚空ですが、それ
も限界に近付いている事には当然気が付いていました。

 彼女に正面から求められた時、困ったことになりそうでした。
 今の弥白の精神状態から考えれば、迂闊に拒めそうも無かったからです。

 自分の答えは決まっているはずでした。
 しかし、弥白が自分を見つめる目を見る度にその気持ちはぐらつくのです。
 まろんには、自分以外にも彼女を守る人が大勢いる。
 だが、弥白には…。

 ここに来てから一人でいる時はいつもそうであったように、悶々としていた稚
空でしたが、枕元の時計を見て慌てて跳ね起きました。
 元々早起きの稚空には目覚ましをかける習慣自体ありませんでした。
 普段であればこの起床時間でも良かったのですが、今日は事情が違っているの
を忘れていました。



 パジャマ姿のままリビングにでた稚空。
 しかし、弥白の姿はありませんでした。
 まだ寝ているのかと思い、ダイニングに入りました。
 すると、テーブルの上に布巾をかけられた朝食と、書き置きが一枚。



稚空様

 新体操の大会も近いので、今日から学校に行きます。
 朝練があるので、起こさずに行きます。
 布巾の下に朝食を用意してありますので、温めて食べて下さい。
 昼食は、稚空さんの分を用意しておくようにお願いしてあります。

 黙って出て行って心配させたお詫びに、夕食は私が腕を奮います。
 期待して待っていて下さいね。

                            弥白



「どうやら、体の方は元に戻ったらしいが…」

 精神の方は、まだ当分駄目なんだろうな。
 書き置きを一読して稚空はそう感じ、ため息をつきました。
 弥白の書き置きは、稚空で無くても「今日も側にいて下さい」と書いてあるよ
うにしか読めなかったからです。


●枇杷町 枇杷高校

 結局一日休んだだけで学校に登校することにしました。
 昨日一日静養したお陰で、体調が元に戻った事もありますが、新体操の地区大
会が迫っているのです。一日たりとも疎かには出来ませんでした。
 本当は、もう二・三日、体調を崩した振りをして稚空に甘えていたい。
 ですが、そんな嘘は弥白にはつけませんでした。
 さりとて、稚空に甘えていたい自分の気持ちにも嘘はつけなかったので、少し
狡い手を使いました。
 多分、今晩も稚空は側にいてくれる筈でした。
 こうする事で、稚空を束縛しているのではと考えないでもありません。
 しかし、今の弥白は誰かに側にいて欲しかったのです。
 自分がただ甘える事の出来る誰かが。



 学校を休んだのは一日だけですが、日曜日の練習をサボっていたので、練習に
参加するのは二日ぶりでした。
 更衣室に入った時、先輩達の内何人かが向ける視線が痛かったのですが、それ
は代表に選ばれていながら練習に参加しなかった自分が悪いので、仕方が無い事
でした。
 それよりも痛かったのは、それを面と向かって注意する者が誰もいなかった事
です。
 どうしてなのかは判っていました。

 だから尚更、皆に嫌われるような事はしないで来た積もりだったのですが、一
年生ながら代表に選ばれると、どうしても色々な噂が立ってしまうのでした。
 もちろん、弥白が代表に選ばれているのは普段の鍛錬の賜なのですが、それを
認めたく無い者は決して少なくありませんでした。

 「枇杷高校の女王」と事情を知らない者からは見られる弥白でしたが、その実
状はこのようなものだったのです。



 練習の最中は、他の事は敢えて何も考えないようにしていました。
 土曜日は別にして、本来弥白の集中力は他の部員の追随を許しません。
 流石に演技の内容に関してだけは、意地悪な先輩と言えども文句のつけようが
ありませんでした。
 最も、演技中に何か言っていたとしても、今の弥白には何も聞こえなかったで
しょうが。
 こうして朝練は無事に終了しました。

 午前中の授業も別にどうという事は無く過ぎていきます。
 特に聞き耳を立てていた訳でもありませんが、ネットワーク上の例の事件の噂
が聞こえて来ることもありませんでした。

 昼休みに、別のクラスの友人に食事に誘われました。
 枇杷高校の学生食堂は、この学校の全ての施設がそうであるように、寄付金に
よって立派なものが建設されており、その調度はちょっとしたレストラン並。

 その奥まった席に行くと、先に席についていた別の女生徒が手をあげました。
 学園内でも余り知られていない事でしたが、彼女達は弥白のネットワーク上で
の友人。
 女性ながら、パソコン、そしてネットワークの世界にどっぷりとはまってしまっ
た好き者の集団なのでした。
 共通の趣味でつながれた者同士ですので、年齢の上下や家柄など、彼女達の間
では何の意味も持たないのでした。
 だから、弥白はこのグループの友人達がとても好きでした。

 彼女達と昼食を共にしながら、皆に事件の件で励まされました。
 彼女達の言葉は非常に有り難くもありましたが、同時に辛くもあります。

 彼女達はそもそも紙の「弥白新聞」が何であるのか読んだことはありませんで
したし、弥白の裏の顔も知りません。

 だから弥白は自嘲気味に心の中で呟くのです。
 もしも私の本性を知った時、それでも彼女達は自分を支えてくれるのだろうか
と。


●枇杷町

 学校に行こうか迷った稚空でしたが、今から行ってもどうせ遅刻と、結局欠席
の連絡を入れました。
 連絡してから、弥白が作ったらしい朝食を食べました。
 メニューは昨日に引き続き今日も和食。
 弥白は朝食は常に洋食の筈でしたから、これは稚空の為の献立なのでした。

 休むと決めたのは良いのですが、する事がありませんでした。
 一旦自分の家に帰り、アクセスが帰って来ていないか確かめる事も考えました
が、日中に高校生が街をうろついているのも何だと思い、それは止めました。
 仕方がないので、着替えと一緒に持参したノートパソコンを取り出し、カード
型PHSを用いてネットワークに接続します。

 稚空が最初に行ったのはメールチェック。
 メールの一覧を見て、稚空は「おや」という顔になります。
 それは、日付からすると昨晩に送信されたメールでした。



件 名:テスト
差出人:東大寺都 <tmiyako@freemail…>

 兄にパソコンを貰ってインターネットに接続出来るようにして貰いました。
 フリーメールのアドレスを取ったので、テストメールを送ります。

追伸:
 留守の上にずる休みしてるみたいだけど、一体どこほっつき歩いてんのよ。
 まさか、他の女の所じゃないでしょうね。
 人の行動に干渉する気は無いけど、まろんを泣かせたら承知しないよ。
 稚空の事だから心配はしてないけど。



「あちゃー」

 思わずらしくない台詞を吐いてしまいました。
 昨日の夕方にまろんとばったり鉢合わせをしていたので、恐らく話を聞いて
メールに書いて来たのでしょう。
 そういえば自分のメールアドレスは、イカロス捜索の件の時に、都にも教えて
ありました。

 更には昨日の深夜のまろんからの電話。
 後ろから声をかけたのが弥白だとまろんが気付いたかどうかは判りませんが、
電話を向こうから切られた上に、何度かけ直して出なかった事から、きっと怒っ
ているだろうとは、容易に想像できました。

「俺がここにいるの、バレバレなんだろうな」

 もしも弥白が無事立ち直ったとして、まろんとの関係を修復するのには大分時
間がかかりそうだと覚悟する必要がありそうでした。

 メールチェックを終えた後は、ネットニュースと掲示板を巡回しました。
 若干危惧しながら記事を読み進めた稚空ですが、どうやら掲示板における「弥
白新聞」の件の誹謗中傷記事は、終息の方向に向かいつつあるように見えました。
 元が真面目なスレッドだっただけに、自浄作用が働いたのだろうと、安堵しま
す。
 しかし、油断は禁物でした。
 この手の話題は何かの拍子に復活するものです。
 これからも掲示板には注意する必要があるなと、心の中で結論付けました。

 そうしている内に、昼食の時間となり、運ばれてきた昼食を一人で黙々と食べ
ました。
 昼食を食べ終わり、歯を磨いてからリビングの真ん中で稚空は伸びをします。

 懸念は沢山ありましたが、兎に角今は一つの事に集中すべきです。

「帰りは、迎えに行ってやらないとな」


●枇杷高校

 午後の授業の終了後。
 弥白は誰よりも早く新体操部の部室へと入りました。
 代表に選ばれているとはいえ、下級生である事には違いありません。
 だから、率先して準備をする必要がありました。
 ましてや、色眼鏡で見られがちな自分は。

「急ぎませんと」

 自分のロッカーを開けました。
 スポーツバックからレオタードを取り出し、着替える前にロッカーの扉の裏に
ついている鏡を見ようとして、その場で凍り付きました。

「どうして…こんな…」

 弥白の目の前に在るのは弥白自身。
 しかし、本来であれば今の弥白の姿を映し出すべきその場所には、かつて弥白
が自分と愛する者だけの為に撮った、自分自身の最も美しい姿が在るのでした。


●オルレアン ミストの隠れ家

「そろそろあたしの出番ね」

 キャンディーでどこかの様子を見ていたミストは、そう呟くとそれを口の中に
放り込もうとして、少し考えてからキャンディーボックスへと戻しました。

「大丈夫。今回もきっと上手く行く。その為に『練習』したのだから」

 そう呟いて舌なめずり。
 アキコがそんなミストの様子をいつもの無表情で見ていたのですが、ミストは
意に介する様子も無いのでした。

(第113話:完)

 何だか波乱の予感を残したまま、今回はここまで(鬼)。

#丁度この頃、まろんちゃんはツグミさんをどうやって助けるか考えてるんです
#よね。

●次々回予告

「私のお願い、聞いて下さいますか?」


 では、また。


--
Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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