プログラマの独り言(「官製談合」騒動)

 事業仕分けで話題となったスーパーコンピュータ「京(けい)」。世界一の「京」までいかなくても、コンピュータの存在意味はそこで動かすシミュレーションソフトウェアにある。

 ということもあって、ソフトウェア開発の、国の事業で不正があったとして、先日、一部マスコミをにぎわす事件があった。 

 国立大学から委託開発されるソフトウェアも、公共事業の御多分にもれず競争入札となるが、発注担当者と受注担当者に癒着があって不公平があったとの申立てを受けて、政府の調達苦情検討委員会が不正の事実を認定、契約破棄の勧告をした。(http://www5.cao.go.jp/access/japan/shori241019-j.html) 報道によると、極めて異例の事態だという。

 「お白洲」に苦情を申し立てた競合企業のA社は、委員会報告書も含め匿名扱いとなっているが、これを実名報道した朝日新聞については、その良識が疑われる。記事では微妙に「。」を入れて、非難されたときの姑息な逃げを打っているようだが、誤解を招く表現であることに変わりはない。(ちなみに、私の現在の勤務先もイニシャルはA社だが、上記のA社との関係は、ここでは言及しない)

 報告書にも陳述があるように、問題の受注業者Bの技術者は元々はA社に在職していたので、ウェブには「引き抜かれたハライセに訴えをおこしたのではないか」との邪推も見られた。しかし、実態は根が深い・・・とのことである。

 一つは、入札の手続きがフェアでないということ。委員会は「入札公示以前に特定の供給者と関係調達機関との間で仕様書の作成等に関するやりとりが行われていた」と結論している。B社は受注のための(会社規模などの)資格要件を、偽装してまで受注していたことが指摘された。

 また、あくまで一般論だが、転職前の会社で開発したソフトウェアを退職後に使えるように、在職中から画策するというのは、残された社員に直接不利益を及ぼす、仁義にもとる行為である。

 私も長年ソフト開発に携わってきたので、手塩にかけて作ったり改良してきたソフトへの愛着は分かる。しかし、どんなに自分のアイデアや工夫が盛り込まれていても、在職中の成果はその企業のブランドなり庇護なり給与があって育てたものである以上、個人のものにはできない。私も前職のF総研を辞するときは、泣く泣くおいてきたものだ。その後、それがぞんざいに扱われていると聞くと胸が痛む。今回の場合、A社は体制を整えて穴を埋め、引継いだソフトウェアをしっかり育てている・・・ときく。

 さて、そもそもの話、国の予算をかけてのシミュレーションソフトウェア開発について、蓮舫さんに「海外のソフトがあるのに国産にこだわる必要があるんですか」と言われそうだ。技術計算のソフトウェアは、産・学の研究開発の基盤となる道具だが、「汎用ソフト」は数あれど「万能ソフト」はないのが」実状である。いかにハードウェアが進化しても、数値シミュレーションは所詮近似であり、扱う現象によって使用するソフトウェアは使い分け、柔軟に作り直す必要がある。となると、ソフトウェアの中身を熟知していなければならない。まさに、一流の職人が自分の道具から作って改良を加えていくのと同じだ。

(2013.2.1)


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