神風・愛の劇場スレッド 夏のスペシャル2 お蔵入り原稿 書いた人:携帯@さん
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★神風・愛の劇場 夏のスペシャル版2

 それは、昔々の物語。
 「帝国」の広大な領土の一部を成す、とある辺境の小王国の首都に続く街道を一人の騎士とその従者が旅路を急いでおりました。

「遅れておりますわよ、神楽。このままでは街に着く前に日が暮れてしまいますわ」
「姫様。神楽は荷物を背負った上、馬にも乗っておりません。これ以上の早さで進むのは無理です」
「男の癖にだらしないですわよ。それに神楽、『姫様』はお止しなさいと何度言えば判るんですの?」
「は、はい。申し訳ありまぜん、弥白様」

 馬上の騎士は、男装こそしているものの、うら若き女性でした。
 その衣装は埃にまみれてはおりましたが、かなり高級な代物。見る人が見れば、このような辺境を歩くには相応しくない人物だと判ります。
 だから、自分の素性を隠そうとしているのはいささか滑稽ではありましたが、それが決まりなのでした。

 そして、女騎士に従う従者。
 歳は二十歳を少し過ぎたところでしょうか。
 長身の身体に大きな荷物を背負いながらも、しっかりとした足取りで馬に乗った弥白の後をついて来ておりました。
 衣装は従者らしい質素な者でしたが、腰には剣を差しています。
 従者が帯刀しているのは、その当時ではあまりありませんでしたので、それも見る人が見れば、異様な事でした。

 「姫様」こと弥白に急かされ、神楽は少しだけ足を早めます。
 その甲斐あってか、二人は日が暮れる直前に、その日の目的地である王国の首都である港町に辿り着きました。

 二人は、その街で最も高い宿に腰を落ち着け、一階にある酒場兼食堂で食事を取る事になりました。

「全く、この街一番の宿が聞いて呆れますわ!」

 店内の片隅のテーブルで、弥白はワイングラスを音を立てて置きました。

「どうなされたのですか、弥白様」
「この宿屋、ベットは固いし、水も出ないですのよ。最近は交易で豊かだって言うから、少しは期待していたのに」
「お城のベットが柔らかすぎるのですよ。それと、この王国は出来てまだ日が浅く、水道を整備するまで手が回らないのです」
「つまり、まだまだ豊かさには程遠いって訳ですの?」
「はい。だから私がこうして弥白様にお仕えしている訳で」
「そうでしたわね」

 そう言うと、弥白は落ち着きを取り戻してワイングラスを手に取り一口飲みました。

「弥白様。明日は領主様に謁見の予定です。今日は……」
「いよいよですわね、神楽」
「はい。領主様も楽しみになさっておられる筈ですよ」

 二人が立ち上がろうとしたその時です。
 入り口の扉が勢い良く開かれました。

「なんだなんだ。しけた酒場だな! この街一番が聞いて呆れるぜ!」

 リーダー格らしい隻眼の男を筆頭に、逞しい体付きの男達、その数約十名がどやどやと酒場兼食堂の中に入って来ました。

「親父! 酒だ! 酒持って来い!」

 店内中央の大テーブルに既に座っていた客を押しのけ自分達が占拠すると、隻眼の男が叫びます。

「お、お客様。他のお客様のご迷惑です。お席でしたらこちらに…」
「何だと! それが客に対する口の聞き方か!? 金ならあるぞ、文句あるか!」

 隻眼の男はそう言うと袋をテーブルにドンと置き、中身をテーブルにぶちまけました。
 それは、全てが混じりけ無しの金貨なのでした。

「お前達! 今日は俺の奢りだ!! 心ゆくまで飲んでくれ!」
「おう!」
「流石だぜキャプテン!」

 主人は金貨の山を一掴み取ると、そそくさと酒を用意に走りました。

「『帝国』銀行の金貨をあんなに……。彼らは何者ですの?」
「恐らくは、海の男達……それも私掠船の船長と船員達と言った所でしょう」
「私掠船?」
「平たく言うと海賊です」
「まぁ。どうしてここの警備隊は海賊を放置しているのかしら?」
「私掠船は、皇帝の許可証を持っていますから」
「何ですの?」
「先日、『王国』……いえ、『共和国』との戦争がまた始まり、私掠船の許可証が再び発行されるようになったそうです」
「戦争と海賊と何の関係が……」
「敵国の貿易船を襲って積み荷と船を奪う。敵国の経済に打撃を与えて自らは潤う。立派な戦争の一形態です」
「汚いやり方ですのね」
「『共和国』もやっている事です」
「でも……私はやりたくありませんわ」

 弥白はそう言うと黙りました。
 神楽はやれやれと言った表情となりました。

「おい、姉ちゃん、こっち来て一緒に飲もうぜ!」
「や、止めて下さい!」
「お客さん、家の店の者に……」

 ここに来るまでに既に酒を飲んでいたのか、船員達は店の女店員に絡んでいます。

「ほらぁ、この金貨をやるから、こっち来て座れよ。ほら!」
「嫌ぁ!」
「お客さん、困ります」
「親父はすっこんでろ!」

 船員の一人が主人をぶん殴ると、主人はテーブルにぶつかってのびてしまいました。
 そして、女店員は無理矢理船員達のテーブルに引き上げられると、船員達は寄ってたかってその店員の服を引き剥がしにかかりました。

「嫌ぁぁぁ!」

 店員の悲鳴が店内に響き渡りましたが、他の客や店員は、恐れて他人の振りをするばかり。

「神楽。止めないで下さいまし」
「どうせ、止めても無駄なのでしょう」
「良く判ってらっしゃいますわ。それでこそ我が従者」
「私も助太刀を」
「良くってよ。では、行きますわよ!」



「警備隊の者よ! ……あれ?」

 この街に駐屯する「帝国」警備隊が酒場に踏み込んできた時、視界に入ってきたものは滅茶苦茶に破壊された店内と、壊れたテーブルや椅子の間で気絶している荒くれ男達でした。
 そして、店内の片隅に立っている二人の人物。

「警備隊の皆さんかしら」
「そうよ。私はこの街の警備隊長の東大寺都。こっちは副官の委員長…じゃなくて水無月」

 警備隊長は弥白と対して変わらない歳と思われる女性でした。
 そしてその副官も同い年位。
 帝国警備隊の指揮官としては、異様に若く感じられます。

「まぁ、その若さで、しかも女の警備隊長なんて珍しい」
「あんただって女だてらに腰に剣を差しているじゃない」
「そうでしたわね。それより、早くその海賊達を連れてって下さいます? 酔って店員に暴行を加えた挙げ句、店内で大乱闘した狼藉者ですわ」
「ええ。それと、貴方達も一緒に警備隊本部まで来て貰うわよ」
「どうしてこの私が……」
「警備隊にあった通報は、酒場で喧嘩というものだった。あんたもその当事者なんだから、当然事情聴取を受けて貰うわよ。大体、この街の中で帯刀するのはこの街の条例に反しているわ。その件の取り調べもあるわね」
「あなた、この私を何者だと心得て……」
「へー皇族だとでも言う積もりかしら? こんな辺境で?」
「私は……」
「弥白様!」
「モゴ……」

 弥白が喋り出す前に、神楽が口を封じました。

「すみません。警備隊長殿。素直に取り調べに応じると、我が主人も申しております」
「あっそ」

 こうして、弥白と神楽は、宿屋のベットより更に固い、留置場の床で一夜を明かす事となりました。



 翌朝。何故か事情聴取をされる事無く二人は釈放されました。

「何だか判らないけど、領主様の命令があったからね。あんた達、何者なの?」
「ただの旅の騎士ですわ。東大寺……都さん」

「(領主様の命令だから仕方ないけど、彼女達の存在は危険だわ。この街の平和を乱しかねない。この街にいる間はちゃんと監視しないと……)」
「(どうして悪者退治をしただけなのに、どうして悪者達と一緒に扱われなければいけないんですの? この石頭!)」

 一見にこやかに話す二人の間に、火花が飛び散っているのに気付いたのは、その場では神楽だけなのでした。



「神楽く〜ん! 久しぶりだね〜〜!」

 桃栗国王が住む桃栗城の謁見の間。
 そこで弥白と神楽は、国王の海生と謁見しました。

「国王陛下、私の事は後にして、こちらの……」
「そうだね」

 真っ先に神楽に抱きつこうとした海生国王を神楽は制します。

「お久しぶりです陛下。山茶花大公国第一皇女、山茶花弥白でございます」

 弥白は膝を付いて国王に挨拶をします。

「話は父上から聞いている。武者修行だって? 大変だねぇ」
「当家のしきたりですので仕方ありませんわ。それに、結構楽しいですわ。宮廷と違って自由で」
「大変だねぇ、神楽君も」
「はぁ……」
「それで、稚空さんは元気ですの?」

 すると、それまでは笑っていた海生国王の顔が俄にかき曇りました。

「私の稚空さんに何かあったんですの?」
「弥白姫。君の許嫁は、この城にはいない」
「どういう事です陛下?」
「実は、王子は盗賊団に捕らえられて人質にされてしまったんだ」
「何ですって!? この街の警備隊は何をやってるんですの?」

 弥白は、都の事を思い浮かべながら言いました。

「弥白姫、この街の警備隊に捕らえられてたんだよね。気付いたことは無いか?」
「そう言えば警備隊長が女でしたわね」
「他には?」
「警備隊は隊長を初めとして、私と同じ位の歳の方ばかり……まさか!?」
「そう。この国にはまともな兵力は残ってはいない。留守部隊ばかりなのさ」
「戦争…ですね」
「戦争? 共和国との?」
「そう。この国に駐屯の兵力の大半は共和国との戦闘に投入された。しかも、私掠船が皇帝に許可されたお陰で、以前は海賊だった連中が、町中を堂々と闊歩している状態だ」
「それにしても、たかが盗賊如きに警備隊が…それに、王宮警備隊は手つかずの筈」
「強いんだよ。その盗賊」
「強い? 盗賊が?」
「ただの盗賊じゃない。盗賊団の頭領は魔女だという。その証拠に、王子が誘拐される前にも何度も討伐隊が派遣されたが、盗賊団が根城にしているというオルレアンの砦に辿り着けた者すらいなかった」

 海生国王はそう言うとため息をつきました。
 弥白は暫く考えて、そしてきっぱりと言いました。

「陛下。この山茶花弥白が、稚空様を盗賊団の手から取り戻して参ります」
「馬鹿な。危険すぎる。もし君に万一の事があったら、君の父上に申し訳が……」
「稚空様のいない世界など、生きていても仕方がありませんわ。それで、その盗賊団の頭領の名前は何と仰るんですの?」
「まろん……。世間ではオルレアンの魔女と呼んでいるよ」



 渋る国王を説き伏せて、弥白と神楽は、盗賊団が巣くうというオルレアンの砦に向かいました。

「ここから先は通さないわよ」

 二人の前に、完全武装の警備隊の兵士達が立ちふさがりました。
 指揮官はもちろん都です。

「あら? 通さないとはどういう事かしら?」
「あんた達をオルレアンの砦には行かせないって事よ」
「陛下に命じられたのかしら?」

 てっきり、国王が警備隊に命じて弥白達を止めようとしたのかと思いました。

「違うわ。これは私独自の判断」
「あ、そう。ならここを通しなさい。私は、国王陛下直々に許可を頂いていましてよ」

 弥白は、言葉を選んで答えます。
 ある懸念があったからです。
 そしてその懸念は、やはり正しいものでした。

「あんた達が行って、王子の身に万が一の事があったらどうするのよ」

 都は弥白に近寄ると、耳元で囁きました。
 二人は道を離れて、ヒソヒソと密談します。

「やはり、秘密でしたのね」
「当たり前じゃない。こんな事が国民の間に知れたら、王家の面目は丸潰れ、支持も失墜するわ」
「当然でしょうね」
「国民の安全を保障することが王家が国民にしてやれる唯一最大の事なのだから、それに不審を抱かせるような事はあってはならない」
「でも、このままで良いんですの? 相手は盗賊団なのですよ。人質と言ってもいつ殺されるか判りませんわよ」
「それなら大丈夫。盗賊まろんは人を殺めたりはしない」

 都は何故かきっぱりと断言しました。

「あら、盗賊風情を随分信頼なさっているのですね」
「あいつらとは色々因縁があってね、手口は判ってる」
「そう…なら、稚空さんを救いに行っても、滅多な事では殺されませんわね」
「でも……」
「安心なさい。稚空さんは殺させたりなどしない。だって、稚空さんが死んだとしたら、一番悲しい思いをするのは私ですもの」
「え!?」
「とにかく、陛下の許可は得ているのですから、ここは通して貰いますわよ」

 弥白は道に戻ると、神楽と一緒に兵士達をかき分けて先に進もうとします。
 兵士達は二人を止めようとしますが、都が制止したので渋々道を開けました。

「良いんですか隊長。二人を行かせて」
「水無月、お前はみんなを率いて本部に戻りなさい」
「隊長は?」
「あたしはあの二人の後をつけるわ」



 弥白達は、オルレアンの砦に向かいました。
 砦までは一日では辿り着けず、その日は野宿となりました。

「いつまでこそこそと後をつけているんですの?」

 夕食を食べた後、弥白は木陰に向かって言いました。

「ばれてたか……」
「その格好ですもの」

 木陰からは、警備隊長の都が現れました。
 メタルアーマーの完全装備で、レザーアーマーだけの弥白達の後をつけて来たとすれば、かなりの体力でした。もっとも、かなり疲れている表情ではありましたが。

 弥白は、焚き火の側に都を招くと、まず鎧を外すよう薦めました。
 都が素直に応じたのは、女の身での鎧をつけての強行軍は、やはり辛かったからなのでしょう。
 そして夕食の残りを差し出すと、余程お腹が空いていたのか、がっつくように食べました。

「ねぇお願い。今からでも、オルレアンの砦に行くのは諦めて」

 食事を終えて一息入れた後に、都の方から切り出しました。

「どうして盗賊風情を警備隊長の貴方が庇い立てするんですの?」
「まろんは、ただの盗賊じゃないわ」
「魔女だそうね」
「そういう噂もある。でも、それだけじゃないの」
「どういう事ですの?」
「彼女達は、罪も無き旅人や街の人からは絶対に何も盗らない。狙うのは、悪徳商人や海賊達ばかり。盗ったお金やお宝も、困った人達に配っているらしいわ。街では盗賊じゃなくて、怪盗まろんと噂しているわ」
「義賊気取りですのね。でも、それならどうして人質なんて取るんですの?」
「それは……。ここだけの話よ。まろんは、自分達にはもう関わらないで欲しい。決して良民には迷惑はかけないからと。自分達が神から与えられた使命を果たしたら、王子は返すと」
「神の声を聞いたと言うんですの? 神の声は教皇様にしか聞こえない筈ですわよね」
「そうよ。だから、彼女は悪魔の声を聞いたのかもしれない」

 そう言うと、都は俯いてしまいました。
 焚き火に照らされたその表情から、まだ何か裏があると弥白は感じます。
 しかし、それが何であるのかは弥白にも判らないのでした。

「ならばそれを確かめる為にも、是非とも怪盗まろんさんとやらにお会いする必要がありますわね」
「でも、オルレアンの砦にどうやって行く積もり? 今までの討伐隊は砦にたどり着く事すら出来なかった」
「国王陛下も同じ事を言っていましたけど、どう言うことですの?」
「文字通りの意味よ。砦は見る事は出来るけど、決して辿り着く事は出来ないそうよ」
「高等な魔術……」
「かもしれない」
「魔女ですものね」
「違うわよ!」

 都は、何故か強く否定しました。その態度に、まだ何か裏があるように感じましたが、深く追求する事はしませんでした。
 夜も更け、明日に備えて一同は寝ることとしました。



「姫様、起きて下さい」
「ん……。おはよう、神楽」

 翌朝、神楽に起こされて弥白は目を覚ましました。
 時刻はちょうど日が昇った頃。

「あら? 隊長さんは?」
「それが……これを残して」

 神楽は、一枚の紙を差し出しました。
 それには、こう書いてありました。

「弥白様

 盗賊団の事も気になるけど、街の方も心配なので帰ります。
 盗賊団と王子の事は宜しくね。
 無理だろうけど。

                         都」

「随分あっさりと帰りましたね」
「そうですわね。てっきり、ずっとついて来るかと思ってましたのに」
「あの副官、少し頼りなさそうでしたから……」
「それもそうね」

 二人は、昨日の酒場で会った水無月とかいう副官の顔を思い出して笑います。
 身支度を整え、二人がオルレアンの砦目指して出発したのは、それから半時が過ぎた後の事でした。



「えーもう帰っちゃうの都? もう少しゆっくりしてってよ」
「何言ってんのよまろん。あたしには街の警備隊長っていう大事な仕事があるんだから。盗賊のあんたとは違うの」
「えー酷い」

 ここは、オルレアンの砦の中。
 砦の中にある寝室で、ベットから降りようとしている警備隊長の都に声をかけたのは、世間を騒がす怪盗まろん。
 怪盗まろんの正体は、都と同い年位の少女なのでした。

「そんなの副官がいるじゃない」
「あいつは家柄だけで頼りにならないから心配なの。とにかく、今度来る敵は舐めちゃ駄目よ。今日はそれだけ言いに来たの」
「判ってるわよ」

 都は答えながらも服を着て、素早く身支度を整えます。
 準備が整った頃、部屋のドアがノックされました。

「はぁい」
「失礼します」

 入って来たのは、黒い服を着て盲目なのか目を瞑った少女。
 年の頃は、まろん達と同じ位でした。
 その子を見た瞬間、都の表情が一瞬だけ険しくなりますが、すぐに元の表情に戻ります。

「どうしたのツグミさん。こんな朝っぱらから」
「あの……」

 ツグミと呼ばれた少女は、都の方に顔を向けて、何か言いにくそうです。

「ゴメン。仕事の話でしょ。あたし、もう帰るからごゆっくり」
「ああ、待ってぇ」

 まろんは引き留めましたが、都はさっさと寝室から出て行ってしまいました。

「もう…いつも突然来て、すぐに帰っちゃうんだから、歓迎の用意も出来ない」
「昨晩もお楽しみだったようですから、良いのではないでしょうか」

 ツグミは冷たく言いました。

「え?」
「砦中に響き渡ってましたよ。貴方達の声」
「嘘……。声は出してない筈なのに」

 まろんは頬に両手を当てて、頬を赤く染めました。

「やっぱり、お楽しみだったのですね。その様子だと」
「あ…ひょっとして引っかけられた? 私」
「そうでもありませんよ。寝息とは違う息づかいや物音で、大体の様子は判ります。相変わらずおさかんなのですね」
「ごめんなさい……」
「日下部さんは、私の事はもうどうでも良いのですね」
「都は幼なじみだから腐れ縁。私の一番はツグミさんだけよ」
「その台詞、都さんにも言ってましたね」
「ゲゲ……もう、敵わないな。ツグミさんには」
「本当にそんな事を言っていたんですか?」

 まろんは、またまた自分が引っかけられた事に気がつきました。

「ごめんなさいツグミさん……」
「もう、相変わらず気の多い人なのですね」

 ツグミはそう言うとむくれました。

「そ、それで朝から何事なの?」

 まろんは誤魔化すように、ツグミに聞きました。

「そうでした。この砦にまた誰かが近づこうとしています」
「えっと、女騎士とその従者の二人連れでしょ」
「よくご存じですね」
「さっき、都から聞いたから。街の警備隊長が幼なじみってのもこう言うとき便利よね」

 そう言うと、まろんは舌を出しました。



「砦が見えて来ましたよ」
「どうして誰も辿り着けないのかしら」
「それは、近づいて見れば判る事です」

 弥白と神楽の一行は、砦に向かって歩いて行きました。



「あれ?」

 気が付くと、二人は砦を既に通り過ぎてしまっているのでした。

「何時の間に通り過ぎたのかしら」
「戻ってみましょう」



「今度も……」

 やはり、結果は同じ。
 気が付くと、二人は砦を通り過ぎてしまっています。
 念のためもう一度砦に近づこうとしましたが、やはりいつの間にか通り過ぎてしまっていたのでした。

「これは……余程強力な魔導の術によって守られているようで」
「その様ですわね」
「どうします?」
「困りましたわね…。王宮魔導士を呼ぶ訳には参りませんし……」

 二人が腕組みをしたその時。

「お困りのようね」

 頭の上から何者かが話しかけて来たのでした。

「何者ですの?」

 見上げると、少女が空に浮かんでいるのでした。

「人間では無いな。何者だ!」

 神楽は剣に手をかけました。

「あたしは悪魔ミスト。あんた達に手を貸してやろうと思ってね」
「悪魔ですって?」

 ミストの言葉に、弥白も身構えます。
 しかし、剣に手をかける事はしません。
 それだけで無く、今にも飛びかかりそうな雰囲気の神楽を抑える事さえしています。

「それで、悪魔さんがこの私に何のご用ですの?」
「知っているぞ。山茶花大公国の第一皇女。許嫁が怪盗に捕らわれ人質とされているのだろう?」
「貴方には関係ありませんわ」
「それがそうでも無いのよ」
「どういう事ですの」

 弥白はどうやら敵意無しと見て、話を聞いてやる事に決めました。
 馬から下りて、地面に腰を下ろします。
 それを見て、悪魔ミストも地面まで降りて来ました。

「あの怪盗まろん、神の声を聞いたとかほざいているそうだな」
「それは実は悪魔の声だとの話も聞きましたわ」
「それが問題なのよ」
「噂話が?」
「そう。あたし達悪魔は、怪盗まろんとは無関係なの」
「それじゃあ怪盗まろんが聞いた声と言うのは……」
「本当に神が言ったものだとしたら?」
「まさか……」

(以下は「蜜柑星」です(ぉぃ)
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