あの世行きの話

 地下鉄の車内広告をボンヤリながめていて「東京都自殺相談ダイヤル」というのにドキッとした。言わんとすることは分かるが、人生相談で「就職相談」といえば就職を実現するためのアドバイス、「結婚相談」といえば結婚を実現するためのアドバイスであり、その流れで言えば・・・

 正しく「自殺したくなったときに思いとどまるための相談ダイヤル」では長すぎるし、プラス思考で「明るく切り替える」などと言っても、思い詰めている人の目に留まらないだろう。

 こんな些細な表現に目が行ったのは、最近小学校の同級生が亡くなったからかもしれない(自殺ではないが)。よほどの親友かご近所でなければ普通疎遠になるところだが、律儀に同窓会を開いてきて、コロナ禍で自粛になる前年の同窓会でも話したところだったので、その急死はショックだった。

 教会で開かれた追悼会で、友人代表が、酒も女性も好きだった故人に対し、往年の「天国に行った酔っぱらい」にちなんで、「神様に天国から追い返されて来い」と挨拶していたのには、同世代の一同が共感していた。

(以下、ジェフリー・ディーヴァーの新作や映画007の新作のネタバレあり)

 ミステリー作家ジェフリー・ディーヴァーの新作はカルト教団を扱っていて、信者に明るい来世を信じ込ませて自殺を前向きな「旅立ち」と思い込ませる悪徳教団が登場する。

 私は両親仕込みの無神論者なので、もっと命を大切にすべきだと思うのだが、先の追悼会で牧師さんが「主は死後の居場所を用意してくれている」と(心の安らぎのために)語るのを聞いて、危うさを感じた。「信じる者は救われる」と思うが、今あることを軽んじてはいけない。

 話は変わり、コロナで上映が延期されてきた映画007の新作を見た。よりによって生物兵器(遺伝子操作したウィルス)を使って世界支配を企む陰謀の話なので、なるほど上映が難しかったわけだ。ノーテンキな展開を期待するオールドファンとしては、主演がダニエル・クレイグに代わってからはシリーズで話がつながって込み入ってきて鬱陶しくもあった。

 その配役最後の本作では、感染に絶望した主人公が自殺同然に要塞の爆発に身を投じた。「おいおい、殺しちゃったよ」。ミッションインポッシブル第1作早々、原作のスパイ大作戦でありえないグループ全滅を見せられた時同様に腹立たしかった。007お決まりのエンドロール最後の「James Bond will return」が出るのがもどかしかった。

 ジェームス・ボンドも、ぎりぎりで自殺相談ダイヤルに救われたのだろうか。

(2021.12.8)


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